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刑務所は再犯生産工場?

◉桜ういろう通信社こと共同通信社が、とても興味深い記事を、掲載しています。懲役3年の実刑判決を受けた河井克行元法務大臣への、ロングインタビュー。たぶん本音としては、厳罰化の流れとそれを容認する世論を止めたいという部分でしょう。できれば、死刑廃止論にもつなげたいのでしょうけれど。その思惑とは別に、河井氏の証言は情報として有用です。

【史上初、入獄した元法務大臣の河井克行氏が見た刑務所の世界 「次は良い大臣になるよ」その言葉の真意とは?】47News

 
首相官邸のレッドカーペットから一転、寒風吹きすさぶ四畳一間の独房へ―。2019年の参院選広島選挙区での買収事件で妻の河井案里氏とともに逮捕され、懲役3年の実刑判決を受けた河井克行氏(61)。法務大臣経験者が受刑者になった史上初めての事件で、昨年11月、仮釈放された。

 法務省のトップといえば、日本全国の刑務所のトップでもある。そんな法務大臣・副大臣を歴任した河井氏の目に、刑務所の中はどう映ったのだろうか。何か得がたい経験はあったのか。そして現在、妻・案里氏との関係は。

 今回、逮捕後初めて、共同通信のインタビューに応じた河井氏。「多くの気づきがありました。次、法務大臣になったら良い大臣になるよ」と、冗談とも本気ともつかないような言葉を口にする。真意を聞いた。(共同通信=武田惇志)

https://nordot.app/1211910352128279184

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、刑務所の独房のイメージイラストです。


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■再犯者率は半数近く■

詳しくは、上記リンク先の全文を、ぜひお読みいただくとして。日本の懲役刑というのは、自由を奪って苦しい思いをさせる、という部分が昔から主でした。しかし、自分自身も懲役経験が豊富な安部譲二先生が、エッセイなどで書かれておられましたが、再犯で再び刑務所に戻ってくる人間は、半分近いとか。最初の入獄で懲りるか、二犯三犯と罪を重ねていくか、どちらかに別れるようで。

刑法犯検挙者中の再犯者数は、2007年(平成19年)以降、毎年減少しており、2020年(令和2年) は8万9,667人であった。 一方、再犯者率は、初犯者数が大幅に減少していることもあり、近年上昇傾向にあり、2020年は、 49.1%と、調査の開始(1972年(昭和47年))以降過去最高であった。

https://www.moj.go.jp/content/001341447.pdf

刑務所に入れて、自力で反省しろ、あとは知らんでは、結果的に更生できない人間は、再び犯罪者として野に放たれるわけで。池波正太郎の『鬼平犯科帳』で知られる、火付盗賊改方の長谷川平蔵宣以は、犯罪者の社会復帰を促すために、松平定信に人足寄場設置を建言。石川島に加役方人足寄場を設け、無宿人や浮浪人、刑期を終えた囚人らに、大工・建具・塗物などの生きていくために必要な職人の技術を修得や、土木作業や農業をさせ、更生を促したわけで。むしろこの部分が、高く評価されています。

■必要なのは更生支援■

さらに人足寄場では月に3回、三のつく日の暮六つ時から五つ時まで2時間ほど、石門心学の大家・中沢道二の講義も実施していたとか。落語の『天災』という演目にも心学の先生が登場しますが、当時は仏教・儒教・神道の教えをミックスして、平易に説く心学は、無宿人や浮浪人などにとっても、理解しやすかったのでしょうね。もちろん、人足寄場は現代の間隔からすれば、かなり強権的な場所ではありましたが。それでも当時としては画期的な、更生支援施設と言えるでしょう。

「刑事政策は、総じて厳罰化の方向なんですよ。厳罰化すれば犯罪が減る、抑止されるっていうね。僕も副大臣の時に役人からそう聞かされていましたが、実際に受刑者の立場になり、同衆の話を聞き、現実が見えてきた。皆、実刑判決を受けた段階で、塀の外とのつながりを失っているんです。もちろん、『そうなったのはおまえたちが罪を犯したからだ』と言われたら、それまでです。でもね、この人たちをずっと塀の中に閉じ込めておけるわけじゃないでしょ。刑期の長短はあるにしろ、いつかは社会に返すわけです。例えば、さっきJR山手線で、あなたの横に座っていた人が出所者だったかもしれないわけですよ。現に、出所者である僕自身、都内を自由に歩き回っていますよ」

