鴇沢哲雄『日本で生きるクルド人』
著者は、2008年に毎日新聞川口通信部に赴任する。そこには、たくさんのクルド人が住んでいた。
著者が、毎日新聞埼玉版に、2017年12月から2018年8月まで、24回にわたって連載した「故郷遥か 川口のクルド人」を基に、全面的に書き下ろしたもの。
映画『東京クルド』(監督: 日向史有、 エミ・ウエヤマ、 本木敦子/2021年)や『マイスモールランド』(監督: Emma Kawawada、 川和田恵真/2022年)を観る前や観た後で読むと、クルド人に対する理解が一層深まるのではないか。
現在の日本の入管・難民認定制度の矛盾を、制度面からではなく、クルド人の生活の側から描いている。
とても読みやすいので、入管・難民問題への入門書としていいのではないか。/
茨城県牛久市にある東日本入国管理センターの施設に2年以上も収容されているベラットさん(次兄マズイムさんの言):
【「入管職員は歯が痛くても病院にも行かせないし、薬もくれない。(略)歯が痛くて大声を挙げたり、精神的に追い詰められ怒ったりすると、拘束して独房に入れるんだ。拷問と同じだ。難民申請している人に拷問のような痛みを与えている。
弟はタオルで自分の首を絞めたこともある。(略)ママは心臓が悪いのに、心配でいつも泣いている。この間牛久に会いに行った。弟が『もう我慢できないから自殺する』と言ったので、ママは『しないで、しないで』とお願いしていた。3カ月ほど前から弟の精神状態が不安定になり、家族みんな心配している」。】/
イブラヒムさん(2014年から2015年にかけて1年2カ月、2017年から7カ月収容):
【「もう二度と傷つけないでね」。クルド人の夫イブラヒムさんに日本人の妻は泣きながら告げた。
2018年3月下旬のある日、東京入管7階にある面会室の出来事だ。1週間ほど前、夫から一日置きにかかってくる電話が途切れ、心配していた矢先に支援団体のメンバーから「(イブラヒムさんが)収容施設内で体中を傷つけ、一人部屋で監視されている」と聞かされた。
妻が不安を押し殺しながら待っている面会室、そのドアを開けて入ってきた夫の腕には長さ5〜6センチ、幅が5ミリほどの傷跡があり、首や手首などにも数十カ所の切り傷が残されていた。(略)2人は泣きながら見つめ合い、透明なガラス越しに互いの手のひらをぴったりと合わせた。面会時間の30分間、ただ泣き続けるしかなかった。】/
イナンさん:
2003年に17歳で初来日。難民申請するも、入管に1年半収容され、帰国。
2012年に再来日。結婚して妻と2人の子どもがいた。家族は2013年に呼び寄せた。その後ずっとビザは更新できていたが、難民申請が却下され、2017年11月に収容された。/
【「家族は両親と弟が5人。ヤギを飼い畑を耕した。山で羊の世話をした。(略)1980年ごろから政治情勢が厳しくなり、クルドの男たちは暴力をふるわれ、おじたちはドイツやイギリスに逃げた。妻の父も指を切り落とされたと聞いた。
ヨーロッパでは助けるよ。おじは『なぜお前が捕まっているのか。難民なら捕まることはないよ。家族をばらばらにすることはないよ』と言った。難民を助けると思ったから日本に来た。でも、日本は難民をいじめる国だった。ここは刑務所と同じ。いやそれ以上だ。収容施設にいつまでいるかもわからない。刑期がないから刑務所以上に精神的な拷問を加えている」。】/
【日本にとってトルコは中東地域における友好国で、クルド人を難民と認めることはトルコ政府による政治的迫害を認めることを意味している。このことが日本でクルド人が難民として認められない政治的な背景とされている。】/
仮放免中の男性(2009年、親族の女性をトルコから呼び寄せて結婚、8歳から3歳までの3人の子の父親。):
【「ヨーロッパにいたらビザがもらえたはずだ。一度トルコに戻らないとヨーロッパには行けないけど、トルコには帰れない。仮放免では働けないというけど、じゃあ、国で家族の面倒を見てくれるのか。(略)強制送還(治安問題)を扱う入管が、難民(人権問題)を取り扱うのはおかしいよ」。】
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