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グレンタレットの旅(あるオフ日)

今日はオフ日
この時間に座っているのは久々だ
ガリアーノをちびちびやってみた
 
BGMにピアノのソロ

一つ向こうの席で女性客が

「あっ ショパン? え~っと『ある時 まなざしに気がついた』っていうのよ たしか」
そう言って、新人らしき若いバーテンダーを見つめた

「へえ~」


『ばっかだねえ~ しくじってやんの  俺なら なんかそれなりの艶っぽい曲でも返すぜ あらら 微妙にへそ曲げたぜ 彼女   し~らねえっと』

カウンターのこちらに座っても、かえってイラつくこともあるのだ
 
 
『ある時 まなざしに気がついた・・・・か それは幸せな曲なのかい?』
ちょっと尋ねててみたくなった


彼女にではなく、作曲家にだ


『そのタイトルを付けた曲は どんな気持ちでつくったんだ?スラスラと?何かを押し殺しながら?それともスキップしながらか?甘酸っぱいのか?痛痒いのか?』
 
「ラスティーネイルをください」

近くにいたバーテンダーにオーダーした

そのバーテンダーは一言もなく、軽くほほ笑んで、頭を下げた

『そう 今夜はそんな気分だよ』

そのバーテンダーは、バックバーからドランブイを招き、カウンターに置いた
コツンと小さな振動が伝わった
そしてもう一つ

『さあ 何を』

手が止まった


バーテンダーが何かを考えるには十分な時間だ

そのバーテンダーは身をかがめ、ストックボックスを開いた




ボトルは音もなくカウンターに飛び乗った

グラスでコロンと氷が鳴った
 
すると、ジャケットが語り始めた
 
甘い想い出を語った
ちょっと嫉妬顔をしたらシーンが変わった
 
しぶい話を語った
笑った
 
熱く響く話を語った

『それでいいんだよな その姿勢でいいんだよな』

問いかけるとラベルは鼻を舐めた
 

せつなく響く話を語った

自分の無力さを感じた
 
壊れてしまいそうな話を聞いて
その扱いに汗をかいた
  
 
グラスの氷が コロンと鳴った

「また飲みたい」

ストックボックスに戻るボトルに、そう告げた
ゆっくりとした瞬きが帰って来た


 
「ごちそうさま 貴重なものを」
そう言って席をたった

オイラの背中に向かって
きっと そうきっと
バーテンダーは、軽くほほ笑んで頭を下げているに違いない
 
『ちぇっ そう そんな気分でした     かなわねえ・・・・・・』
 
 
そんなオフ日は静かに去っていった

have fun



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