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無用者意識と承認欲求

このnoteを書こうと思ったきっかけは、小川さんのこのツイートからでした。

こういう達観というか、流されない意識は大事だと思っています。自分のやってることに大した意味はないという、ある種の達観を無用者意識と呼ぶのですけれども。ちょっとこのことについて、書いてみようと思います。 ※noteの機能も充実してきたので加筆修正して、有料noteとして再アップします。


■芸人の無用者意識■

例えば、こういう無用者意識は芸人には根深くあって、ビートたけしさんとかは、浅草での修業時代の師匠である深見千三郎さんに叩き込まれた「芸人は何の役にも立たず野垂れ死ぬもんだ」という意識を、度々口にされます。実際、深見師匠は寝タバコが原因の火事で焼死という、切ない最後でした。

また、上方落語中興の祖である桂米朝師匠も、芸人は釘一本作るでなし、戦争になったら要らなくなる商売なんやでと、弟子には常に教え諭しておられたとか(正確には師であるの先代米團治師匠の言葉らしいです)。その是非は人それぞれですが、そういう意識があることが大事でしょう。

最近だと、自虐的な呟き芸で人気だったひろしさんとか、テレビから離れて趣味のキャンプについてのYouTuberとして人気ですが、言葉の端々に、あまり芸能界や人気者であることにガツガツしていない、恬淡とした無用者意識を感じたりします。そういう戦略なのかはわかりませんが、自分は好きです。


■フォロワー数が承認欲求■

その視点で行くと、Twitterのフォロワー数が自慢で、でもフォロー数と大差ないなうちゃん尊師とか、自己承認欲求がそこに偏ってるんだろうなぁ……と思ったりします。フォロワー3万人で個人がメディアになれる、なんて言われますが。無料で出来るSNSのフォローに、それほどの価値は置けません。

例えば自分の場合、フォロワー数が現時点で5000人チョイですけど、単行本の売上では1980円の本がフォロワー数の3倍ほど売れていたりいます(数は少ないですが台湾などの海外の出版数も含みます。ただし、電子書籍の部数は含みません)。そもそも漫画家って、部数とフォロワー数があんまり一致していませんしね。

中の人の一人別ペンネームでやってる作品だと、なうちゃん尊師の自慢のフォロワー数の2倍以上の初版部数で、第1巻の累計発行部数が約9倍だったりします(こちらは電子書籍の部数を含みます)。でも、そんな数字は一流の作家から見たら屁のような数字でしかないです。尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』の初版300万部に比べたら、蟻のキンタマ程度の部数。 ※追記:なうちゃん尊師のフォロワー数のおかしさに対する考察をまとめておきました。


■数字だけを見る危険性■

Twitterでバズった人間の作品を、単行本にしたら思ったほど売れなかった……という編集者の愚痴がたまに聞こえてきます。Twitter発の何人かの作家の、過去の数字を元に見積もったのでしょう。具体的には、カメントツ先生の本『こぐまのケーキ屋さん』が30万部売れたので、この本はリツイート数とイイネの数から10万部とかの見積もり?

こんなの、ちょっと考えれば解りそうですが、無料で読めるもののリツイートやイイネが1万や10万行っても、有料になっても同じ比率で売れる保証はありません。世の中には1万人が10円しか払わない作品と、10人が1万円払う作品があるのですから。どっちが上とかではないです。そういう、数字の内実を見ず表層を見る編集者は多いですが。

1万人が10円しか払わない作品が2万人に増えるのと、10人が1万円払ってくれる作品の読者が20人になるのと、さてどっちが可能性が高いでしょうか? こんなの、連合艦隊解散之辞の大砲論と同じで、作品の質を読めないアホ編集の嘆きでしかないです。100発100中の大砲が99中になるなる可能性と、100発1中の大砲が2中になる確率ですよ(こうやってアホ編集と国粋主義者を敵に回す)。


■数より質を考えよう■

実際、自分の相互フォローの漫画家さんでも、フォロワー数10万人以上は数えるほどしかいませんが、その人たちの単行本はもっと売れています。そういう意味では、自分のフォロワー数より遥かに大きな数字の、有料購読者がいる世界を知ってると、Twitterのフォロー数やインプレッション数に惑わされることはないでしょう。

そこが世界の全てではないと、知ってるから。

逆に言えば、編集者にはこの実感がないです。あるという人間は、錯覚です。会社辞めて自分の本を売ってから言え(傲慢)。ちなみに自分は30万部が、大衆の認知における一流作家と二流作家を分ける分岐点と思っています。自分が出版の仕事に間接的に関わりだした90年代、ある24年組の漫画家さんの人気作の第1巻の累計部数が30万部ちょいで、つげ義春先生の名作『ネジ式』の、いろんな版の累計部数もそれぐらいと言われた刷り込みです。

そこにギリギリ達していない自分の力とか、誇りようがないです。そもそも、しょせん原作者は漫画家の影響力次第ですし。自分が100万部売れる作家と組んだら、押し上げられますから。だから、『構図がわかる本』は著名な漫画家に多数協力をお願いするという、あざとい手も使いました。いずれにしろ本は宣伝力とか自分の力以外の要素も大きいです。フォロワー数より売上が大事。


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