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声と栞

ずっと自分の声がコンプレックスだった。

「顔と声が合っていない」と言われることが多い。
生まれた時から他の赤ちゃんの追随を許さない野太い声で泣いて悪目立ちしていたらしい。
思春期には他の女の子たちはみんな声が可愛くていいなあと純粋に思っていた。カラオケに行ったら可愛い歌を歌えるんだもんな。
合唱ではリードのソプラノを歌えるんだもんな。
私には私の役割があるとアルトパートのリーダーを3年間務めた(別に上手いことを言おうとしたわけではない)。それは良い経験になったが。

好きな人ができても電話をするのは苦手だった。
少し高い声を意識して話さないと不機嫌に思われてしまう。微妙に疲れるから苦手だった。
今思えば別にそのままで良かったのかもしれないが、やはり声が低いのが気になってしまった。

10代の頃はそのコンプレックスから抜け出せないでいた。
どうしても自分の声が好きになれなかった。

少しずつその考えが変わってきたのは、FM802「栞」のMVを見てからかもしれない。

前述した遠距離恋愛の後、同棲を始めてすぐに夫(当時はまだ彼氏)が目を輝かせながら「これを見てくれんか」と言う。
栞のMVである。
ものすごく早口で概要を説明された。ノーブレス早口説明オタクであった。
一回聞いただけですぐ好きになったが、なにより参加しているメンバーの声の個性に注意が向いた。
なかなか個性的な歌声のメンバーが揃ってこんなにまとまった一曲になるのだと驚いた。
シビれる程に格好良いと思った。暇さえあれば見ていた。

もしかして私って声と見た目でギャップがあって面白いんじゃないか?と薄らと思えるようになってきた。
よく考えたら夫は声が少し高めだな。
夫と2人でカラオケに行っても上からハモってもらっている。

こんなにも美しい曲と出会えて、さらに自分の好きではなかった部分を好きにさせてくれた。
今では誰かと電話をするのも苦ではなくなった。

声にコンプレックスがある一人でも多くの人にこの曲が届いてほしいと願うばかりである。

私はこの声と生きていくよ。
嫌いじゃないよ。



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