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【カサンドラ】28. 2003~2006 虚心

引っ越した自宅前の小さなビルの2階に、居酒屋があった。
元々その店の客だった私は、休みの前日になると自宅に一旦荷物を置き
軽く夕飯を摂ってから店に出向くようになった。
千恵や沙織とも時々会っては藤沢駅や海岸線まで飲みに出掛け、
その店先でまた新しく男性と知り合う。
そのうちの誰とどうなったのかの説明すらつかない状態を何年も繰り返し、
一時期携帯に登録される人数が増えすぎてわけがわからなくなった。

派手に遊んでいるようにしか見えない日常は、心の奥底に無数に開いた穴をもぐらたたきのようにひたすら埋め続ける作業だった。
明日どこどこに行きたいと言えば、車を出して連れて行ってくれる人はいたし、
欲しいものがあると言えば、お金を出してくれる人もいた。
でもそれらを得るには、洒落た服を纏い流行りのメイクを施し、
満たされて生きている女の仮面を着けてから玄関を出なくてはいけなかった。

私は誰にも愛されていないのを知っていた。
千恵は飲み会をする度に「オトはいくらでもいるじゃん」と言っていたけれど、
何人の男が私の上を通り過ぎても、彼等には私の表面しか見えていない。
どの男も、皆帰る場所を持っているのだ。

しかし過去の恋愛を思い出せば、それが私にはちょうどいいようにも思えた。
どうせまた同じことを繰り返す。
わかっているから、入れ込まない。
男を並べれば並べるほど虚しさが心に穴を開けるから、
それを埋めるように服飾雑貨を買い集め、仕事で業績を上げて
人々の羨望と注目を餌に、私はギリギリ生きていた。


Christina Aguilera - Beautiful

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