武術と格闘技の時代
◉Twitterを読んでいると、興味深い指摘がありました。今では古流は古流という感じですが、剣道も柔道も戦前は、古流武術と併修するのが当たり前なんですよね。
竹内三統流柔術を学んだ木村政彦先生が、亡くなったのが1993年──平成5年だから、平成10年ごろまでは、近代剣道のみならず、古流の剣術を学んだ人が存命だったのは、さもありなんとは思いますね。この年、第1回UFCが開催され、古流武術の匂いを濃厚に残したグレイシー柔術が世に出て、総合格闘技というジャンルが誕生するのも、世界的な潮目だったのだろうな、と思います。
■世界は同時多発的に■
世界というのは、直接の繋がりがなくても、同時多発的に物事が動くことがしばしばあるようで。それは、仏陀ことゴータマ・シッダールタと孔子とソクラテスとが、ほぼ同時代人のように。インド・ギリシャ・中国と、相互に交流がほぼない地域で、人類は思想や哲学を語る人物が出現したのです。この時代は、思想と哲学と宗教がまだ未分化で、渾然とした時期でもあります。
さらに言えば、ゾロアスター教の開祖ザラスシュトラは紀元前620 - 550年の頃の人物と、ナポリ大学のラルド・ニョリ教授は想定しています。ユダヤ人のバビロン捕囚が紀元前597年で、エルサレム帰還と神殿の再建が紀元前537年で、この時期に現在のユダヤ教の教義が再構築されたことを思うと、その同時代性に驚きます。ちなみに、犬儒派(キュニコス派)の始祖アンティステネスも紀元前446 - 366年の人です。
■時代が生み出した格闘技の変化■
同様に、世界各地の武術・武芸・格闘技に影響を与えた重要人物が、ほぼ同時代の人であったことに、驚かされます。しかし、それも当然で1850年代は太平天国の乱が起こり、ナポレオン三世が戴冠し、クリミア戦争が起き、黒船が来航し、セポイの乱が起き。1860年代は南北戦争にドイツ統一戦争に明治維新、1870年代は普仏戦争にドイツ帝国成立にヴィクトリア女王がインド皇帝に。
ついでに、70年代はルーミスの無線通信に関する特許取得と万国郵便連合設立とグラハムベルが電話を発明。つまり、戦争が世界各地で起こり、同時に通信手段の発達で世界が狭くなっていた時期です。つまり情報や文化が急速に共有され、近代体育やら合理的な教授体系が生まれて、文化が一皮剥けた時期でもあります。外国の文化との接触で、自文化の見直しが起きた時期です。
■第一次世界大戦前の武術胎動期■
つまり戦乱と戦争と混乱の時代に、武術の刷新や近代化、あるいは火器全盛の時代に、旧来の格闘技や武器術が生き残りをかけて、変わらざるを得なかった時期でもあります。スポーツという概念が、まだ格闘技から分離もしておらず、クーベルタン男爵が近代五輪を発案したのも、戦争と深い関わりがあります。ということで、格闘技や武術界の有名人、あるいはそれと関わりが深い人たちを、列挙しますかね。
書いてて、あまりの同時代性に驚いていますが。ちなみに、トップ写真はジョージ・ハッケンシュミット。バランス良く発達した筋肉に、驚きます。彼が生まれた頃、絵画の世界では印象派が誕生します。フランスのサバットが体系化され、ボクシングの技術などを採り入れた時期とも、けっこう近いんですよね。もっと言えば、ブラジルでカポエイラ禁止令が出ていたのが1892年から1932年まで。上記の人達の青年期から全盛期ですね。南米でも、そういう時代の荒々しさがあった、と。時代が英雄を生み出すんですねぇ……。
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