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【ep.9】ずっと手紙の返事を待っていたの

私の声、風になれ
もう言葉ならいらないから
la la la la…  聴こえてくるでしょ?

Your Heaven/YUI

子どもの頃から、私の中には音楽が流れていた。
それはいつも風のように流れて、どんなに素敵なメロディでも一瞬で消えていってしまう。それが少し寂しかった。

これまでのエピソードで語り続けてきたように、私が歌を作りたかったのは、うまく伝えられなかった想いを形にするため。

だけど一方で、私の中に流れるメロディを表現したい、感覚を音にしたい…。そんな不思議な願いも、心の底で眠っていたのだと思う。

2021年の春、私はこれまで7年続けてきたブッキングライブをやめようと決めた。なんとなく憧れてきた "ワークショップ" という形に挑戦してみようと思って。

そんな決意を固めた頃、対話や想いを大事に事業を展開しているお友達から、タイミングよく「一緒にイベントを作らないか」と誘われた。ただ、ご時世的にオンライン開催にしようとなったので、歌や音を出し合うようなイベントは難しく…。

悩んで考えて、最後に出てきた選択肢が「感覚にフォーカスする」という内容だった。ちょうど「対話型鑑賞(美術作品を見て、感じたことを対話するという鑑賞方法)」を知ったところで、それを音楽でやってみたい!と思ったのだ。

そして、6月5日。「感覚をコトバに」というタイトルでイベントを開催。
主な内容はこの3つ。

  • ふんわり声出し 
    ピアノ伴奏に乗せて自由に声を出す

  • 対話型鑑賞 
    絵や音楽を鑑賞して、感じたことをシェア

  • 世界観のシェア 
    感じたことをまとめて、音楽をバックに朗読

緊張していたし、時間配分も手こずったけれど。最後には気持ちが溢れて涙を流す人が出てきて、それをきっかけに参加してくれた人みんなが泣き出すという展開に…!

予想外の出来事に私は全然ついていけなかったけど、「幸せな時間だった」という心からの声をもらって、良い時間が作れたんだなぁとしみじみ温かい気持ちになった。

ずっと分からなくてつらかった。自分は何を求めているのか。シンガーソングライターに憧れて、小さいながらもステージに乗って、それでも満たされなくて…。一体、私は何がしたいんだろう?

その答えを探し続ける中で、これまで嬉しかった出来事を思い出してみた。

亡き母への想いを綴った「雨のむこう」を歌った大会で。同世代の女性がわざわざ「大事な祖父を亡くして苦しかったけど、こんな考え方もあるんだって勇気が出ました」と声をかけてくれたこと。

一人で勇気を振り絞って路上ライブをしたとき。遠くで立ち止まっていた男性が涙を流し出して…。声をかけたら、曲が響いたと言ってくれたこと。

「共鳴」って言うんだろうか?私の音が、想いが、誰かの内側に響いたと感じられる瞬間が幸せ。…そう分かると、やっとこれまでの出来事も葛藤も、一つに繋がった気がした。

あぁ、そっか。私はずっと手紙の返事を待っているんだ。

始まりはたぶん、母に自分の想いを理解してもらえない苦しさで。伝える手段として選んだのが歌だった。それから私はずっと、手紙のように "私" を詰め込んだ歌を、いろんな人へ届け続けている。

封筒を開けてくれない人も、「手紙の内容とかいいから封筒キラキラにしたら?」なんて言ってくる人も、本当は求めていなくて。

本当の本当は、私の手紙を読んで思わず返事を書いてくれるような人と出会いたくて、歌い続けてきたのだ。

それなら、音楽を聴いて感じたことを言葉にしてもらう「感覚をコトバに」って、私にとって最高の場所じゃない?だって、手紙の返事を直接聴けるのだから。

紆余曲折すぎてしんどかったこれまでの日々も、全部この場所に出会うためだったのかもしれない。そう思うと、やっと報われたような気がした。

11月。「私の人生において表現とは何か」なんて壮大すぎるテーマを持って、淡路島へひとり旅に出かけた。自分の気持ちを見失っていたあの頃から、怖さと闘いながらも表現を試行錯誤し続けている今までを、丁寧に振り返る3日間。

思えば、歌うために生きようと決めた高3のあの日から必死だった。音楽をやらないと生きていけないような気がして、本当の目的を何度も見失いかけてきた。

私の歌が誰かのためになれたのかなんて分からないし、少なくとも有名なアーティストのような影響力はきっと、一生かけても持てないと思うけど。

私の作った音楽は "私" という一人の人間を救ってくれたよ。

「私を生きる」。歌を通して、それが少しずつできるようになったからこそ、今はがむしゃらにならなくても、ある程度幸せに歩けるようになった。昔の私と同じように悩んでいる人を、「大丈夫だよ」と温かく包み込めるような場所も言葉も紡げるようになった。

今まで私を生かしてくれて、ありがとう。これからは歌うためじゃなく、もっと幸せに私らしく生きるために音楽をするね。そして、人を幸せにできるような表現をしていこう。

あなたの声聴いていたわ
つらい夜を越えていけば
いつかわかる そう歌っていた
だから私 信じていたの

Your Heaven/YUI

やっと次に進めるんだ。広大な海を眺めながら、人生の新しい章が始まる予感をたしかに感じていた。

***

「私が私を表現できるようになるまで」の物語集。ep.9は、私だからこそたどり着けた表現に、出会えた気がした2021年のおはなし。

「感覚をコトバに」に繋がった私らしさは、今回挙げた話だけじゃない。

ふと手に取った昔のノートに、音楽を聴いて感じたことをメモしたページがあったこと。理論的に話すのではなく、感じたことを共有することで、人との距離が縮まるなと学んだこと。

コーチングを通して、私は今までずっと安心して表現できる場所を求めていたのだと気づいたこと。だからこそ、人に安心感を与えることを大事にしてきたし、もしかしたら安心できる場所を作ってあげられるかもしれないこと。

いろんな気づきや学びが一つに繋がった気がして、今までに経験のないような運命を感じた。たとえこれからも変化していく想いだとしても、今はこの運命を信じてみたいなと思っています。

次は最終回。第1〜2章のまとめとこれからのお話です。最後まで見守っていてもらえると嬉しいです^^

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このお話をテーマにした動画を作りました。
テーマ曲は、「Your Heaven/YUI」。

物語編歌編と2つアップしているので、ぜひあわせてお楽しみください!


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