お題「深夜」「目的地」「流れる」 #400字小説


テールライトがそこかしこでギラつく首都高を、
鼻歌交じりで降りたこいつは、隣で脈絡のない話を始める。
「夜中に文字ってのは書くんもんじゃあない」
 適当に相槌を打つも、奴の語りは止まらない。
「電気のなかった時代、人々は蝋燭に火を灯して書物なんぞ読み書きしておったがな。まあ大変な話ですよ。そう、例えばラブレターなんかを夜中に書いて、朝読み返すと死んじゃう。小っ恥ずかしいこといっぱい。『俺の愛は、君を救う!』みたいな」
 深夜のテンション? それと文体は、非常に相性が悪いとか、そんなことを宣うので、カーラジオの音楽が聞きづらい。
 『目的地シュウヘンデス』
流れるこの曲は、はて小沢健二? いやいやフリッパーズだよ。なんて会話に被さるナビゲーション。
「深夜に文体がダメならば、その口から言葉を発してごらんよ」
 ほんの少し顔を強張らせたこいつは、一寸息を荒げて、私を帰さない言葉を探した。
(382w)

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