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信号機は夢を見る
21時。すっかり日が沈み、徐々に交通量が減ってくる道路もある時間帯。一部を除いてだいたいの店は閉まり、人々は家に帰る。家の外は静けさが満ち始めて、皆家の中で思い思いの夜を過ごすのだろう。幼い良い子であれば、もう寝る時間だ。
そんな時間帯。一部の信号機も「眠る」。
交通量が減ってくれば、いつも年中無休で赤黄色青とライトを変え続けている信号機もその必要がなくなる。そのため、その時間帯の交通量に合わせ、信号機は黄色か赤の点滅信号となる。
私の母は、よくそうなった信号機を「寝ている」と言った。
一般的にそう言うのかはわからないが、母がそう言っていたから、私も自然とそう言うようになった。「ああ、この時間ここの信号寝るんだね」と。
わりと一般的なのか、それともわかりやすい表現だからかはわからないが、通じなかったことは今まで1度も無い。ちなみに調べたら運転中の居眠り事故とか、睡眠時無呼吸症候群のページなどが出てきたため、結局わからないままだ。いや私の検索の仕方が悪いだけかもしれないが。
こういった、人ではないものを人に例える手法は「擬人法」といって、わりと一般的な手法だろう。noteを読む人は読書好きの人が多いそうだから、馴染み深い表現なんじゃないだろうか。
そんな表現法を知らない頃から、私はなんとなく、物にも意思があるように感じることが多かった。今ではすっかりそんなことも減ったが、幼い頃なんかは非常に強くそんな風に感じていたと思う。
たぶん、幼稚園や保育所の先生がよくそんな表現をしていたからかもしれない。物を乱暴に扱う子供に「ほら、お人形さん痛がってるよ」と注意する声をよく聞いた。
まあ今でもたまにそんな風に感じることもある。Affinity Photoいじってるときに操作を間違えてフリーズした時「ごめん間違えたんだって許して」って謝ってるし……。
点滅する信号機。
厳密に言えば寝ているわけではないのだろう。黄色は徐行、赤は一時停止。そのサインを出し続け、深夜も立派に職務を果たしている。
そもそも機械なのだから、眠っているわけではない。点滅するのはいちいち昼間と同じように赤信号で止めるほどの交通量が無いからだ。
だがもし、あの瞬間、信号機が眠っているのだとしたら。
彼等はいったい、どんな夢を見るのだろう。
信号機の幸せな夢とはなんだろうか。平和に流れる道路の夢か、それとも、同じ場所に固定されている彼等だから、別の場所に行ってみたいと願って、そんな夢を見たりして。
はたまた、悪夢も見るかもしれない。信号機の悪夢とはなんだろう。目の前で事故が起こってしまう夢だろうか。それとも、撤去されて廃棄されてしまう夢か。
私は信号機ではないから、それは全くわからないけれど。
眠る彼等が幸せな夢を見ていたら良いなと少しだけ思った。
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