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大塚家具が消えた日

◉大塚家具といえば、高級家具の代名詞だったのですが……。醜いお家騒動から、ついに消滅へ。ワンマン社長であった父親の方法論を、一橋大学を卒業し、みずほ銀行に勤務した後コンサルティング会社を経て、後継者となったはずの娘が、事実上の解体に追い込んでしてしまったわけですから。経営学の教科書に、載るような内容ですね。自分には君島ブランドの解体劇と、同じようなものを感じてしまいます。

【大塚家具ついに消滅へ…父が娘・大塚久美子氏に施した「家具の英才教育」も無駄に】smartFLASH

 2月14日、ヤマダホールディングスは、傘下の大塚家具を、子会社のヤマダデンキが5月に吸収合併すると発表した。大塚家具の店舗やブランドは存続するが、法人としての大塚家具は消滅する。
 高級路線で知られた大塚家具だが、創業者である父・大塚勝久氏と、実の娘である久美子氏が、経営権をめぐって対立、“お家騒動” として騒がれた。
 2014年7月、当時社長だった久美子氏が、会長の勝久氏によって解任される。翌年1月、今度は勝久氏が解職され、久美子氏が社長に復帰。その後、双方が新経営体制を公表するという泥沼ぶりに、ブランドイメージの低下は免れなかった。

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、家具で検索したらよさげなイラストが出てきたので使用させていただきました。

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■大塚家具とKIMIJIMAと■

オートクチュールのKIMIJIMAも、世界的なデザイナーであった君島一郎氏によって、一代で日本を代表するブランドになったのですが……。息子の君島明氏と女優の吉川十和子さんの結婚によって、家庭内のグチャグチャした状況が一気にマスコミによって報じられることに。君島一郎氏が急逝すると、本妻とその息子と明氏の間でまさに骨肉の争いが起きてしまい、高級ブランドのKIMIJIMAは一気にイメージダウン。

現在は、KIMIJIMAの店舗はすべて閉鎖し、一店舗も残っていません。何やら大塚家具と似ていますね。人間は商品そのものではなく、商品がもたらすブランドイメージ、ラーメンハゲが言うところの情報を買っている側面がありますから。ただ大塚家具の場合は、薄っぺらいコンサルティング会社がやりそうなアドバイス通りの会社改革で、見事に失敗した部分があります。父親は娘に、経営哲学を教えられなかったのか?

■経営哲学なき日本の経営者■

日本の経営者に最も欠けているのは、経営哲学でしょうね。経団連の社長たちが、東大や一橋大学などを卒業したサラリーマン社長で、転職経験がない生え抜きという、恐ろしく均質な経歴であるのを指摘されていました。そういう人たちが「大学は即戦力を育ててほしい、文系の学部は不要」と言う。日本人は哲学というものを、役に立たない学問だと思っている節があります。

でも、山田五郎さんなどはその哲学(と教養)のなさこそが日本の問題と指摘されていましたね。経団連の社長から出てくる文系学部撤廃など、そういう考えの延長にあるでしょう。しかし理系の大学の世界最高峰のひとつであるマサチューセッツ工科大学は、芸術や哲学などを重視し、経団連社長が求める即戦力の人材育成を、否定しています。即戦力はすぐに、時代遅れになるのですから当然です。育成力のない球団みたいなもの。

 株主総会で勝利し、2015年に社長続投が決まった久美子氏。勝久氏が築き上げた会員制サービスを撤廃したり、商品価格を下げたりしたが、就任以来4期連続で赤字。2019年にヤマダホールディングスの傘下に入ったが、赤字解消には至らず、2020年、経営悪化の責任を取って辞任した。

哲学と言ってしまうと、何やら小難しい空理空論というイメージが、確かにありますが。それは、数学と一口に言っても現実の土木や建築など生活と直結した幾何学と、ユークリッド幾何学では全く別物のように見えるだけで。経営哲学などはもう少し具体的で、実践的なものだと思うんですけどね。例えば、売れなければ値段を下げるという、いかにもコンサルが言いそうなことを、大塚久美子社長は実践したわけですが。

