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ラノベ作家と副業と
◉Twitterなどで話題になっていた、平塚市の市役所職員が病気を理由の休職中に小説を執筆し、2年間で320万円を得ていたという話題。単純計算で、年に直せば年160万円。本業が別にあっての副収入なら、悪くないサイドビジネスです。でも、専業なら月に13万円ほどにしかならず。報酬ということですが、小説投稿サイトにアップして、印税のみの収入でしょう。依願退職をして専業になっても、原稿料の出る雑誌の連載をもらえないと、ちときついですね。
【病気休職中に“小説出版し報酬”の市職員に停職6か月 神奈川】NHKニュース
神奈川県の平塚市に勤務する28歳の職員が、病気で休職していた期間中に、市に無断で小説を出版して、およそ320万円の報酬を得ていたなどとして、停職6か月の懲戒処分を受けました。職員は、20日付けで依願退職したということです。平塚市によりますと、この職員は、病気で休職していたおととし7月から今月にかけて、市に無断で小説を4点出版するなどして、およそ320万円の報酬を得ていたほか、ネットの小説投稿サイトに256話分を投稿し、自身のツイッターでも書籍の宣伝などを、およそ1万回にわたって行っていたということです。
ヘッダーのイラストはnoteのフォトギャラリーより、フクロウがかわいいですね。フクロウはかわいい。大事なことですから2回、言いました。
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■ラノベ作家の総数は何人?■
現状でラノベ作家って、どれぐらいいるんでしょうね? アニメーターは4500人とも6000人とも言われます。いっぽう漫画家は、CLIP STUDIO PAINTでおなじみのセルシス社の推計で、3000人から6000人。まぁ、コレは編集者時代に先輩のベテラン編集者にいわれた「漫画家は約3000人で、毎年300人ぐらいがデビューして300人ぐらいが廃業するので、総数はあんまり変わらない」って話の数字と、よく似ています。ラノベ作家の数を検索してみましたが、こんなサイトがヒットしました。
毎年180名程度がいなくなり、200名程度が加わるとのことですから、やはりラノベ作家の総数は2000人前後ぐらいで、その1割が新人としてデビューし、同じぐらいが消えていく感じですかねぇ。あくまでも、漫画と似たような業態と、仮定してですが。してみると、推理小説化や純文学などを含む小説家全体の総数は3000人ぐらいで、漫画家とあんまり変わらないのかもしれません。才能の世界のクリエイターの総数は、小説も漫画家もアニメーターも、あまり変わらないのでしょう。
■兼業作家の時代はとっくに■
自分は、雑誌がどんどん休刊になる状況を鑑みて、漫画家はこれから兼業が増えるだろうなと、ずいぶん前から予想しています。しかし、その意味では小説はもっと昔から、文芸誌の部数はかなり少なく、単行本書き下ろしで執筆している作家が多いですね。雑誌で原稿料をもらえない、ということですから兼業は必然。実際、漫画家もそういう人が増え、田中圭一先生のようにサラリーマンやりながら連載とか、もう何十年も前から普通にいますから。
同じ平塚で、漫画連載始めるので辞表を提出したのに、数ヵ月に渡って辞めさせてもらえず、兼業を続けざるを得なかった公務員もいるぞ。
— 浅利与一義遠 (@hologon15) October 21, 2021
専業作家は憧れでしょうけれど、自分はそれは危険だと思う部分も大きいんですよ。収入源が小説しかないと、よほどの売れっ子でないと生活はきついですし。なにより、リスクの分散という点でも、収入は増やすに越したことはないわけで。岡田斗司夫氏も指摘していましたが、江戸時代の百姓って農業だけやってたわけではなく。草鞋を作って売り、宅配代行みたいなこともする、橋を架けたり道路の整備には土木作業もやる、郷土玩具や干し柿を作ったり、多種多様に仕事しますから、百姓。
■人生に3回は転職する時代■
そういう意味では、例えば本業の稼ぎは300万でも、副業として作家で50万や100万稼げるなら、それはやる意味があると思うんですけどね。なにも、専業作家だけが偉いわけではないですから。それこそ、専門学校の講師とかで、収入が安定するなら、やれば良い(ただし話芸が相当にないと、作画技術があるだけでは、講師はできませんけども)。自分はデザインも、実務経験と退職後の独学で、それなりに学生に話せるレベルでやっていますから。食えない時代は助かりました。
日本は終身雇用が~という議論を見かけますが、日本人の終身平均転職回数は、1.5~1.8回程度という説と、2.8回という説がありますが。大手マスコミで高給なため終身雇用の多いマスコミ人士が、自分を基準にしていませんかね? アメリカとか、転職しすぎるぐらいしています。そういう意味では、終身雇用というのは高度成長時代の、特殊な状況が生み出した徒花で、サラリーマンも副業OKの時代が、本来の雇用の形態のような気がするんですけども。御家大事の江戸時代の幕臣も、下級の御家人はそうでしたし。
■収入3分散のリスクヘッジ■
就職氷河期時代、仕方なく起業した人間が多かったわけで。この国は、クロヨンだトーゴーサンピンだと、マスコミが自営業を貶めまくった結果、みんな月給取りになりたがり、結果的に起業家精神が失われた。そりゃあアメリカのような、起業することが誇りとなる文化土壌とは異なりますが、それでも起業家精神がなくなり、みんながサラリーマンになって、大学卒業時の評価で40年近い終身雇用を要求する社会のほうが、例外的ではないですかね?
