バンコクマダム連載コラム『タイ生活』より  第13話・・・「社会科」


私の両親は、わが子の前で決して先生の悪口を言わなかった。
私や妹がお世話になった多くの先生方の中には、親として気に入った先生も、気に入らなかった先生もいたことだと思う。
しかし、「親が子供の前で先生の悪口を言うことは、子供の先生に対する信頼を根本から失くしてしまう・・・」という考えから特に気を付けていたようだ。

その父が、当時小学生だった私たちの前で、妹の担任の先生に電話をかけ、大声で怒ったことがあった。
どういう意図でかは分からないが、小学二年生だった妹のその日の宿題は、「親の給料がいくらか聞いてくる」というものだった。(その先生の気まぐれで出された宿題のようであったけど)
父は、翌朝生徒たちが教室で「おまえの親の給料なんぼや?」と比べ合い、その多い少ないで子供たちの間に問題が発生することを憂いていたし、そのことに対する先生の回答が余りにも配慮のないものだったようで、滅多に声を荒げない父の大声が心に強く残っていた。

ところがどっこい!ところ変われば!!である。
タイの学校に通う娘たちの小学校の2年生の社会科の宿題で、
出たーーーーーっ!給料を聞いてくるという宿題。
これは、担任の先生の気まぐれなんかではなく、書き込み式の社会科の教科書にちゃんと表があって、その人との間柄・職業・月給が数人分書き込むようになっている。
タイでは、知り合って間もない人から気軽に「給料いくら?」なんて質問をされて「ええっ!」とひるんでしまうことがよくあるけどタイ人的には「そんなん何でもないことやん」感があるのだろう。

時を同じくしてこんなことがあったのも社会科の宿題だ。
その時は、「宗教」。
両親の信仰する宗教を聞いて教科書に書き込むというもの。
「お父さんが信仰しているのは何教?」
「仏教。」と即答した夫。
続いて、
「お母さんは?」
私は正直に
「お母さんは、何教も信仰していないから『なし』って書いといて。」と答える。
すかさず夫が
「宗教が『なし』の人間なんていないっ!」と。
私もまたバカ正直に
「います。います。ここにいます。私は、何教も信仰してないよ。」

「バカも~んっ! タイでは、宗教を持たない人間は一人前の人として認められないから『なし』なんて書いたら娘が笑い者になるだけだっ。」

「えええーっ。」
私は、信仰もしていないものを「している」なんて言うのはものすごい嫌だーっと思うタイプなのだ。
けれど、『なし』と書いて子供がバカにされるんだったら困る。
「もーっ、しゃーないなあ。『仏教』って書いといて。
 でも、お母さんは、何教も信仰してないでっ!」
と念を押して一応仏教にしておいた。

タイでは、色んな書類に宗教を書き込むところがある。
信仰もしていないのに「仏教」と書かせていただくことしばしばだ。



❁お読みいただきありがとうございます。❁
これは、タイのフリーペーパー『バンコクマダム』に2013年から連載させてもらっているコラムをちょこっと編集し、まとめておきたくて書き留めています。



思う存分サポートしてやってくださいっ。「よ~しっ!がんばるぞ!」という気になってもっとがんばって書きます。