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カンカラコモデケアの問題点

◉作家の笹本祐一先生が、怒っておられます。カンカラコモデケアに。これは熊本県和水町にある謎の遺跡の名前……ではなく、毎日新聞の記者による、文書作法の極意らしいですが。笹本先生が怒るのも当然、ただのエッセイとかならともかく、新聞記者がこんなもんを記事に持ち込んじゃ困ります。記事を使って読者をある特定の方向に誘導するのは問題ないという文化が、毎日新聞にある証拠ですから。備忘録を兼ねて、笹本先生の連続ツイートを、以下に転載しますね。

ごもっとも。小説やエッセイならともかく、新聞記者が何を言ってるんだと。ちなみに笹本先生が参考にした、元noteはコチラです。毎日新聞の故山崎宗次記者の文書作法の極意だそうですが……。毎日新聞や朝日新聞の記者が、文学青年崩れのような情緒的で気色悪い文章を書く理由ですね。栗本慎一郎氏もかつて批判していた、米ソ首脳会談の記事で「ゴルバチョフ書記長の息は白かった」みたいな駄文を入れる。

息が赤かったり青かったりしたら、ニュースにもなりますが。また、そういう情緒トロトロ文を名文と讃える、悪しき新聞村文化がありますし。笹本先生も指摘されていらっしゃるように、これが商業主義やセンセーショナリズム、あるいはエンターテイメントなら問題ないです。問題はないですが、文章論として同意できる部分とできない部分があるので、個人的な感想を以下に入れていきますね。

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①カン:感動=感動したことを書く

感動しなかったことは省かれてしまうのは、問題ですね。あと、作文術として薄っぺらい感動の押しつけ、感動ポルノがまかり通る理由でしょう。みうらじゅん先生は「涙のカツアゲ」と命名されていましたが。世の中には美談だが不快なこともあれば、不快な内容だが伝えねばならぬこともあります。犯罪記録とか、不快なモノはいくらもあります。それを、読んで貰えるようにするのが文章力では?

②カラ:カラフル=色を入れることで鮮やかに

こういう指南が「ゴルバチョフ書記長の息は白かった」に繋がる訳ですね、なるほど。描写の中に、視覚イメージを刺激する表現はありですよ。でも、色の表現ってその前に、情景をどう描写するか、白黒写真を説明する手順の方が、描写力の技術アップとしては先。ウチの講座では、脚本や小説や詩文の描写のカメラワークについて解説していますが、色彩センスは人によって差があるので、優先順位は高くないです。

③コ:今日性=旬な話題を取り上げる

ああ、だんだん腐れ編集者の俗論みたいになってきた……。小説や漫画で取り上げるテーマって、普遍性を持ちながらも、同時代の抱える問題とシンクロしていないと上滑りするのは事実。日本がイケイケの時は吉川英治『宮本武蔵』が受け、敗戦後は村上元三『佐々木小次郎』が受けたように。表層的な新しさではありません。今日性ってのは普遍性のある題材であって、これではただ流行を追いかけるだけ。

④モ:物語性=ストーリーをもたせる

これじゃあ、司馬史観が〜とか言ってる保守系団体を批判できませんね。もちろん、東洋史の父・司馬遷も西洋史の父・ヘロドトスも、歴史の中にある種の史観、イデオロギーを持ち込んでるのは、岡田英弘先生も指摘されるところですが。序破急や起承転結の展開構造を持つことと、物語性を持たせることは、似て非なるモノ。なにが・どうして・どうなったの、展開構造こそ重視すべき。

⑤デ:データ=データや資料による裏付けで説得力を出す

説得力を出すのに、都合の悪いデータを隠すことや、切り取り報道を促しかねない意見です。説得力を出すのではなく、データや資料に基づいて、記事を書くべき。エッセイやコラムなら、依拠したデータを出すのは大事。小説や脚本では、ハッタリの根拠を出す手法として、梶原一騎先生が好んで使いましたけどね。その場合、データよりも誰某が言った、の方が説得力が増します。だから、ゲーテはあらゆることを言った、という言葉が生まれるわけで。

⑥ケ:決意=書き手の強い思いをにじませる

これは、小説や脚本やエッセイなら、ある意味で正解。ただ、新聞記者としては失格。アジテーターかって話です。いや、小説だって実際は客観的な記述に徹して、読者にその意図を類推させたり、汲み取らせる作品の方が、多様な解釈が生まれて、作品の幅が広がります。映画『ソフィーの選択』を見て、「ほんで、どっちが善玉でどっちが悪玉?」って聞く読者を想定してるんですかねぇ……。

⑦ア:明るさ=暗いものではなく明るくプラス思考な文章に

本当に、とことん読者迎合型の文章を書かせようとしてますねぇ。読者ってそこまでバカじゃないです。というか、ピクサーの『インサイド・ヘッド(Inside Out)』では、楽しい感情だけ求めるのは人間の成長にとって良くない、悲しみや辛さとかもまた、心にとって不可欠なモノだと、描かれているのですが……。そういう深みこそが、レベルの高い読者を長く引きつける部分なのに。衆愚向け文章と銘打ちたい内容ですね。

■感想として■

なんかもう、極意というより俗流解釈の集大成のような、酷いモノです。これが毎日新聞の故山崎宗次記者の真意なのか、それとも『そのコピーに愛はあるか!?元東スポWeb編集長が教える、元祖バズるライティング術。』というセミナーの、柴田惣一講師の考えでアレンジを加えられてるのか、それは解りませんが。

なにしろ裁判で、ウチの記事を本気にする人はいないと言い放った新聞ですから、東スポは(もちろん、その裁判では敗訴)。そういう、東スポ的なオモシロオカシイ記事に求められる文章力としては、間違いないんですけどね。新聞記者の記事としては大問題だし、ライターや原作者や小説も書いている集団の一人としては、これはその方面から見ても、注釈なしには奨められません。

山崎宗次記者は毎日新聞の社会部記者・広告局長として活躍されたもよう。検索してみたら、こういう著書を出されているようですが。既に絶版、電子書籍かもされておらず、中古価格は6000円台に高騰。大学の文学部や文芸部で学んだのか解りませんが、現場で叩き上げた文章力のような気がせんでもないですが……なにか、現在の左派系新聞社の悪い部分の、ルーツに思えますね。

図書館にあったら、読んでみようとは思いますが。本多勝一氏も、その記事の内容はともかく、文章の技術は良く整理されていて、ためになりました。山崎宗次記者も、同じタイプなのかもしれません。巧言令色すくなきかな仁。ちょっと、下記のnoteとも通底するテーマですが。安い拍手を欲しがる人間の、Twitterでバズる方法論指南に見えちゃいますね、現時点では。
どっとはらい

追記ですm(_ _)m

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