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アニメ業界の悪習打破

◉アニメ業界も、ブラック企業の代名詞のように言われますが。自分はこの点については、疑問を呈してきました。スポーツ選手や駆け出しの芸人と同じで、新人のギャランティが実績のあるベテランと同じはずもなく。事実、30代からはそこそこ普通の収入になりますからね。しかも、80代になっても現役の人がいる才能商売です。ただ、一流のアニメーターはアメリカのように数千万円の収入があってもいいと思ってるので、その点では不満です。そしてようやく、内部から変わってきつつあります。

【「呪術廻戦」制作会社が挑むアニメ業界の悪習打破 MAPPAが「チェンソーマン」に100%出資した狙い】東洋経済オンライン

5月22日発売の『週刊東洋経済』は「アニメ 熱狂のカラクリ」を特集。アニメ産業において、作り手である制作会社は「儲からない」立場と言われている。現在主流の「製作委員会」方式ではテレビ局や広告代理店が出資者となる一方、制作会社はあくまで製作委員会からお金を渡されて制作を請け負う下請けであることが一般的なためだ。

しかし、その立場の変革を試みる制作会社がある。2011年設立のMAPPAは、「呪術廻戦」や「進撃の巨人 The Final Season」などを手がけ、現在、最も勢いに乗る制作会社の1つである。

同社が集英社「少年ジャンプ+」で連載中の人気漫画「チェンソーマン」アニメ化にあたっての製作費を100%自社で出資すると表明すると、その異例の挑戦に業界はざわついた。MAPPA代表取締役の大塚学氏に、その狙いや背景にある業界への問題意識を聞いた。

https://toyokeizai.net/articles/-/672004

ヘッダーはMANZEMIのロゴより、平田弘史先生の揮毫です。

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■手塚治虫戦犯説の嘘■

そもそも、1970年頃の大卒初任給は3万9900円で、今の額に換算すると14万3568円程度だそうです。その当時、原画マンの収入が20万円。5倍の稼ぎだったわけです。4大進学率が15%の頃の話です。今だと60万円もらってたわけです。虫プロは東映動画のスタッフに対して、向こうの倍出すと引き抜いていたそうですから。しかも、東映動画には高卒と大卒で明確な待遇の差別があったそうですから。

そういう意味では、この虫プロ台頭機の頃が、アニメーターの待遇も良かったのでしょうね。東映も結果的に対抗のために変わり、歩合制のおかげで社長以上の給料のアニメーターもいたという話もありましたね。確証はないですが。少なくとも、アニメ業界の貧乏体質が、手塚治虫先生と虫プロのせいだというのは、現在では否定されたと言って良いでしょう。では何が問題かといえば、人によってバラバラですが。

■製作委員会方式の闇■

この記事でまず重要なのは、『権利の細かい手続きやライセンシング、商品企画など、従来は製作委員会側がやってくれたような仕事を経験したのは良い勉強になっている。大きな制作会社だったら、そうした経験はすでにあるのだろうが。』という部分でしょうね。複数のスポンサーの出資によるリスクの分散、制作資金調達を容易にするために製作委員会方式が採用されるのですが。これが、日本のアニメ業界の貧乏体質の諸悪の根源だという指摘が、GAINAX元社長の岡田斗司夫から出ていますね。

こちらの記事では、一種の業界ゴロの存在を、匂わせていますが。でも、アニメって博打ですからね。毎年、数多くの作品がテレビで放映されていますが、全部が全部面白いわけでもなければ、ヒットして黒字が出ているわけでもありませんからね。リスクを回避したら、利益が薄くなるのは当然ですね。ローリスク・ローリターン、ハイリスク・ハイリターンが世の常ですから。ハイリスク・ローリターンがあるなら、業界の中の人が原因を明示し、改善すべき。

元アニメーターの漫画家とか、アニメーターになった教え子とかにも、業界の育成力のなさは、よく聞きます。なにしろ、マンガ学科を出て、アニメの知識がほぼない人間が、アニメの専門学校で2年学んだ人間より、技術があったりしますから。これは、斉藤むねお先生の実兄夫妻がアニメーターで、漫画でもアニメでも共通の基礎技術を、体系化してるからで。

