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連載小説「戊辰鳥 後を濁さず」

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土木業界を離れることとなったため、今までの仕事の経験をもとに初めて小説を書きました。 全85話で完結。約55000字となりました。街から文学が生まれるのではなく、街づくり文学を目…
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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

あらすじ 戊辰鳥 後を濁さず ―つちのえたつとり あとをにごさず― 第一部「釜場」 三月十五日(金)  農家であり地主であるトキ家の跡取り娘として生まれた私は、二十歳の時、祖父の養子となり、祖父からボロアパートを一棟譲り受けた。  表向きはトキ家の血を絶やさないためとなっているが、実際は広大な土地を持つ祖父から相続を受けるためである。  医師が祖父に宣告したおおよそ三年後までに私は相続税として多額のキャッシュを用意しなければならない。そのため、ボロアパートを解体し、そ

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第22話

四月五日(金)  定食でついてくる味噌汁が一番うまい。酒粕が入っている。  カピバラ市で一番有名な定食屋の売りは味噌汁だと思う。  もちろん揚げ物も炒め物も美味しいし、うっかり大盛りと頼むと日本昔ばなしのような盛り付けで出てくるご飯も甘味が強くて美味しい。  だから、翌日である今日もお腹が張っているような気がする。  学生時代、隣町である厚木市の定食屋にバイトの面接に行ったら、バイソンみたいな店長が現れ、いきなりロースカツ定食を出され感想を求められた。その店も味噌汁が

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第71話

七月一日(月)  市長選挙の候補者が出揃った。有力な順番に説明しよう。  一 現市長の後任として同じ派閥から出馬する    ペンギン現市議会議員(初出馬)  二 カピバラ市で一番有名な定食屋を営み、町おこしに尽力する    バイソン氏(初出馬)  三 既存の流れと真逆の方針を打ち出す    グリズリー氏(初出馬)  である。当選結果が私にとってどうなるかというと、これも先ほどの順番でお話ししよう。  一 排水処理施設の建設が行われる。    その後、北口のマンションに

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第83話

九月六日(金)  投票用紙が届いた。  ペンギン候補とグリズリー候補はカピバラ駅の北口で、バイソン候補は南口で主に活動をしている。  選挙演説はカプバラ駅の線路を境に白熱している。  さて、私は一体、誰の名前を書くべきだろうか。  そうぼんやり思いながら、投票用紙とともに届いていた下水道使用料の領収書に目をやる。  安い。  金額がいつもより安い。  慌てて、釜場を確認する。  何も流れていない。  釜戸の給水ホースのコックを開ける。  何も流れてこない。