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大阪の男と札幌の女

前述した遠距離恋愛の末の現夫であるが、5年付き合って1年遠距離、コロナ禍突入と共に同棲開始した。
その後1年半後に入籍したのだが、よく結婚できたなと思う。
なんたって結婚願望が皆無の男だ。別に別れるとか考えているわけではないけれど、結婚というものに縛られなくてもいいのでは派だった。
人一倍誰かと話していたい寂しがりやのくせにね。

ただ、北海道でずっと生きていた私を本州に呼んだからにはけじめをつけないととは思っていたらしい。
だが同棲開始と共にコロナが流行し、思ったように進められない日々が続いた。大した動きもなく1年が経った。
このままよくわからない時間がダラダラ続くのだろうか。結婚したって生活の何かが大きく変わるわけではないことはわかっているのだけど、今のままでも気楽で居心地が良くて楽しいのだけど、でも。

かと言って自分から結婚結婚言う女ではありたくなかった。なんとなく付き合って7年目の日にとりあえず籍を入れようかという流れにはなり、嬉しい気持ちはあったが、なんかヌルッとしてるなあと少しモヤつきもした。
これは言わなきゃことあるごとに一生ネチネチ言い続ける嫌な人間になってしまうと感じて、「気持ち的に一言くれると嬉しいんだけどな」ということは伝えた。
プロポーズである。
もちろんしなかった人たちもたくさんいるだろうし、必須でもないのはわかっている。お互い同じ気持ちだったら言葉にしなくたっていいのかもしれない。
夫(当時彼)はそちら派だ。サプライズはする方もされる方も苦手なのだ。

「そういうの苦手だって最初から言ってたよね。わかってくれてると思ってたよ。(プロポーズ)してほしいと思うならそれは俺とじゃなくて別の人と付き合ったほうがいいんじゃない」と言われてしまった。

豪華じゃなくていい。映えなくていい。家でもどこでもいいし何をして何を着ているときでもいい。
かしこまってなくたっていいから、たった一言欲しいと思う気持ちが心の奥底で暴れているのを感じた。
確かに既に両親には挨拶を済ませている。兼ねていると言えば兼ねているが、肝心の本人には特に何もなく、このまま本当に無いのかもしれないと諦めかけていた。

入籍の一週間前の休みの日、私はネイルサロンへ行っていた。美容室やネイルサロンなどの行き帰りには絶対にクリープハイプの曲を聞いていた。
背中を押される気がして、強い女になれるからだ。
その日も施術が終わってクリープハイプの「鬼」「破花」「愛の標識」「ラブホテル」等を聞きながら帰った(勝手に自分の応援歌にしていた)。あとはとにかく好きな「グレーマンのせいにする」と「月の逆襲」。
家に着くと彼がいない。あれ?何処かに行くって言っていただろうか。犬の散歩だろうか?いや、犬いるな。じゃあコンビニかな。とか考えながらまずはトイレへ(玄関を開けたらすぐ右にあるので)。
イヤホンを外してトイレから出ると、ちょうど扉が開いて彼が帰ってきた。

手には大きな大きな花束。
少しくすんだ可愛すぎないピンク色の薔薇の。
「結婚しようね」
短い一言ではあったがその瞬間涙が溢れて、声をあげて泣きながら抱き着いた。嬉しい。嬉し泣きって本当にあるんだな。
彼もつられて泣いてしまった。
玄関で騒いでいたので何事かと居間から犬が鳴いていた。びっくりしたよねごめんね。

そして何事もなく、心の靄も晴れて、予定通り7年の記念日に入籍できた。わがまま言ってごめんね。
でも本当に嬉しかったよ。ありがとう。

それから約2年が経った。
今も夫婦と犬の3人家族で仲良く暮らしている。
最近のブームはクリープハイプの曲を流しながら2人で筋トレをすることである。犬はその様子を楽しそうに見ている。
夫の最推し曲「社会の窓と同じ構成」がかかることが多いが、確かに頑張れる。反骨精神に火が点く。

長くなったが、プロポーズをしてもらうその時までクリープハイプを聞いていたことは夫にも言っていない。
これは本当に私とクリープハイプだけの秘密である。




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