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ショートショート

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シロクマ文芸部に参加して書いたショートショートや、単発で書いたショートショートです。 ※ すべてフィクション ※ ジャンルはごちゃまぜ ※ 一話完結です。ショートショート同士の繋… もっと読む
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2024年4月の記事一覧

春への逃避 #シロクマ文芸部

 春の夢には終わりがない。  目が覚めてもまだ夢の中にいるみたいに。  ずっとぽかぽかとしていて、どこかふわふわとしている。  朝になってベッドから起き上がって、朝ご飯を食べて、学校へ行く。  授業を受けて、友だちと笑って、家に帰る。  ご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドに入る。  そうしてまた朝になって、ベッドから抜け出す。  窓の外は澄んだ青。  太陽の光はキラキラと新緑を照らしている。  同じような毎日でも、春はずっと夢の中にいるみたいだ。  今までこんなにも

花吹雪のいたずら #シロクマ文芸部

 花吹雪が舞い散る道を通勤できるとは思ってもいなかった。  就活で訪れたときはもちろん、引っ越してきたときにも花はついていなかった。  それが、こんなにも綺麗な桜並木だったなんて。  春の強い風に乗って花びらがあちこちに舞う。  それは雑然としているようで、けれどとても幻想的で美しい。現実世界とは切り離されていると錯覚しそうだ。  桜はすぐにでも散ってしまうだろう。  残されたわずかな桜を惜しむように、心なしかゆっくりと歩を進める。  学生のときに友だちと見た桜とは少し

物言わぬ守護者 #シロクマ文芸部

 風車は穏やかに、しかし力強くその羽根を回し続けている。  風車の前には一体の像があった。風車に手を伸ばす姿をしている。その像は時の経過を映し出してはいたが、その細工の精緻さは疑いようがなかった。  隠れた農村に立つ堅牢な風車。ひっそりとした村に似つかわしくなくも見える。  その風車を観光に使えないかと考えた僕は、土地開発の交渉のためにこの村を訪れた。ただ、どうやってこの村にたどり着いたのかは今ではひどく曖昧だ。  交渉はうまくいかなかった。  あの風車には不思議な力が