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【カサンドラ】 30.ゴミ貯めの家-1

私が実家を出てからしばらく、両親が2人で鎌倉の家に住み続けていたのだけれど、
このまま家賃を払い続けるなら、狭い家でも購入したほうが良いと父が言い出して
戸塚駅からバスで20分ほどの不便な土地に、貯蓄内で買える値段の古いアパートを購入した。

自分が生活していた空間がなくなり、荷物を全て自分の家に持ってきてしまってから
私が実家に顔を出すのも盆正月程度になり、
会う回数が減れば減るほど、互いが他人のように気を遣うようになった。


私がいないその家は
寂しさを埋めるかのように、母のガラクタで埋め尽くされ始めた。
家の中を占めるものの割合といば、母の所有物が9割で
10年以上前に他界した祖母の着物、
私が幼い頃に遊んだおもちゃやお人形を
大切にビニール袋に入れて、そこらじゅうに散らかしている。
出して眺めるわけでもなく、母はただ
ガラクタに包まれるようにして生活していた。

体が悪いわけではないのに
私が家を出てから、母は1人で外に出なくなり
どこに行くのにも父の手を借りるようになった。

年に2度程度帰るだけでも、自分でできることさえしようとしない母の姿に苛立ち
家の中の状態を見れば抑えられないほどの強い怒りが込み上げる。
やがて私は、かつて恋人たちに吐き捨ててきた暴言を
母に対して小出しにし始めた。
父も同じように、溢れたものを片付けるように母に忠告をしていて、
父にはもちろん、もはや私に対しても支配力を失くした母は、
ただ黙って嫌な顔をする。
そして話題を変えて、何とか私との時間を楽しく過ごそうと務めているのが読み取れた。
私はこの頃から、自分の中に居るもう1人の自分の存在を認識し始めていた。

私の中には、理性ではコントロールの効かない少女がいる。


会えば会うほど、その少女の存在が明確になる。
それが怖くて、なるべく実家と連絡を取らないようにしていたが、
私のためにあれを買った、これを用意してある。と、
2人で私をおびき寄せるようにして連絡してくるので
どうしても年に一度は帰ることになる。
だがその度に強くなる何かを、私は静かに察知していた。


そして悟った。

いつか私は、この人を殺してしまう。



私の奥深くに眠る、強く激しい殺意。
それはふつふつと煮えたぎっているものの、
重く分厚い蓋をされ、静かに温度を上げるのだった。


湘南乃風-晴伝説

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