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【ep.5】いつか必要としてくれる "誰か" のために

18歳。大学生になってから始まったのは、神戸での一人暮らしと音楽にあふれた毎日だった。

「発達科学部人間表現学科」という、今はなくなってしまった不思議な学科には、現代芸術を専門とする教授がいて。個性的な先生や仲間たちとの、なかなかカオスな日々。笑

聴いたこともなかった現代音楽の世界に、最初は付いていけなかったけど。だんだん「音楽ってなんでもありなんだな」と、私の固定概念をいい意味で崩してくれた。

サークルは、一つ上の先輩が立ち上げたばかりのアコースティック音楽サークルへ。大学の広いテラスでギターをかき鳴らしながら、空に向かって楽しく歌う日々。今まで実はできていなかった「音楽をただ楽しむ」ができる場所になった。

どちらもビビビッと直感で選んだ場所。導かれるように、小さいけど夢見たステージに立ち、ライブ経験を重ねた。

 *

一方、オリジナルの曲作りは相変わらずこっそりと。勉強しないと作れないよなぁなんて言い訳しながら、思うように進めずにいた。

けれど、大学3年生の冬の夜。悲しくて悔しくて優しくて切なくて…そんな出来事がごちゃ混ぜになった夜。心のままに言葉を並べたら、スッと頭の中に歌ができて涙が出た瞬間があって。

そっか、これでいいんだ。思ったまま、感じたままを表現できればいいんだ、と少し肩の力が抜けた。

表現のハードルを手の届くところまで下げてくれた出会いやきっかけに、何度も巡り会えた大学時代。怖くて仕方なかったそれまでの日々と比べれば、びっくりするほど進化していて。「歌うために生きる」は、ある意味実践できていたし、満足するには十分だった。

だけど、この日々は永遠じゃない。そうどこかでわかっていたから、これでいいの?本当にやりたいことは何?と、やっぱり悩み続けていた。

心のどこかで恐れていた季節は、ある日遠慮なくやってきた。それまで漠然と「音楽をやる」としか考えていなかった私の将来に、突然迫ってきた就職活動という現実。なんとなく雰囲気が近そうなメディア系の会社を受けてみても、どうも違う。

そこでようやく、「本当にやりたいことはまだできていない」と認めざるを得なくなった。

いろんなライブを経験して、なんか進めているような、夢が叶ったような気さえしていたけど。私がやりたかったのは、"自分で歌を作って" 届けることだから。

とはいえ、何をどうしたら良いのかさっぱり。進む道に答えが出ないまま、私はとあるシンガーソングライターのご夫婦のイベントに向かった。

お二人と出会ったのは偶然で。サークルで使う音楽ホールへ打ち合わせに行ったとき、たまたま飛び入りライブイベントをされていて、「歌いにおいでよ」と言われたのがきっかけだった。

そこは、私よりずっと大人の人たちが楽しそうに音楽をしている場所。「大人になっても夢を持っていいんだ」と、勇気をもらえる時間だった。

二人に会うと何か進める気がして、思いきってモヤモヤを話してみた。すると「ミュージシャンに就職か?笑」なんて。いやいや(笑)と思いつつも、できるわけないと思っていた気持ちが不思議と緩んでいく。その方は25歳のときに「やっぱり歌わなきゃ」と仕事を辞めて、ライブ活動を始めたらしい。

「『やろう』と思ったことは、その時点でそれを求めている人がいることなんだよ」

実際にそうして今、私に勇気をくれているお二人の背中が、何よりの証拠に思えた。私がやろうとしていることも、誰かに必要とされているのだろうか…?わからないけど、そう信じてみたくなった。

「とりあえず、やろうと思ったことをやってみようと思います!」そう言った後の帰り道では、急いでないのに走り出したくなった。

「いつか必要としてくれる "誰か" のために」
そう思うと、どこまでも走れそうな気がするんだ。

大学4年生の春。どんどん強さを増す雨の中、神戸・北野にある傾斜の強い坂道をひとりで登っていた。

「やっぱり引き返そうかな」
心のどこかにある後ろ向きな気持ちが、行くのを阻む大粒の雨のせいで、どんどん膨らんでいく。

そうしてたどり着いたのは、とあるライブバー。ご夫婦に教えてもらった通り、「ライブハウス 飛び入り 神戸」で検索して見つけたお店。

扉の前で少し葛藤する時間が、永遠のように感じる。…怖い。でも、この扉を開ければ何か変わるだろうか?

1%の希望にめいいっぱい力を込めて…重たい木の扉を開けてみる。
そこから、私のシンガーソングライターとしての活動がはじまった。

***

「私が私を表現できるようになるまで」の物語集。ep.5〜は自分の表現や届け方に試行錯誤する、私の人生の第2章の物語です。

それまで私が知っていたシンガーソングライターは、テレビの中にしかいなかったけど。そうではない形で音楽を仕事にしている人に出会えたのは、私にとって重大な出来事だったなと思う。

なりたいものになる方法、それは名乗ってみること。
そして動き出してみること。

資格があったり、入学・就職といった節目があったり、わかりやすいものもあるけれど。たいていは「名乗ったもんがち」なのかなと思ったりもする。

自己紹介で「シンガーソングライターをやっています」と、自信を持って言えるようになるには、かなり時間がかかったけど…(なれてはいないかも)。宣言はとても大きな力を持つ気がしている。

さて、憧れのシンガーソングライターを名乗り出した私は、どんな道を進むのか?次回のお話もお楽しみに^^

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このお話をテーマにした動画を作りました。
テーマ曲は、「群青/YOASOBI」。

物語編歌編と2つアップしているので、ぜひあわせてお楽しみください!


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