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友達が肩を震わせながら泣くのを見て私はただ背中をさする事しかできなかった

高校のクラスは母校の特性上、三年間持ち上がりだった。当時の私が母校を選んだ理由の一つとして「中学時代の知り合いが誰もいないから」と言うものがあった。

そのはずだった。そうなるはずだった。

なのに中3受験間近、同級生(双子)が急に、私と同じ高校を受験する事にしたと言ってきた。

その心境は定かではない。

それを聞かされた時、私はそうなんだとしか言えなかった。

心中は嫌で嫌で仕方がなかった。でも私にそんな事言える権利ないって思って、グッと飲み込んだ。

中2で双子の片割れと同じクラスになってクラスが徐々に打ち解け始めてきた時、一人でいた彼女に私が話しかけたのがきっかけで行動を共にするようになった。今思えばただそれだけで友達と言えるのか微妙。

中3も同じクラスになって、アニメが好きだった彼女には別のアニメが好きな友達が出来たらしく、それだけならよかったのだけれど、3人でいる時に私の知らない話ばかりで盛り上がる事が多々あって。

なんだかこの時間無駄だな、私がここに居る意味ないわって思ったのがきっかけで、グループを抜けたと言うのか、徐々に私は彼女達との距離を遠ざけて行った。

そんな微妙すぎる関係性だったから、言葉を選ばずに言えば私は気まずかった。気まず過ぎた。

入学してから徐々に、双子の粗が目立ち始めた。

その変貌ぶりは、中学時代と同一人物なのかと疑うほどで。

そんな同級生が高校生になってからは遅刻欠席が目立つようになり、授業態度もあからさまに悪くなった。

どの教師からも目をつけられていたにも関わらず、何度指導を受けてもケロッとしていた双子の精神状態を私は疑ったし、ある意味で強靭なメンタルを持つ双子を凄いと思った。

そんな私達のクラスに、事件が起きた。それは三年次のハロウィンの事。

校則でお菓子の持ち込みは禁止となっていて、でも皆持って来ていて。教師側も、バレなければいい、みたいなのが暗黙のルールだった。

そんな中、双子がお菓子を食べているのを担任に見られ咎められた。そうして同時に、担任は教室全体に対して問いかけた。

他にお菓子を持っている人はいないか、いたら名乗り出なさい、と。

その問いに最後まで名乗り出る者はいなかった。

そりゃそうだよな、と思う。自分から怒られに行くような馬鹿はここにはいないと思った。

とは言え、実は、挙手しようとしていた私。

だけど私が言ったところで、その次に誰も続かないであろう事もまた簡単に予測がついていた。

私が手を挙げなかった一番の理由は、双子の、コイツらの為にわざわざ名乗り出たくなかったという至極わがままなものだ。

大嫌いで忌み嫌っていた双子の為に、わざわざ汚名を着るなんて事はしたくなかった。

そんな私は最低なやつだと思う。

ただその日の放課後クラスの半数くらいが自主的に残って「このままじゃヤバくない…?どうする、謝りに行った方がいいよね…?」って事になって、何人かずつで職員室に突撃(言い方)しに行くことになって。

そこには私もいた。

私は私の意思で、自分の為にそこにいた。

あの時お菓子を持っていたにも関わらず正直に挙手しなかった事、自分に嘘をついた事について謝る。

そう決めていた。

どんな流れでそうなったのかは忘れてしまったが、何人かの中には私の他に友達もいた。

その友達とは今も関わりがある仲で。

言い返せばその友達以外に親交がある人間は存在しないが。

そんな友達含め、数人で前のグループが終わるのを職員室前で待機していた時の事。

友達の様子に異変が生じた。まるで涙を堪えているかのような歪んだ顔をしていたのだ。そしてその直後、友達は廊下を走り、隅っこで泣き出した。

私は咄嗟に、友達の背中を追いかけていた。

後に続く者はいなかった。

あの日私は、友達が肩を震わせしゃくりあげて涙を流す姿を後にも先にも初めて見た。

気づけばそんな友達の背中をさすっていた私。あの時の私にはそれしか出来なかったのだ。

私は友達に、こんな事しか出来なくてごめん、と言いながら背中をさすり続けた。友達はフルフルと首を横に振ってくれた。

あの時の私がもう少し器用だったならば何か、掛けられる言葉の一つや二つでもあったかもしれない。

だけど当時の私にとってはあれが精一杯だった。少しして落ち着いて、定位置に戻った私達。

あの時私は泣いている友達を見て思った。

なんて美しい綺麗な心の持ち主なんだろう、と。

少なくとも私には泣けなかった。と言うより嘘でも泣けなかったし、アイツらの為に泣きたくなかった。わざわざ感情を動かしてやる気にもならなかったし何よりも動かなかった。

私達が謝りに行った時、周りは私以外、泣いていた。あたかも「泣いていない私が頭のおかしい人間だ」とでも言うように。

周りを見渡して「みんな嘘泣きが上手いな」と内心せせら笑っていた私はきっと、あの場にいた誰よりも最低野郎だ。

別にそれでいいけどさ。

なんか最近、あの時の事を思い出す頻度が多くて。それで書こうと思って書いた。

書けば昇華されるかなと思って。

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友達が肩を震わせながら泣くのを見て私はただ背中をさする事しかできなかった|美咲