日本では年間に約200万人が検挙され、うち約3万人が刑務所に収容され。収監者の総数は、ほぼ4万5000人弱とのこと。1億2500万人の総人口からすれば、0.036%ほどと、犯罪者自体の数は、決して多いわけではないのですが……。ほとんどの受刑者は、ションベン刑と呼ばれる、数年以内に終わる短い刑期なのでしょう。新聞を賑わすような重大犯罪は、他国と比較してもそれほど多くはない。でも、人口がこれだけ多い国だと、やはり犯罪者の数は膨大なものに。更生支援が大事な要素に。

■京アニ事件との関連■

この共同通信社の記事ですが、執筆された方のポストが流れてきました。京都アニメーション放火殺人事件で、大量の死者を出した犯人が、河合元法相と同じ喜連川の刑務所に入所していたとのこと。偶然ですが、奇妙な縁(えにし)だなと思います。元法務大臣も何度も刑務所に入った放火犯も、同じ場所で服役というのは、ある意味で平等といえば平等なんですが。個人的には、あの犯人は育成環境によって、コミュニケーション能力を上手く発達させられなかった部分はあったと思います。ある意味で、コミュニケーション能力は、親との関係性で育まれる部分があり。

京アニ事件の発生時の取材に関わった人間として、青葉被告の凄惨な再犯をなぜ防げなかったのか?というテーマを細々と続けています。
河井元法相が彼と同じ喜連川の刑務所に入所していたと知り、その観点で取材しました。

入獄した元法務大臣の河井克行氏が見た刑務所の世界

https://x.com/kouryo_authors/status/1843484109726986655

そういう部分に難がある人間には、基本的な教育からやり直さなければならず。でも、日本の刑務所に、そんな能力も人材も予算もなく。犯罪を犯す人間には、そういう境界知能の疑いがありますしね。職人的に、他人とあまりコミュニケーションしなくても良い商売は、あるのでしょうけれども。出所後に、ちゃんと食える商売を教えているかといえば、そこはわからないですね。刑務所で士師業につけるスキルが身につくかといえば、そこは難しいでしょう。そこにリソースを割くより、シャバと刑務所を行ったり来たりする人生のほうが、官も本人も楽と思っていたり。けっきょく、この国の根本部分として、教育からやり直さないといけないのでしょうけれども。

■貧弱な図書環境問題■

たしか日垣隆氏の著書だったかで、引用されていましたが、愛媛の少年院の統計では、
 中卒>高校中退>高卒>大学中退
の順に、入所者の数が多いとか。学歴を積み上げた人間というのは、それを台無しにしてしまう犯罪に手を染めてしまう可能性が、どんどん低くなってしまうということです。逆に言えば、社会からドロップアウトをさせず、コツコツと学業を積み重ねさせ、犯罪は割に合わないと思わせる状況を作ることが、重要です。もちろん、河井克行氏のように慶應義塾大学法学部政治学科卒で大臣までなっても、前科者になってしまう人間は、一定数出るのですが。出版業界に長くいる身としては、こちらのお話も重要です。

「図書計算工場」での発見は、他にもある。獄中で資格を取得して社会復帰に生かそうと考える受刑者は多いが、肝心の本がないのだ。
 「受刑者から請求が来たら、資格関係の参考書や問題集を貸し出すんです。ところが簿記の問題集を見ると、相当古いし、3冊程度しかない。しかし当時の受刑者は約1400人いました。だから請求に対して、いつも『貸し出し中』と返事を書かざるを得ない。実に心苦しかったですよ。せっかく資格を取ろうと前向きな気持ちになっても、情報が得られないんですから」
 また、書籍は注文して購入することができるが、刑務所と契約している書店に注文すると、かなりの確率で「品切れ」だったという。

同上

これは由々しき問題ですね。自力更生しようとする意識があっても、刑務所側がその対応を十分にできていない、ということですから。死刑廃止運動とかやってる人は、こういう本を寄付する運動でもやったほうが、よほど有益なんでしょうけれども。やらないでしょうね。個人的には、クールジャパンとかアホな金をかけて、秋元康氏らに食い物にされるぐらいなら、出版社の印刷書籍の、電子書籍化の援助や補助をしたほうが、よほど良いかと。今さらDTPを学べないという出版社に対して、書籍のデジタルデータ化を反した段階で補助するシステムのほうが、よほど良いでしょう。そして、電子書籍ならタブレットの貸出で、貸出中や品切れはないでしょうし。

こういう部分も含め、社会全体を根本から変えていかないといけないのでしょうね。


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