■コンサルタントの甘い罠■

倒産寸前だったAppleを復活させ、むしろ世界的な大会社へと成長させたスティーブ・ジョブズは、看板商品であるMacのシェアが低いことをコンサルタントから批判され、値段が高いからMacは売れないんだ、値段を下げると散々言われ続けました。しかしジョブズは、フェラーリやポルシェのシェアはMacよりも低いが、それぞれのメーカーはそんなことは気にしていないと、そういうアドバイスを突っぱね続けました。

コンサルタントのアドバイスに従って、赤字が出てもシェアを増やそうと多くのパソコンメーカーがしのぎを削った結果、確かにパソコンの値段は安くなりましたが。黒字が出ているメーカーが、DELLとAppleしかない、なんて状況が起きてしまいました。そして、IBM をはじめとする多くのパソコンメーカーがパソコン事業から撤退。SONYのVAIOですら、別会社にして再出発なんて状況になってしまいました。

VAIOに関しては、Mac OSを搭載してくれるように、ジョブズがSONYの幹部らがゴルフをやってるところにゲリラ的に乗り込み、頭を下げたほどの、デザインにも優れた素晴らしいブランドだったのに……。自分も、MacからWindowsパソコンに乗り換えるならVAIOだろうと思っていました。しかし、儲かったのはMicrosoft社ばかり。DELLも覇者から滑り落ち。なぜそんなことになってしまったのか?

■ジョブズと〝健全な利益〟■

確かに値段を下げれば、一時的には売上は上がります。しかしそれは利益率を犠牲にした、その場しのぎにすぎません。ジョブズにはシェアよりも〝健全な利益〟という経営哲学があったのです。しかし大塚久美子社長には、それがなかった。大塚家具のような高級ブランドにおいては、値段を下げることはそういうブランドイメージを、下げることになってしまいます。

日本マクドナルドが、値下げ攻勢によってシェアを広げましたが、同時にブランドイメージも大きく下げたように。Apple日本支社社長からマクドナルドに華麗な転身を遂げた原田泳幸氏が、値下げをして利益を失い、そこをなんとかしようと値上げをして今度はシェアを失いを繰り返した姿も、この大塚家具の失敗に通底するものを感じます。目先の数字を追えば、そうなりますね。

けっきょく、マクドナルドは安いというブランドイメージが付き。美味しさや高級感という部分で、モスバーガーに持っていかれた。アンケートを取ると、ヘルシーなメニューを欲しがる意見が多いのに、実際に出すと売れないと、嘆いていましたが。そりゃあ、マクドナルに求めるのは安さで、ヘルシーなメニューはモスバーガーで注文しますよね。ブランド力を失うというのは、そういうことです。

■優れたコンサルタント?■

ブランドイメージという、数値化しづらいものをコンサルタントと呼ばれる人たちは、勘案することが苦手なようです。もちろん、優れたコンサルタントは存在します。例えば、IBM がまだそれほど巨大なブランドでなかった頃。経営陣はある未来学者に相談します。するとその学者は、コンピューターを売るのではなくレンタルすることによって、販売利益ではなくランニングコストで商売する方法を提言したとか。

これなどは、エレベーター会社がメンテナンスで大きな利益を得ていたり、パソコン用のプリンター本体の値段はそんなに高くなくても、消耗品のインクカートリッジで利益を得たりする方法に似ています。当時は高価だったコンピュータのレンタルで、IBMは大飛躍。ビッグブルーと呼ばれる巨大企業に。こういうアドバイスの成功例はありますが、だいたいにおいて現場の人間が蓄積した改革案よりも、外部のコンサルタント会社に頼るような会社は、だいたいダメですね。

IBMは独占禁止法に抵抗して、パーソナルコンピュータの時代に対応できず、Microsoft社に名を成さしめ。そのMicrosoft社も、独占禁止法に抵抗して、スマートフォンの時代に対応できず。大きいことはいいことだで、独占禁止法の会社分割に多くの企業は抵抗しますが。ロックフェラー家のスタンダード・オイルは、会社分割されて、分割された各社が大発展。これも経営哲学の問題。地方の村興しなども、東京のコンサル会社に食い物にされて、終わり。

