見出し画像

『半助喰物帖』第一稿

 019

 おかげさまで、『半助喰物帖』第1巻の感想などたくさんいただいており、大変ありがたい限りである。なんとファンレターまでいただいているので、これは季節のお便りなどでお返しできればと思っている。

 さて、この漫画作品はちょっとばかり変わった成立過程を経て連載開始と相成ったのだが、それよりもずっと以前に書いた、いわば第一稿とでもいうべきものが発掘された。

 ここにファンサービスの一環として公開するので、興味があれば読み比べてみてほしい。なお、ネタバレ防止のため、2行ほど削った説明書きがあるが、それ以外はそのままである。


■第1話「残業上がりの塩むすび」
 ※香澄が半助を拾った理由、その後の文化ギャップなどは第2話以降で語り、第1話ではこの作品が何をやるのかを中心に見せる。
 ※基本的には「几帳面な武士が、都会の一人暮らしOLの台所を預かる」話。本筋は「飯もの」。

・冒頭、幕末パート(4ページ前後想定)
 ※第二次長州征討の激戦地、芸州口。最新装備を持つ長州藩と、この方面の幕府軍の主力で、洋式装備を持つ紀州藩が攻防を繰り広げている。主人公・楢原半助は紀州藩支藩の越部藩士として同じ陣中にあった。

〈慶応二年六月十九日夜〉
〈安芸国西部 大野四十八坂〉
 キリッとした顔で、銃を構える半助。
【戦闘シーン】※あとでちゃんと書きます
「おい、半助! ──半助、どこへ行った!?」
 撃たれたのかと思ったが、そういうわけでもなかった。
 なにか、穴にでも落ちたような……そんな心地がしたあと、私は──。

・扉(見開き想定)
 ※タイトル、サブタイトル、クレジット、煽りネーム等入る
 香澄の部屋(2DK)のキッチン、テーブルで食事を頬張る香澄と、丁髷にエプロン姿でフライパン片手の半助 ※絵的にいいようにしてください
 
・本編シーン1、半助@自室
 ※2DKのうち、4畳半の狭い方が半助にあてがわれている。元彼が使っていたコタツ机と蛍光灯スタンド、アナログ文字盤の目覚まし時計、衣装掛け、収納BOXなどが半助用になっている。部屋は畳敷きで、2畳分ほどのちょっとくたびれたカーペットが敷いてある(コタツ机の足が畳を痛めないように)。部屋の隅に布団が畳んである。基本的に几帳面。

 机に向かい、考えながらノートに鉛筆を走らせる半助。香澄の元彼のおさがりである、ちょっとくたびれた普段着を着ている。ノートの脇に、古びたタブレットが置いてある。
〈辛丑歳⚪︎月⚪︎日。〉
〈余はこの時代に漸く慣れつつあり。〉
〈本日よりこの帳面に日々の出来事、作り食いたるものを記すことにす。〉
〈大和越部藩士 楢原半助正時〉
 そこまで書いたところで、タブレットが光り、香澄からのメッセージが表示される(メッセージアプリはそれらしければOK、表示は「香澄どの」)。
〈残業終わったよ〜〉
〈これから電車乗るから、帰宅は10時くらいかな〉
〈お腹はちょっとだけ減ってるから、軽く何か食べられるとうれしいです(^^)〉
 確認して、覚束ない手つきで操作する半助。
 画面に「了解」のスタンプ。
(拙者、まだこの機械で文字を打つこと能わず。)
(香澄どの、申し訳ないでござる……)
 タブレットに向かって恭しく頭を下げ、キッチン向かう半助。

・本編シーン2、半助@キッチン
 キッチンに入ると、椅子の背にかけてあったエプロン(可愛らしいもののほうがギャップがあっていいかもしれません)を身につける。
 キリッとした顔になる半助(冒頭と同じ表情)。
(さて、香澄どのの腹具合にちょうど合う喰物はなんでござろうか……)
(残業のあとの香澄どのは疲れておるゆえ、食べるのが面倒なものはよろしからず)
(帰宅までの時間は30分少々、手早く作れるものがよかろう)
(なるたけ単純で、美味いもの……そうだ、昨日仕込んだあれ(傍点)がそろそろ──)
 神妙な顔で冷蔵庫をあけ、ジップロックを取り出す。
〈茄子漬け。〉
 ひとつ取り出し、少し切って口に運ぶ。
(──よし。)
 にんまり笑う。
 切った茄子漬けを小皿に盛る。

(みそ汁もあったほうがよかろうな)
 小鍋に水を入れ、顆粒だしを入れてガスコンロにかける。
(出汁もとらんでよいし、湯もすぐ沸かせる)
(なんと便利であることか)
 白ネギと油揚げをまな板に並べ、慣れた手つきで切っていく。
 湯が沸き、白ネギと油揚げを投入する。
(香澄どのは、ネギの歯ごたえを好むゆえ、このくらいでよかろう)
 一煮立ちしたところで火を止め、味噌をとく。
 お玉で少し味見。
(うむ、よかろう)
〈白ネギと油揚げのみそ汁。〉

(さて、なんとも便利なこやつのおかげで)
 炊飯器。保温になっている。
(昼に炊いた飯を、温かいまま夜に食える)
(なんともありがたきことなり)
 炊飯器に一礼し、しゃもじを取り出す。
(いったい、握り飯は、簡単なれど上手下手が如実に出るものでもある)
(私はずいぶん沢山握ってきたゆえ、いささかの自身これあり)
 塩水に手を浸し、ちらりと窓の向こうを見る。
 夜道を歩く香澄らしき女性がちらりと見える。
(頃合いよし。では、いざ尋常に──)
 手早く完成する塩むすび(2つ)。
〈謹製・塩むすび。〉

・本編シーン3、半助・香澄@キッチン
 香「半助、ただいま〜」
 どたどたと香澄が居間に入ってきて、バッグや上着を雑に放り出す。
 香「あ〜疲れた……って、おお、美味しそう!」
 テーブルの上に、半助の作ったもの一式が並ぶ。 
 半「こんなものでよかったでござろうか?」
 香「ばっちりだよ〜。ありがとう、半助!」
 食べ始める香澄
 香「ん〜〜」「美味しい!」
 香澄の笑顔
 半「それはようござった」
 食欲旺盛に食べる香澄
(この女人が、拙者の現在の家主であるところの吉川香澄どのである)
(御年25、未だに独身で、しかも働いておられる)
(が、この時代においては普通のことであるらしい)
(この時代──拙者の元いた時代から、どうやら150年以上も後の世であるらしい)
(果たして拙者は、元の世に帰ることができるのだろうか?)
 ため息をつく半助
 香「半助、どうかした?」
 半「……いえ」
 香「美味しかったよ、いつもありがとね。ごちそうさま!」
 一礼する半助
 半「お粗末様でござる」
(まあ──今は、この時代に慣れるが先)
(帰る方法は、いずれ見つかると信じるほかなかろう)

・本編シーン1、半助@自室
 再びノートに向かう半助。
〈香澄どのは残業にて、戌の刻帰宅〉
〈余は塩むすびにみそ汁、香の物を供し評判なり〉
 ちょっと首を傾げ、今一度鉛筆を走らせる
〈それにしても、炊飯器はまこと便利にて候〉

 第一話終わり

半助喰物帖(1) (アフタヌーンKC)amzn.to 680円(2019月02月24日 13:18時点 詳しくはこちら) Amazon.co.jpで購入する

(これより下に文章はありません)

ここから先は

0字

¥ 100

サポートは僕の生存のために使わせていただきます。借金の返済とか……。