■人材育成の困難さ■

ただ、漫画業界も育成力がないので、アニメ業界だけではないんですけどね。CLIP STUDIOのセルシス社の推計で、漫画家は全国に3000人から6000人しかいない商売です。大相撲の力士やプロ野球選手、オリンピック選手ほどではないですが、才能の世界ですから。ちばてつや先生の漫画をじっくり読んで、見様見真似で描いたら高校生でデビューしちゃうような、天才たちの世界なので。才能がない人をどう育てるかなんて、わかるはずもなく。

だからこそ、トキワ荘プロジェクトのデビュー率が約20%(入居者641人でデビュー136人)というのは、奇跡的なんですけどね。だって専門学校とか大学のマンガ学科のデビュー率、10%どころか5%もないでしょうから。ちなみにMANZEMI講座は、トキワ荘プロジェクトよりもデビュー率は高いです。アニメ業界も、自分で描くのは天才的に上手くても、教える才能はまた別ですからね。だから、新人が淘汰される過程で貧乏になる。

記事では育成に関しても、MAPPAさんは『最初に研修期間を設けた上で本番に入っていく形式をとっている。』とかなり力を入れているようですが。『年々、研修内容をバージョンアップしているが、それでも満足のいくレベルには達していない。』と、まだまだ満足な結果には至っていないようです。業界内部の反応も、ちょっと冷ややかというか、懐疑的ですね。

コレに対して、西位輝実氏の意見は辛辣です。

内部の人の指摘は重いですね。専門学校出はすぐ使えないと、ぶちぶち文句ばかり言う割には、その専門学校を改善しようと、業界自体が動いてないわけですから。教育するためのノウハウが、個人の名人芸になっているのだろうなと、推測できます。

■インハウス化の流れ■

けっきょく、自前で金をかけて社員を育成し、育った後も継続的に雇用する形にせざるを得ない。利益を得るためには、人材育成という投資も必要。内製化=インハウス化は、時代の必然なのでしょう。インハウス化については、こちらのnoteでも言及していますが。京都アニメーションやufotableといった制作会社が、先駆けて社員登用して、BAKKEN RECORDなども続こうとしているわけです。DMMもアニメ制作会社設立で、参入ですし。

庵野秀明監督のスタジオカラーは、社員に関しては解りませんが、自己資金での作品制作に舵を切っています。そのために、不動産に投資して安定した収入が得られるように、経営の面でもプロが加わっているのが見えます。エヴァンゲリオンのような、キラーコンテンツを持っていれば、可能ですが。キラーコンテンツを持っていても、アニメ業界は経営のプロもいなかったので。作品 さえ作れれば幸せというのが アニメーターでしょう。でも、教育と経営大事。

コンテンツビジネスという点に関して言えば、マンガや ライトノベルでヒットした作品をアニメ化するのも、ある種のリスク回避です。その分、原作者やその作品を世に送り出した出版社に、取り分が回るのは当然であって。それが嫌なら、リスクを取って自社独自コンテンツで、勝負するしかない。ハイリスク・ハイリターンです。ただ、才能というのはやはり、絶対数は限られており危険な賭けではあります。

■さらば共産趣味時代■

しかし京都アニメーションはそうやって、独自レーベルを立ち上げて『バイオレット・エヴァーガーデン』を成功させたりしていますし。たった一人の狂人のせいで、36人もの才能が奪われ、京アニ大賞は止まっていますが。そういうリスク管理も含めて、アニメーション業界自体が経営のプロになることが求められているということでしょう。これは漫画業界も同じなので、似た部分が多い業界の人間としては、ずっと注視しています。

アニメ制作スタジオが文芸部門を持ち、脚本家を育成することも含めて、インハウス化する必要はあるでしょうね。昭和の時代の共産趣味の老人たちが去り、若い世代が業界を改革することが大事。令和の時代の課題でしょう。そうなると日本版CNCとか、ろくなヒット作も作れないくせにアニメをバカにしてるお芸術映画界隈から、利益を守ることも今後、必要になってくるでしょうから。法務なども知的財産権の専門家の弁護士育成も必要でしょう。

自分は、アニメ制作会社は次第に出版社化すると思っています。京都アニメーションはその意味で、手本となるでしょう。同時に出版社も、大手は資本力を生かしてアニメ制作会社を子会社に持つようになり、自社のコンテンツを自前でアニメ化し、収益の安定化を図るでしょうね。才能に対して正当な対価を出す社会が出現するならば、いいのですが。必ず業界ゴロが出て、搾取しようとするでしょうけれど。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

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