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~第4章~【カサンドラ】41.2015~2019

何年も、同じ部屋で同じことを繰り返し
何年も、同じような日々をやり過ごした。
私の身体は徐々に人間すべてを受け付けなくなり
バセドウ病発症時の症状であった、飲食店で食事が摂れない会食恐怖症というものが再発し、徐々に人と会わなくなっていった。
その後は人との少しの会話で吐き気に襲われ、言葉を発せなくなるという
謎の病に苦しんでいた。 

病院に行っても、神経症の一種と言われるだけで
出される薬は何も効かない。
ひとりでの行動しかできないことを、うまく説明することができず
バンギャになって新しくできた友達とも疎遠になっていった。
それでも毎日を生きなくてはいけない。
それでも明日も目が覚めるのだ。

誰にも見せる機会がないのなら、
流行のファッションで身を包む意味もない。
私は化粧をしなくなり、バラバラのまま髪を伸ばし、似たような服ばかりをローテーションして
なんとか仕事にだけ通った。

生きていくのがギリギリの状態が3年ほど続いた、秋の夜
あの時感じた、猛烈な強迫観念に襲われた。

私は今すぐ、死ななくてはいけないのだ。


呼吸が乱されるほどの勢いで襲ってくるこの強迫観念は
数分間私を縛り付けたまま、身動きを取らせてくれない。
わずかに動く手で、また薬の箱を引き出した。
しかししばらく安定剤を飲んでいなかったので、バセドウ病の薬しか入っていない。
何か死ねそうなものはないか。
冷や汗を流しながら、目を見開いて部屋の中を見回した。
化粧ポーチの中にカミソリがある。
だけれど、全身の震えが激しく
目と鼻の先にある化粧ポーチのある位置まで、手が届かない。

5分ほどして、発作の波が治まると同時にトイレに駆け込み
体内に溜まった黒い塊を空気にして何度も何度も吐き出した。

一連の発作が終わると、数分間全力疾走し続けたかのように呼吸が荒れ
全身が酷い倦怠感に包まれる。
そのままベッドに仰向けになり、流れてくる思考に心身を乗っ取らせた。


死ぬ理由は、探せばいくらでもある。
それらを見ないように、ライブハウスの爆音で耳を塞ぐことでしか、
生きてくることができなかった。
見ない振りをした腹いせのように、生きてはいけない理由達がまとめて襲ってくるのが、この発作だ。

生まれたその日から、私は孤独だった。
”自分”というものを、明確に感じることができないまま
自分を殺し、押し込め、亡霊のように消えかけた”自分”の存在を確認するかのように髪を染め
肌を露出し、大きな声で誰かを罵るしかなかった。
孤独を訴え叫び続ける声は
確かに私の中にある。
その声の主に一番近付いたと感じることができる瞬間が
皮肉にもこの発作の最中だった。


宇宙戦隊NOIZ-ロスト

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