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写研の書体がOpenTypeフォントに

◉やっと、ですか……長かったです。アラフィフのベテラン編集者としては、やっぱり若い頃から写研(写真植字機研究所)の書体に慣れ親しんでいて、モリサワの書体はあんまり好きじゃありません。丸ゴシック系のナールにしても、軽みのある太ゴシック系のゴカールにしても、滅多に使わないボカッシーもイナクズレにしても、やっぱり代替がない部分もありましたしね。もう、諦めていたので、このニュースは正直うれしいです。

モリサワ OpenTypeフォントの共同開発で株式会社写研と合意

株式会社モリサワ(代表取締役社長:森澤彰彦 本社:大阪市浪速区敷津東2-6-25、以下モリサワ)は、 株式会社写研(代表取締役社長:笠原義隆 本社:東京都豊島区南大塚2-26-13、以下写研)の保有する書体を、両社共同でOpenTypeフォントとして開発することに合意しました。

ただ、モリサワが写研の書体を取り込むとなると、ますますモリサワの一強体制が盤石になって、そこは辛いですね。ハッキリ言えば、写研は悪手ばかり打っていて本当に困った会社だと思います。モリサワに対抗できる会社に売れば、モリサワのボッタクリ価格の年間パスポートに対抗して、年1万円ぐらいのサブスクリプションなら、爆発的にヒットしたでしょうに。オッサン編集者にだけ語れる話でもしますか。

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■植字の歴史と変遷■

昔は、印刷の文字は鉛などで作った金属活字を職人が何百何千とある物からひとつずつ拾って、並べて組んでいました。今でも版を組む、組版という言葉に残っていますが。コレだと、職人技で大変だったし、文字がひっくり返っていたり、校正も大変だったのですが。写真植字、つまりネガフィルムのような文字を写真の印画紙に焼き付ける方法を開発したのが写研でした。これで一気に書体が増えました。

また大きさも、文字盤をレンズで拡大縮小するので、7級という小さな文字(1.35ミリ四方)から200級という大きな文字(50ミリ四方)まで、ひとつの文字盤で打てます。なので、爆発的に普及。自分が出版業界に関わりだした30年前にはもう、金属印字の職人さんは、大日本印刷などの一部所に残ってた感じでした。モリサワは、写研の共同創業者だった森澤信夫が、1948年に写研を離れ写真植字機製作株式会社を創ったのが前身。

自分が編集者時代は、写研とモリサワのシェアは90対10ぐらいで、お話になりませんでした。ところが、驕る平氏は久しからず。パソコンによるDTPの時代が来て、王者写研は進取の気風を失い、新たなジャンルに挑戦せず。逆に負けて失うものがなかったモリサワは、DTP(デスク・トップ・パブリシング=パソコン上での本作り作業)の時代に、一気に王者に躍り出たわけです。

■成功は失敗のマザー■

ここら辺は、大型コンピューターで圧倒的なシェアを誇りビッグブルーと呼ばれたIBMがパーソナルコンピュータの時代を予見できずMicrosoft社に覇権を握られたように。そのMicrosoft社がパソコンで90%以上のシェアを誇ったため、スマートフォンの時代に対応できずAppleに覇権を握られたように。そのAppleはスマートスピーカーでAmazonに大きく遅れを取ってしまったように。失敗は成功の母であるように、成功は失敗の遠因。

圧倒的な王者ゆえ、現状を手放したくない心理が働くのでしょうね。大艦巨砲主義から空母に切り替えた日本海軍はむしろ例外。諸行無常、栄枯盛衰、生々流転。いずれにしろ、王者から滑り落ちた写研は、跡を継いだ経営者がバ…ゲフンゲフン。時代を読む目がなかったのか、意固地になったのか、何度かパソコンの書体への移植が噂されたのに、けっきょくは実現しないまま、ズルズルと。このまま消えていくのかと、諦めていました。

バブルの頃、自分の購入したゴッホだかピカソの絵画を、死んだらいっしょに火葬して欲しいと遺言した ア ホ ン ダ ラ の ク ソ 野 郎 の 無 教 養 の 成 金 がいましたが。写研の後継者は、同じ愚行をやろうとしていたわけです。出版文化とか文化事業とか、そういう物への理解がなく、自分の親か祖父が創ったのだから消えようが廃れようが好き勝手にしようとしたんですから。

■写研の社会的責任■

でもまぁ、いずれにしろ、写研の膨大な書体自体が消えずに残るのはありがたいです。遅すぎましたが。10年前なら、編集者も使い慣れた写研の書体に戻ったでしょうに。しかも出版文化やモリサワの寡占状態など考えず、権利を売っちゃったんでしょうねぇ……ハァアアアア(深いため息)。それでも、無くなるよりは100倍マシですけどね。アドバイスするような人間もいなかったでしょう。

写研の本社ビルがもう無いとか、噂だけはSNS上では聞こえてきていますが、真偽は知りません。意固地になっていたトップが退いたのか亡くなったのか、それも知りません。知りたくもありません。でも、歴史のジャッジという物から、人間は逃れられません。何年後かに、今回の事の顛末や周辺事情が漏れてきたら、たぶん自分は批判するでしょうけれど。

新美南吉の名作に『おぢいさんのランプ』があります。時代がロウソクからランプに変わり、そこに文明の利器を感じていたのに、電気の時代が来て廃業したおじいさんの回想話ですが。写研の人達には、そういう名作は読んでいなかったのでしょう。遅きに失した感はありますが、IBMやMicrosoft社やAppleの栄光と失敗と並んで、語り継がれるでしょうね。それが社会的責任ってもんです。
どっとはらい


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喜多野土竜

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本業は編集者。今は原作者やライターや講師など雑多に収入源を広げてリスク分散中。 漫画を描くことや編集作業、DTP全般を教えてますが、述べて作らず。偉大な先人の言葉を拾い集めて、受け売りばっかりです。 http://www.studio-pug.com/