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Appleとストーリーの力

◉Appleは、広告を発信するのは上手いんですが、広告スポンサーを集めるのは上手くない、という印象がありました。ブランド力を過信した、殿様商売の部分がありましたから。しかし、2019年には5億ドル未満だった広告ビジネスが、2022年には推定40億ドル(約5400億円)へと急拡大したそうで。3年で8倍。どんだけ急成長してるんだと思うんですが、これはなかなかにスゴイ話ですね。

【Appleが「ストーリー」を武器に競合他社を蹴落として広告事業を伸ばした巧妙な戦略とは?】GIGAZINE

Appleの広告ビジネスは、業界を激変させたと言われるプライバシー規定の「App Tracking Transparency」を導入して以降、爆発的な急成長を遂げており、近年は「プライバシーを理由に他社広告を制限して自社の広告ビジネスを拡大している」との批判も目立つようになりました。そんなAppleがどのような方法で競合他社を出し抜き自社の広告ネットワークを拡大させたのかについて、ライターのネイサン・ボー氏が一連のツイートの中で語っています。

https://gigazine.net/news/20220823-apple-ad-networksmall-businesses/

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、リンゴのイラストです。

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■暖簾に傷がつく■

詳しくは上記リンク先をお読みいただくとして。記事中では「ストーリー」と表現されていますが、これは物語とか話の筋といった意味よりも、日本語の〝暖簾〟みたいな意味のほうが、正確かもしれませんね。老舗の商家はよく「暖簾にかかわる」と言いますが、アレです。要するに、企業が持つ顧客からの信用・信頼感みたいなもの。ブランドイメージという言い方だと、またちょっと違う気がします。消費者は高い・安いといった即物的な部分だけではなく、無形の安心感みたいなものを買ってる面があります。

ノンブランドの商品よりも3倍高い有名ブランドの商品を買うのも、この安心感ゆえ。安物買いの銭失い、なんて言葉もありますからね。それを日本では暖簾という言葉で象徴させたのですが。Appleは、他社が消費者のプライバシーを侵害しているのではという、疑いを持たれている状況を利用して、「Appleは消費者のプライバシーを守ります」というメッセージと、清潔感・透明感のあるイメージを発することで、結果的に広告ビジネスで大きく業績を伸ばしたわけで。

■美人コンテスト理論■

確かに、消費者のプライバシーを追跡すれば、それは大きな利益を生むメタデータになるのですが。どんな年齢で・どんな家族構成で・何を購入し・何購入するのを諦めたか、そこは次のビジネスを生むチャンスになりますから。Amazonとか、おすすめ商品は意外と当たりが多いのも、膨大なデータから導かれたデータですからね。しかも、いかにもなものではなく、「え? これを勧めてくるんだ……」という商品が多いです。ただ、これは一歩間違えば自分のプライバシーを監視されているようなもの。

ユーザーがトラッキングを拒否する割合が、95%以上に達したというデータがそれを示していますね。株価なんてのは、ある意味で幻想の投影。ここらへんは、経済学者のケインズが美人コンテスト理論に近いですね。玄人筋の行う投資は「100枚の写真の中から最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える新聞投票」に見立てることができると、Wikipediaで説明されていますが。自分が美人だと思う人ではなく、多くの人が美人だと思う人に投票する。

■Microsoft社の大失敗■

消費者も、本当に安心な企業よりも世間の多くの人間が安心だと思っている企業に、信用を寄せるという傾向はあるでしょうし。だから、倒産寸前だったAppleが巻き返してきた時、Microsoft社は比較広告で「Macは高い!」という広告を打ちまくったんですが。結果的にApple製品の高級イメージが高まり、利益率の高い1000ドル以上の市場をWindows機は、北米で失ってしまったわけです。そりゃあ、ライセンス商売のMicrosoftとしては、30万の高給機種1台が売れるより、10万円の機種3台が売れたほうが儲かります。

でもメーカー的には、30万円の機種1台の方の利益率のほうが、安価な機種3台より美味しいわけで。けっきょく、IBMはパソコン部門をLenovoに売り、SONYはVAIOを別会社にして、多くのメーカーがパソコン事業から撤退したり、難しい舵取りを強いられました。これは、Microsoftが安いというメッセージが別のストーリーを生む可能性に無頓着であったがゆえ。ホリエモンが寿司屋での10年の修業はバカバカしいと放言した時、自分はミクロソフトの失敗を思い出してしまいました。自分よりは遥かにお金持ちですが、ジョブズにもゲイツにもなれなかったホリエモンらしいな、と。

■広告でも生きた垂直統合戦略■

もう一点、興味深いのはこの点ですね。Appleは製品のハードウェアとソフトウェアの両方を開発する会社で、ここらへんがOSだけ提供している水平分業のMicrosoftとの違い。これはある時期はAppleに不利に動きましたが、スティーブ・ジョブズはこの欠点をむしろ活かす方向でMacの製品ラインナップを改変。それが、そこそこの部品の組み合わせでもトータルバランスで高い性能を発揮する=利益率が高くなるという状況を生み出し、倒産の危機を逃れます。

ボー氏は、iOS 14.5の巧妙さは「異なる当事者間でのデータのやりとりを禁じている一方で、単一のプラットフォーム内でデータがやりとりされることは禁じていない」という点にあると指摘しています。なぜなら、Appleこそがその単一のプラットフォームなので、データを外部に持ち出さなくても個人情報を十分に活用できるからです。

上記リンク参照

結果的に、iPhoneが爆発的に売れだすと、この垂直統合は強みとして発揮され、またAppleはCPUなども自社で設計するなど、垂直統合の度合いを高めます。けっきょく、この流れにGoogleやファーウェイなども追随しています。広告の世界でも、この垂直統合を生かしてくるとは。Appleという会社は、ナンバーワンではないですが、オンリーワンとしてユニークな教訓を与えてくれます。この企業を30年以上追いかけたことは、少なくとも自分には大きな価値がありました。寄らっば大樹の陰、を否定はしませんが。

個人的には、Amazonの広告ビジネス額130億ドルはともかく、Facebookの690億ドルってのはホント過大評価だなぁと思うのですが。どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

売文業者に投げ銭をしてみたい方は、ぜひどうぞ( ´ ▽ ` )ノ