マガジンのカバー画像

ショートショート

42
シロクマ文芸部に参加して書いたショートショートや、単発で書いたショートショートです。 ※ すべてフィクション ※ ジャンルはごちゃまぜ ※ 一話完結です。ショートショート同士の繋…
運営しているクリエイター

#創作大賞2024

【目次】 ショートショート 【マガジン】

ショートショートのマガジンを作りました。 ここは目次のようなものです。随時更新していきます。 ◎ すべてフィクションです。 ◎ ジャンルはごちゃまぜです。 ◎ 1話完結です。ショートショート同士の繋がりはありません。 ◎ 年齢指定になるような極端な描写はありません。 順番通りに読むも良し、気になるタイトル、お題から読むもよし、ランダムにえいやっと読むも良し。 好きなように楽しんでもらえたらいいなと思います。 ▶ シロクマ文芸部 企画参加ショートショート▶ 2023年

片方だけの思い出 #シロクマ文芸部

 白い靴下が、片方だけ、しまわれている。  確か、1年くらいそのままの靴下。  私のじゃない靴下。彼の、靴下。元彼の、靴下。この部屋から出て行った、元彼の、靴下。  世界にたったひとつ、でもなければ、高級な靴下でもない。どこにでもあるような靴下。  彼がいなくなって、ポツンと残されていた靴下。  単に落ちたのか、それともわざと落としていったのか。そんなことを確かめようとするほどバカじゃない。 「靴下片方、落ちてたよ」なんてわざとらしく連絡するほど愚かじゃない。  それに

風が運ぶ季節 #シロクマ文芸部

 風薫る海辺の町。  海に面したこの町は、1年を通して海の香りに包まれている。  しかしこの時季にだけは、みずみずしい新緑の香りが、爽やかな風に乗って届く。  灯台に空いた窓から海を見下ろして、彼女は深く息を吸い込んだ。  今年もまた、新しい緑の香りがする。  少し視線をずらして、町と海を隔てるように伸びている堤防に目をやる。 「今年もこの時季がきたなぁ」 「わたし、みどりの風のかおり、大好き!」  堤防に座った老年の男が嬉しそうに呟くと、隣の少女が目を輝かせて返す。

黒い目玉のこいのぼり #シロクマ文芸部

 子どもの日にこいのぼりを飾る家は、ずいぶんと少なくなった。  そのことに少なからず安堵している。  僕はこいのぼりが怖い。  子どもの頃、僕はこいのぼりに、食べられた。  僕の家には祖父母が買ってくれたこいのぼりがあった。  当時の僕にはわかりもしないけれど、きっと高かっただろう立派なこいのぼり。  5歳の子どもの日。  いつもの子どもの日と同じようにその日を過ごした。変わったことはない。  父母と並んで見上げたこいのぼり。  きれいな青空を、飛ぶように泳ぐ姿がかっ

春への逃避 #シロクマ文芸部

 春の夢には終わりがない。  目が覚めてもまだ夢の中にいるみたいに。  ずっとぽかぽかとしていて、どこかふわふわとしている。  朝になってベッドから起き上がって、朝ご飯を食べて、学校へ行く。  授業を受けて、友だちと笑って、家に帰る。  ご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドに入る。  そうしてまた朝になって、ベッドから抜け出す。  窓の外は澄んだ青。  太陽の光はキラキラと新緑を照らしている。  同じような毎日でも、春はずっと夢の中にいるみたいだ。  今までこんなにも