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物語の「オチ」の定義に関する考察


・マイナーめの漫画2本のネタバレ感想を述べながら、物語の「オチ」の定義に関する考察をする。


・STAND UP!(全3巻)

・コロコロで連載されていた漫画。kindle unlimitedでタダ。当時読んで面白いと思ったのだけど、今読み返してもやはり面白い。魅力的なキャラがびゃーっと出て来てびゃーっと畳まれて3巻で完結するのがよい。展開が早い分情報の密度が濃い。

・情報量は濃いほど面白いんだよね。キルラキルを見たときにもそう思った。


・この作者、驚いたことに「推理の星くん」の作者、せいの奈々先生と籍を入れているんだと…!

・コロコロの作家同士が結婚したらよぉ、できた子供は天才コロコロ作家かぁ?

・両親がコロコロの作家だなんて、羨ましすぎるぜ…

・推理の星くん、2005-2008年の作品なのに、最近kindle化されたりLINEスタンプが出ててアツい…もっと流行ってくれ…





・同じく板垣雅也先生による「マスカレード」全2巻。タダ。

・作者、絶対ワンピに人生単位で影響受けてるでしょ。デフォルメのされ方、キャラデザ、構図、能力バトル、ズッコケ感、擬音、どこをとってもワンピっぽくて凄い。(という推測が間違ってたら失礼すぎるけど)                

・え、これ、あまりにもすごかった。終わり方がオシャレすぎる。え、そういう作風なんだろうな。え、なんなのマジで…

・(困惑)


・スクロールした先でSTAND UP!とマスカレードのネタバレ感想を書くので、自衛してね。











・まずSTAND UP!というお話における主人公の目的って「ボクシングのトーナメントを勝ち進んでチャンピオンに勝ちたい」なんだけど、結局トーナメントの途中で負けて「また次のトーナメントに向けて練習だ!」というオチでお話が終わっている。

・意外や意外、作者はてっきり主人公の優勝を描きたかったのだろうと思ったけどそうではないらしい。そこで終わっていいんだ…!

・打ち切りでもなく、作者のやる気がなくなったわけでもなく、本当にそれが最高のオチだと判断したんだろうな…!と思わせられる後味のよいオチだった…

・思えばバトル漫画におけるシナリオってバトルの演出を引き立たせるための調味料でしかなく、描きたい所だけ描き終わったら、急に終わってもいいんだよな。

・ずっと主人公が成長し続けてるし、魅力的なキャラと情報量の濃いバトルを繰り広げるので、私は読んでて「これ終盤にネタ切れにならないか?主人公にこれ以上成長の余地あるか?これ以上個性的なバトルってできるのか?」と思い始めていた。しかしそう思い始めたあたりで急に終わったので、本当に作者さんは計算づくで描いていたんだろうなぁと思った。

・仮に編集者が「ここで終わっちゃうんすか?せっかくならチャンピオンに勝つ所まで書いて下さいよ」と無理を通して惰性で続きを描かせたとしたら駄作になっていたと思う。


・そんでまあ、驚いたのがマスカレードだ。お話の目的は「最低最悪な父親を倒しに行く」である。

・私はこれを幼少期に途中まで読んでいたけどオチまで読めていなかった(経済力がないからである)ので、ちゃんと倒せたのかどうかを私は十数年ごしにようやく確認できることになった。


・この漫画、面白密度が濃かった。

※面白密度=1ページ1ページに含まれるの面白味の密度。


・能力者たちがどんどん能力を自分から明かしていくし、しかも能力の応用もどんどんしていくし、ようやく発芽した主人公の能力が「能力バトル全否定のチート能力」だったし…まだまだ父親の拠点に辿りついていないのに配分考えずこんな激熱展開で走り抜けちゃって、あとでゼエゼエとネタ切れしない?思った。

・しかしまあ、ここまで書いたらもうお分かりだろう。その漫画はそこで急に終わったのである。肝心の父親がどれだけ強いのかも作中でほぼ示されない。

・それにしても歯切れの良い終わりだったな…どういうオチなのかというと、物語が「主人公の家系は代々父親を倒すのが登竜門だ」という無限ループになっていることを示唆して終わるのだ。主人公はその後父親を倒し、自分の息子に同じ試練を与えるのだろうという未来が、一切描かれていないのに伝わってくる。「父親を倒すことはできるのか?」というセントラルクエスチョンへの答えは示されてないが、暗にYESなのである。

・投げっぱなしで終わったのに、納得と満足と後味がある。


・見事…あまりにも…


・あまりにも見事…


・一切の無駄がない…



・オチの定義についての考察

・ドリフのコントには、オチがスッキリする回とオチがモヤモヤする回がある。スッキリする回は、例えばセットが大きく壊れて終了する。モヤモヤする回は、例えば幽霊屋敷で幽霊が大量に出てパニックになった所で急に終了したりする。

・そこから鑑みるに、良いオチとは「それ以上、物理的に物語が続行不能になる状態」であり、悪いオチとは「続きがありそうな状態」であると個人的に結論づけた。

・羅生門において、下人が逃げ去って闇に消えた描写がなければ、物語が続行可能に思えてしまうだろう。

・輝夜姫が最後に月に帰らなかったら、続きがありそうに思えてしまうだろう。

・「まんじゅうこわい」において、男が饅頭をほおばっているのを見た男たちが怒っただけで終わったら、オチが弱かっただろう。

・「三匹の子豚」において、レンガで建てられた家に敗北した狼は退散しました、というオチではモヤモヤするだろう。


・不可逆こそがオチなのだ。続行不可能こそがオチなのだ。失踪、別れ、死、伏線の全回収、舞台の全壊、キーアイテムの破壊こそがオチなのだ。


・当然例外もある。「マスカレード」においては、まだ冒険の途中なのに無限ループの示唆をもってオチとしている。しかしこれも、無限ループであることがわかった以上、これ以上お話を読み進めても、その先にどんな結論が待っているのかは運命的に決まっている(だから続きを読む必要はない)ということがわかるので、オチとしては成立していると思うのだ(まあ、続きが気になってモヤモヤする人もいるだろうけど…)。

・よく昔話の最後にある「老夫妻はいつまでも幸せに暮らしましたとさ」という一文は、なくすとオチが弱くなると思う。つまりはその後、このお話の続きになるようなイベントは一切発生しませんでしたというメッセージなので、なくしたらオチが弱くなる。


・まだマスカレードの余韻に浸っている。本当に勉強になる作品だったというか、漫画ってこうでもいいんだ。と気づかされた。全2巻の漫画であそこまで風呂敷を広げて畳めるんだ…もうちょっと考え事をさせてくれ…


・おわり



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