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白い靴下が、片方だけ、しまわれている。 確か、1年くらいそのままの靴下。 私のじゃない靴下。彼の、靴下。元彼の、靴下。この部屋から出て行った、元彼の、靴下。 世界にたったひとつ、でもなければ、高級な靴下でもない。どこにでもあるような靴下。 彼がいなくなって、ポツンと残されていた靴下。 単に落ちたのか、それともわざと落としていったのか。そんなことを確かめようとするほどバカじゃない。 「靴下片方、落ちてたよ」なんてわざとらしく連絡するほど愚かじゃない。 それに
風薫る海辺の町。 海に面したこの町は、1年を通して海の香りに包まれている。 しかしこの時季にだけは、みずみずしい新緑の香りが、爽やかな風に乗って届く。 灯台に空いた窓から海を見下ろして、彼女は深く息を吸い込んだ。 今年もまた、新しい緑の香りがする。 少し視線をずらして、町と海を隔てるように伸びている堤防に目をやる。 「今年もこの時季がきたなぁ」 「わたし、みどりの風のかおり、大好き!」 堤防に座った老年の男が嬉しそうに呟くと、隣の少女が目を輝かせて返す。
子どもの日にこいのぼりを飾る家は、ずいぶんと少なくなった。 そのことに少なからず安堵している。 僕はこいのぼりが怖い。 子どもの頃、僕はこいのぼりに、食べられた。 僕の家には祖父母が買ってくれたこいのぼりがあった。 当時の僕にはわかりもしないけれど、きっと高かっただろう立派なこいのぼり。 5歳の子どもの日。 いつもの子どもの日と同じようにその日を過ごした。変わったことはない。 父母と並んで見上げたこいのぼり。 きれいな青空を、飛ぶように泳ぐ姿がかっ