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鬼も逃げる 悪魔のグラス

『バーに時計なんて しかもよく見えるところに・・・・』
よそから来たお客さんにはよく言われる
自分もこの街に流れ着いた時には、いろいろめんくらったものだ
未だに話し言葉が馴染まない
 
「いらっしゃいませ これから?」

「ええ そうなの ん~ 」

「いつもの?」

「そうね 」
彼女は 出勤前の一杯にデヴィル・カクテルを飲む
稀に違う時もあるが、そんなときも仕事開けにはデヴィルカクテルを飲むのだった
 
以前
『どうして それを?』
『内緒っ』
そう言って グラスを揺らしながらグラスの中を突き抜けた向こうを眺めた
 
彼女を見送って、入れ違いのように
「ども こんばんわ」

「いらっしゃいませ 今さっき」

「うん 後姿を見送ったわ わたしも一杯飲んで追いかけなきゃ」

「じゃあ いつもので?」

「うん」
デヴィルス・カクテルがカウンターを滑る
 
彼女にも以前
『なんで これ?』
『? ないひょどす』
はぐらかされたことがあった
 
 
花街へ赴く女性たちの多くが、何かしらのゲン担ぎをその外郭ですることがある
大きな反論を受けそうだが、芯の弱い女性にそれは多い
そう思っている

端から「魔」を体に入れておく事によって、他の「魔」から身を守るためかもしれない
『それだけシンドイ世界なのかねぇ 本当に百鬼夜行なのかしら・・・ボクちゃんにはわからしまへんでんがな・・・』
 
彼女も 一杯飲んで駆けだしていった
 
 
小一時間たったころ馴染みの焼鳥屋が顔をだし

「ばんわー 行燈切れそうよ チーカチカしてるぅ」

「わあ ありがと すぐ とっかえるわ  どもねぇ~」
ドライバーと蛍光管を握って外に出た
 
「まあ いやどすなあ 行燈がきれかかっておす」

「ほんまや ゲンの悪い」

「すんません ねえさんがた・・・・・・・・」

「あなたね 例えお休みの日とはいえ キティーちゃんのパッチ当てたジャージ着んといてな」

「んまあ ほんま?」

「その上 レジで 袋要りませんとか言いながら これまた大きなキティーちゃんのトートバックだしはるんですもの 私 レジ変えたわ」

「おお いやだいやだ」

「かっ 関係ないでおまへんか たまたまでっさかい」

「はあ 流暢なくちぶりですこと  マネできまへんなあ」

「ほんま ほんま  ささ行きまひょ 」

「あらいやだ 遅れてしまいまんがな  あら いやだ テンダーさんのが移ってしもうた」

「それじゃあ テンダーはん お繁りやしぃ」

「お繁りやして おくんなさい ほほほほほっ」
 
 
 
『ちっ 悪魔っ!  おはようおかえり~  ああ馴染まんわぁ』



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