楽屋では

楽屋では　　の一コマ　濃い茶割り添え

一つ前の舞台が終わり、役者達が楽屋に戻った
束の間のうたた寝をする者、出前のタンメンをすする者、みんな次の舞台に備えているのだ
　
シャワーを浴び、濡れた髪を背骨に這わせながら鏡の前に立つ者
さながらヌーディストビーチのような様相の楽屋
　
でも、そこには次の舞台への緊張感が芽を出している
　
今、役者のタバコに火を付けてやった古老の男は、今度は鏡の前にいる役者の濡れ髪にドライヤーをかけはじめた
　
この男と役者達は一言も言葉を交わさない
鏡の前の役者もそう
「ありがとう」でも「あっ助かります」でもない
男もそう
「髪乾かしましょうか」でも「熱くないですか」でもない
　
　
唯一、楽屋に入る事を許されている男
　
楽屋での一コマ
　
　
幕開きの拍手を確かめた後
男は椅子に座って目をつむっていた
傍のテーブルには、空になった濃い茶割
　
役者からの心遣い
男には十分な報酬なのだ

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