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竹鶴21年とクリスマスツリー

彼女は目が覚めたベッドの中で大きな伸びをして、ちょっとだけ目を開けた
 
南に面した窓のカーテン越しに、しっかりした朝だとわかる光が透け出している
シルクのショートパンツに薄紫のロングTシャツの彼女は、もう一度まるまって小さな吐息をもらした
朝の知らせなど見なかったというように
 
 
幼いころの夢を見た
 
トップにシルバーの星を付けたシルバーグリーンの大きなツリーがある
シルバーとゴールドの飾り付けのところどこに姫リンゴのイミテーションがアクセントになっている
 
それを見ている幼い彼女は、そこにはプレゼントがあるのだという事がわかっていて、ゆっくりと歩み寄っていった 
でもそこにプレゼントの箱らしいもが見当たらないのだ
言い表せない、悲しみに似た感情に包まれた
 
ふと振り返ると祖父がいた
氷の入ったグラスに「竹鶴21年」を注ぎながら彼女を見ている
静かな表情の中に、何かを企てているのが読み取れた
 
プレゼントはツリーのどこかにあるのだ
ツリーの周りを注意深くゆっくりとめぐった
 
祖父はうなずきながらグラスをかたむけている
その香りがほのかに漂った
 
 
探しあぐねた幼い彼女は、ツリーから少し離れた所で腰に手を当て眺めなおした
 
『二つある 落ち着いて探してごらん』
祖父は微笑みながら言った
  
 
床からトップの星まで、ゆっくりと そして何度も角度をかえながら見つめなおしていった
 
 
 
彼女の瞳に変化があった
何か見つけたのだ
ツリーに歩み寄り『何か』を確かめた
 
枝の付け根に小箱を見つけたのだ
「あったよ おじいちゃん! これでしょ?」
 
祖父はグラスを持ち上げながら ニッコリほほ笑んだ
幼い彼女は小箱を二つ抱きしめた



 
 
 
ベッドの中で二つ目の吐息をもらしながら
『中を見とけばよかった』
そう思いながら彼女は朝を納得し始めた


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