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帥升は吉野ケ里の王か?

◉西暦107年、後漢王朝朝貢した人物が、中華の歴史書である後漢書東夷伝に記録されています。日本の外交と言うか国際社会へのデビューは、文献上は西暦57年に、奴国王が記録されていますが、名前は不明。倭王・帥升から始まります。でも普通に考えれば、中国と交渉するにあたって、どうやって意思疎通をしていたかという疑問があります。そう、通訳かバイリンガルの人間が、間に入っていたということです。

【中国歴史書に登場、最初の日本人「帥升」 弥生時代の吉野ケ里の王か 邪馬台国論争に一石】佐賀新聞

 中国の歴史書に名前が登場する最初の日本人、倭国(わこく)の王「帥升(すいしょう)」は弥生時代、吉野ケ里のクニの王だったとする説を、佐賀城本丸歴史館の七田忠昭館長が発表した。邪馬台国の卑弥呼(ひみこ)よりも100年以上前の時代の王で、邪馬台国九州説を裏付ける意味もあり、長年の論争に新たな一石を投じそうだ。
 新説は新たに発刊された「上峰町史」に掲載した。七田館長は根拠として、吉野ケ里周辺に残る地名や、出土した中国鏡の存在などを挙げている。

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、吉野ヶ里遺跡の写真です。なんでもあるもんですねぇ。

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■朝貢と遠交近攻■

日本の国際社会へのデビュー自体は、後漢の第6代皇帝の安帝の頃。西暦25年に光武帝が後漢王朝を興して82年、世代が入れ替わってだいぶガタが来た時代です。実際 この時代には飢饉や反乱などが頻発し、安帝の治世は即位した年に西域で反乱が勃発し、帥升の朝貢は即位の翌年です。朝貢というのは誤解されている面もありますが、別に臣下になったり属国になる訳ではありません。中華人民共和国は意図的に、そこを混同するような言説を撒き散らしていますが。

中国の有名な兵法で、遠交近攻があります。領土紛争が起こりがちな近隣の国を牽制するため、隣国の隣国、つまりく離れた国と国を結び、くの国を挟撃──挟み撃ちにして撃する。少なくともそうなるぞと、相手を威嚇することができるわけです。だから、朝貢はそういう国との外交アピールによる、国内向けのパフォーマンスです。表向きは、皇帝の徳を慕って蛮族が貢物を持ってきたという体裁にしてありますが。

■衰退する後漢王朝■

帥升の朝貢も、後漢王朝の国内的な理由が大きかったと思われます。西暦184年には黄巾の乱が起き、220年には公的にも滅びます。この黄巾の乱で、後漢王朝の人口は、3分の1とも10分の1 とも言われる大激減を起こします。そう考える、帥升の朝貢は、後漢王朝が衰退に向かう後半の時期に、行われたのがわかります。同様に、卑弥呼の魏への朝貢も、新興国が体外的なアピールのために要請した可能性が見えてきます。

帥升の倭国も卑弥呼の邪馬台国も、おそらくは北部九州の政権だったと考えられます。たぶん、福岡から佐賀にかけての平野部に発達したであろう、小国。現在だと県レベルの国でしょうね。しかし、邪馬台国と対立していた狗奴国がおそらく、球磨川流域の地域の国であることが、重要です。こちらは、江南地方の呉王朝と交易があり、こちらを牽制する意味でも、倭国は重要なポジション。どうやら、倭国を実際より南方と勘違いしていたフシも。

■対中華コンプレックス■

近年のプラントオパール などの研究から、日本列島には 6000年前にすでに稲作が伝わっていた可能性があります。長江下流域、現在の浙江省の河姆渡遺跡で、7000年ぐらい前には稲作が始まっていて、漁労農耕民が船に簡易型のカマドを積んで漁に出ていたのがわかっています。日本人が思っている以上に古くから、大陸との交流はあったんですね。狗奴国が呉王朝に朝貢してたら、日本史のイメージもずいぶん 変わったでしょうけれど。

卑弥呼はたぶん姫子、姫巫女の役職名で、帥升も名前ではなく役職名だったでしょう。この帥升の国際社会デビュー以降、日本が外交の場で注目されるのは戦争の時だけだったんですけどね。白村江の戦いや元寇、秀吉の朝鮮出兵、日清戦争など。日本の政権を見ると、やはり 古代中国の王朝から攻められる危険性を感じて、初期は日本海側に勢力があっても、瀬戸内海側や内陸地域、あるいは太平洋側に都を置く感じになっていますね。

邪馬台国の東遷と大和朝廷の成立も、対中華の文脈で考えるべきでしょう。日本にとって国際社会とは、中華文明とその周辺の、東アジアのごく限られた地域が世界の全てだったのですから。そもそも日本という国号自体が、西の中華王朝に対して日輪が昇る大本、というアピールの国名。国粋主義者にとっては不愉快でしょうが、対中華コンプレックスの発露。日本はずっと、西の中華王朝を脅威に思っていたのですが、ペリーの来航によって、東にも強大な敵がいることに気づいたのですが。

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