■ジョブズと大塚家具の違い■

大塚家具は、売上を伸ばす方向ではなく。Appleのように売り上げは落ちても、利益率を堅持し、確固としたブランドイメージを守る方向に行くべきでした。しかし久美子社長は、売上を伸ばすことが正義の、薄っぺらい経営方針しか持っていなかったようで。Macのシェアは公称で5%、実際は3%ぐらい、いやいや1%しかないと言われるほど酷いものでしたが。けっきょく他メーカーのパソコン事業撤退を見るに、ジョブズの経営哲学の方が正しかったわけで。

ジョブズが凄かったのは、パソコンではもうWindowsのシェアを逆転することは絶対に無理だと見定めた上で、スマートフォンという未知のジャンルを開拓したことでしょう。大塚久美子社長は大塚家具を、NITORIのような会社にしたかったようですが。であるなら、廉価な別ブランドを立ち上げ、同時にさらに高価な別ブランドを立ち上げる、Appleのコンシューマ向けとプロ向けブランド分け的な哲学が必要だったのかも。

個人的には iPhone よりも、自社で直接販売するルートを構築した Apple Store の方が、すごいことだと思っています。Apple Storeに関しては、成功の前例がほとんどない状態で、コンサルタントはもちろん社内の反対を押し切って実行したのですから。それ自体は、販売代理店に払うマージンさえ惜しいほど、運営資金に困ってたAppleの、苦肉の策でしたが。そんな台所事情はおクビにも出さず、ガラスの階段やオシャレなインテリアで高級イメージを演出。久美子社長にはこれがなかった。

■垂直統合という経営哲学■

AppleはMicrosoft社のビル・ゲイツ会長から、Mac OS を他のパソコンメーカーに提供するように、アドバイスを受けたことがありました。Windows OSは実際に、それで大成功をしましたからね。それからずいぶん経って、Apple はこのアドバイスに従い、互換機にMacOSを提供するのです。ところが、追放されていたAppleにCEOとして復帰したスティーブ・ジョブズは、この互換機戦略を止めてしまいます。

それで安価なMac互換機が増えても、Appleの利益を圧迫するだけだと気づき、取りやめてしまったのです。それどころかジョブズは、Macの強みはハードウェアとソフトウェアを一社で両方を開発している〝垂直統合〟にあると見抜いていました。Microsoft社のような手法は水平分業。パソコン本体はメーカーが、OSはMicrosoft社が、アプリはサードパーティが作るという、分業体制です。

しかし、垂直統合なら、ハードウェアの性能が劣っても、それに最適化されたソフトウェアで、Windows機と同等の性能がさせ、利益率が上がる。そこから導き出されたのが、自社で独自設計のCPUを開発するという、Appleの戦略でした。この戦略はiPhoneやiPad用のAppleAシリーズでも成功を収め、10年後に M 1チップによって大輪の華を咲かせるのですが。Apple Storeもまた、流通さえ自社でコントロールするという、垂直統合の一環でした。

■令和の時代に変われるか?■

中には完璧な経営方針などあるはずもなく、リスクとベネフィットは表裏一体。そうなった時に、たとえ利益を失っても守るべき何かがあるかどうかが大事ではないでしょうか。あるいは、長い目で利益を勘案する戦略。欧米流のコンサルティングを薄っぺらく理解してしまった大塚久美子社長は、目先の利益を追いかけてブランドイメージという、一朝一夕では構築できないものを失ってしまったわけです。

値段を下げれば売上が上がる、そんなものは経営哲学でもなんでもありません。例えば日本の出版社は大手ほど、取次制度の恩恵が大きく、電子書籍に消極的でした。でも講談社の社主である野間一族の若旦那は、渋るサラリーマン役員たちを押し切り、電子書籍に積極的に動き。一昨年の、1995年を超える出版業界の売上記録更新は、電子書籍のおかげ。本が好きすぎて電子書籍を見くびってるサラリーマン役員たちには、できない英断。同族経営の良さが出た例でしょう。

けっきょく日本はそういう部分の大局的な戦略や、全体を俯瞰する目がある人物が、なかなか育たない文化なのでしょう。和を以て貴しとなす、の文化ですから。合議制にも良い部分もありますが、尖った意見は丸められてしまいますからね。本田技研や京都セラミック、昔のソニーなどにはそういう部分があったのですが。少数派ですね。ホリエモンやひろゆき氏、秋元康商法などがマスコミでもてはやされているようでは、難しいでしょうね。年寄りとしては若い世代に期待するしかありません。

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