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20世紀から現代へ。英国王女のアイディアから生まれたミニチュアの定義、スケールの誕生

ミニチュアのはじまり

ミニチュアの起源は、16世紀にドイツの公爵が職人へドールハウスの制作を依頼したことからはじまりました。
当初は裕福な層しか手の届かなかった高価な代物でしたが、産業革命の影響から一般市民にも親しみやすくなり、大人から子どもは夢中になったのです。
そうして時をかけドールハウスは、ジオラマなどのミニチュアアートへと派生していきました。
しかし19世紀後半までは、現在のようなスケール(縮尺)の定義などは決められていなかったのです。

では、どんなきっかけで現在でも使われているスケールが決められたのでしょうか?
本記事ではミニチュアの定義の誕生についてご紹介いたします。


スケール(縮尺)とは

ミニチュアにおけるスケールとは、大小限らずその対象の大きさを実物などと比較して表す数値です。現在ではジオラマやプラモデルなどによって様々なスケールが存在し、また国やメーカーによっても決められています。

「なぜスケールが必要になるの?」
そう思った人も少なくないでしょう。

これを決めておくことによって、例えばドールハウスでは建物の中に入れておく家具や食器などの大きさがバランスの良いサイズで作ることができるようになります。
より忠実に再現し縮小するドールハウスには、必要不可欠なものだったのです。


贈り物にドールハウスを

1920年初頭、英国王ジョージ5世の妻メアリー・オブ・テック妃のためにドールハウスを制作するという企画が練られていました。

メアリー・オブ・テック妃の肖像写真
(Public Domain /‘Queen Mary Portrait’Image via WIKIMEDIA COMMONS)

この発案者はメアリー妃のいとこにあたるメアリー・ルイーズ王女で、彼女は芸術界で広く顔が知れていたことから、当時の一流建築家エドウィン・ラッチェンスに企画を持ちかけたのです。興味を持ったラッチェンス卿は合意し、企画が進んでいくことになります。


国を挙げての一大プロジェクト!

英国の王妃への贈り物ということで、ドールハウスを作ることとなったこの企画。
最高級かつ最先端な技術を取り入れようとした結果、電気や水道が使えるような「身体が小さければ本当に住んでしまえる」。そんなドールハウスを作ることに決まったのです。

国中の様々な分野の専門家が集められ、日夜会議が繰り広げられていましたが、ここで問題となったのはドールハウスの大きさでした。
電気を通すなら配線、水を通すのであれば水道管が必要となり、一つのドールハウスにこれらを納めるには大きさを決定するのは避けては通れないものだったのです。
そして会議の結果、実物の1/12とすることに決定しました。

「なぜ1/12なの?」
日本ではメートル(m)やセンチ(cm)といった単位が使われていますが、ヨーロッパや欧米などでは「フィート」や「インチ」という単位が主に使われています(1フィート=1cm)。
1フィートを1インチにすると1/12になるため、ドールハウスの標準スケールは1/12になりました。


メアリー王妃のドールハウス完成

1924年、一流の様々な専門家や建築家の最高傑作「メアリー王妃のドールハウス」が完成しました。驚くべきはそのクオリティ。

5階建てとなったこの作品は、実際に稼働するエレベーターや水を流すことが出来るのです。
食器などの小物はもちろんのこと、図書室の本棚に並べられている本は、当時英国で活躍していた170人もの作家たちが寄稿した作品を豆本にしたのです。
寄稿された作品の中には『シャーロック・ホームズ』で有名なアーサー・コナン・ドイルの作品もありました。

アーサー・コナン・ドイルの肖像写真
(Public Domain /‘Arthur Conan Doyle Portrait’ by. Arnold Genthe Image via WIKIMEDIA COMMONS)

さらにドールハウスの台座には大きな引き出しが隠れています。引き出してみると園芸家ガートルード・ジーキルが設計した、英国の伝統的な庭園が現れるのです。

さいごに

現在でも使用されているドールハウスの定義・スケールの誕生は、一国の王妃のために作られた贈り物がきっかけとなりました。
スケールを決めたことで、配線や水道管を通すことができ、さらに多くの小物を建物内に敷き詰めても違和感なく存在していることがわかりますね。

小人が存在していたら本当に住めてしまうほど、実物を忠実に再現されたメアリー王妃のドールハウスは、現在ロンドンにあるウィンザー城にて展示され観光名所にもなっています。

イギリス・ウィンザー城の外観

永遠と眺めてしまいたくなる精巧なドールハウス。メアリー王妃はこの最高級の贈り物を、どんな気持ちで眺めていたのでしょうね。


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