とはいえ、いきなり外資系のようなドライな雇用は無理ですし。そういう意味では、退職金制度をなくすなら給料を外資系並みに高く設定し、その上で3年分から5年分ぐらいの退職金を払えば解雇できるような制度を、導入する必要はあるのでしょうね。あるいは、本業と副業を複数組み合わせて、稼ぐ時代。ただ出社していれば給料が出る時代は、もう帰ってこないと思いますよ? そうなったとき、手に職つけたり資格とったり、サイドビジネスをやれる才覚が、必要になるでしょう。
■誤った紫綬褒章主義の問題■
ちなみに、サラリーマンから専業作家になられた小説家の芦辺先生の、貴重な意見も転載しておきますね。昔は、大手マスコミや公務員は、作家と兼業したくてなる人もいたわけで。
公務員のライトノベル作家兼業問題。僕は在職中はあまり作品を書いてないが、そもそも届け出るという発想がなかった。小説家なんてよそに勤めるでも店を構えるでもないし。新聞社なんて別名で社外の仕事するなんて当たり前で、戦前の読売社会部長・玉虫孝五郎=ユーモア作家寺尾幸雄という凄い例がいた
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) October 20, 2021
(寺尾幸夫のまちがいでした)この人は、読売がまだ朝刊のみで、昼からでいいのに朝一番から編集局に出社して、給仕にお茶をくませてせっせと小説を書いていた。できあがった原稿は社の切手で郵送した。新聞記者出身の作家が現職新聞記者の作家に「そろそろ記者も切り上げなよ」と勧めたりしたという。
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) October 20, 2021
公務員の兼職が問題というんだけど、そもそも小説を書く暇が欲しくて公務員になる例は珍しくなく、たとえば東大法学部から横浜市役所に行って不思議がられた斎藤栄先生もそれが動機。僕もずいぶん勧められましたよ。だいたいあんだけ「作家なんて兼業でいい」と言う割にはみんな厳しいんですね。
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) October 20, 2021
僕なんかと違ってデビュー後の在職期間も書いてた某氏や某氏も兼業の届け出なんかしてなかったんじゃないか。病気休職中がいけないってんだけど、僕のいた校閲部の年配社員でセミプロ漫画家の人がいてメンタルなことで何年か休職したと聞いたけど、その間漫画を発表したって文句言う人はいなかったろう
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) October 20, 2021
昔は日曜作家というのがあったらしく、同人誌を作ったりはせずにコツコツ書いた小説とか漫画を群小の雑誌に投稿して、たまに小遣い銭を稼いだりする。国鉄職員の中村武志や都庁務めの童門冬二みたいに売れていった人もいたろうけど、今回のライトノベル作家さんのように副業申請なんて要ったのだろうか
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) October 21, 2021
あとサラリーマン経験のある人ならわかると思うけど、かりに今回のライトノベル作家さんのように副業申請義務があったとしても、僕ならしないと思います。だって「絶対に人事で報復される」から。家を建てたら転勤辞令みたいなもんで、小説が書けないほど忙しい部署に異動させられますよ。それが会社。
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) October 21, 2021
公務員の兼業作家でいうと、童門冬二氏は美濃部都知事のスピーチライターだったし、斎藤栄先生は飛鳥田一雄・横浜市長に見出され、重用されていた。だから堂々と兼業時も作家活動ができたところはあるのかも。
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) October 21, 2021
「サラリーマンと無届け小説(有償)執筆」についてのツイートが反響を呼んで慌てておりますが、かなりいいかげんな会社でも「あの人の経歴なら文学活動してなかったら重役になれたのに」とか、ひどい話だと(半ば冗談でしょうが)「あの人は息子が有名芸能人になったからいかん」とかありますからね。
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) October 22, 2021
びっくりしたのは木々高太郎で、(真偽は知りませんが)「大脳生理学の第一人者で、パブロフの弟子」というとてつもないキャリアの持ち主だった本名・林髞が慶大の学長になれなかったのは、その探偵作家初の直木賞を獲得するほどの作家活動のせいだったという。それが日本の現実でしょう。
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) October 22, 2021
これも一種の紫綬褒章主義と言うか。一意専心、みたいなのが日本では尊ばれるわけですが。別に人間、趣味も含めて多様なことをやり、それぞれが赤字になったり黒字になったりして、人生の収支が合えば、それでいいと思うんですけどねぇ……。トントンなら御の字、ちょっとマイナスでも、楽しんだ経験値でお釣りが来ますし。まぁ、これも過渡期の考えか。
どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ
売文業者に投げ銭をしてみたい方は、ぜひどうぞ( ´ ▽ ` )ノ