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〈コンポージアム2023〉関連公演 近藤譲 室内楽作品による個展

曲目(全曲近藤譲作品)

アンティローグ(1984)
荒木奏美(ob)、尾池亜美、山本佳輝(vn)、多井千洋(va)、細井唯(vc)

単声複音(2019:日本初演)
内山貴博(fl)、悪原至(mar)

冬青(2003)
尾池亜美(vn)、永野光太郎(pf)

時の柱(1999)
内山貴博(fl)、田中香織(cl)、濱地宗(hr)、悪原至(vib)、永野光太郎(pf)、三国 レイチェル 由依(va)、上村 文乃(vc)、長坂 美玖(cb)、石川征太郎(cond)

テニスンが詠った詩三篇(2010:日本初演)
松原みなみ(sop)、内山貴博(fl)、荒木奏美(ehr)、濱地宗(hr)、悪原至(perc)、井上郷子(pf)、三国 レイチェル 由依(va)、細井唯(vc)、石川征太郎(cond)

視覚リズム法(1975)
井上郷子(pf)

スレッドベア・アンリミテッド(1979)
尾池亜美 山本 佳輝(vn)、多井千洋、 三国 レイチェル 由依(va)、上村 文乃、細井唯(vc)、 布施 砂丘彦、長坂 美玖(cb)、石川征太郎(cond)

主催
TRANSIENT

共催
東京オペラシティ文化財団、庭園想楽

コンポージアム2023関連公演として開催された、室内楽個展。

アンティローグ…弦楽器の弾いた音と同じ音高でオーボエが返答する。逆にオーボエに導かれて弦楽器が奏する。活発な音のやりとりによって音楽が構成されていく。オーボエの荒木氏が好演であった。

単声複音…フルートと、トレモロのマリンバが初めはもっぱらユニゾンでふしを奏していく。マリンバは短い休止が不規則に挟まれるので、ユニゾンは強制的に破断される。やがて2つのパートは独自の動きを見せ始める。

冬青…尾池氏のヴァイオリンが秀逸だった。ピアノが曲の主体なのだけれど、単なるオブリガードでもなく、対等というのでもなく、実に微妙な距離感を巧みにあらわしていた。

時の柱…チェロとコントラバスが入り、低音部の響きがぶ厚い。対照的な性格の3つの部分から成る。ピアノが登場する場面では、他の楽器と対峙する位置付けを与えられているように感じた。

テニスンが詠った詩三篇…松原氏の、豊かで嫌味のない歌声を堪能。前奏と後奏の三国氏の素晴らしい音色に感服した。

視覚リズム法…井上氏による安定の演奏。欠けたパートの部分に、ぽっかりと穴が空いているかのように感じられておもしろい。

スレッドベア・アンリミテッド…思い返すとこの曲を聴くのは、40年以上前のラジオ番組(NHK-FM「現代の音楽」であったか)以来。あらゆる音にクレッシェンドがかかるため、ゆったりとしたテンポなのに、早回しの音楽テープをずっと聴いているような感覚に陥る。全編を通じて明るく柔らかい色調の音が綴られていく。決して不快ではない浮遊感の中、移ろっていく和音に浸ってひとときを過ごす。

近藤氏の作品では、同一音高での呼応、ユニゾン、クレッシェンドなど、音楽におけるごく基本的な要素を取り上げ、作品の中で運用しつつ深く掘り下げるものが多いと思う。今回の作品群も同様である。一般的な作家ならば、単なる「趣向」として消費するにとどまると思われるものばかりだが、近藤氏はそうした要素を徹底的に使い倒し、見たことのない風景へと展開させていく。当たり前を疑うのは学術の方法でもあるが、近藤氏の音楽は決して衒学的にならない。常に点画の明晰な音たち。その凛とした佇まいが美しい。それと不釣り合いなごつごつとした進行も特徴的なのだが、それは、基本要素を愚直なまでに使い込んでいくことによるのだろうと改めて思った。

今回の公演に登場したのは、現代作品の演奏会では「常連」の顔ぶれである。カーテンコールで奏者全員が出てきたさまが壮観だった。新しい音楽を伝えることを一種使命のように感じて取り組んでいる若い音楽家がずらりと並んだ。一人ひとり、作品に対する深い理解と想いがあり、演奏に説得力があった(諸々の事情を推察するにせんかたないこと、とは知りつつ、前日のオーケストラ作品による公演でも、今回の室内楽と同程度の仕上がりが達成されたらと思われてならない)。舞台に呼び出された近藤氏の笑顔が印象的だった。(2023年5月26日 東京オペラシティ・リサイタルホール)


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