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忘れ得ぬライブーavengers in sci-fi presents “ Unknown Tokyo”

あの時、あの場所で見られて良かった!っていうライブがたまにある。初めて見たavengers in sci-fiのライブがまさにそれ。

2015年9月4日(金)、東京、新宿、歌舞伎町。

6年間の北海道生活から戻ってきたばかりの自分にとって、新宿はこわい街だった。

半年前飲み会へ向かう道中、客引きのお兄ちゃんに追い回されたイヤ~な記憶もあった。

当日は新宿という街にピッタリな、どんよりとした天気で気分も乗らない。

17時頃JR新宿駅東口に到着。逃げるようにちゃっちゃとライブハウスへ向かう。

会場の新宿LOFTは、ゴジラがにょきっと出た新宿東宝ビルの向かいにある。

同じビルにはホストクラブも入っている。ライブ前は着飾ったホストのみなさんと、Tシャツの音楽ファンが入り混じって、新宿らしいカオスな光景が見られた。

わたしが着いたころにはすでに入場待ちの列がゾロゾロでき始めていた。

近くのファミマで買ったおむすびをむしゃむしゃやりながら、開場を待つ。

そのとき、事件がおきた。
通りすがりの酔っぱらいが入場待機中のお客にからみはじめたのである。

「この白線からはみ出したらぶっ殺すぞ」

殺すなんておだやかではない。待機列に並んだ一同、ピリッとした雰囲気になった。

わたしは早く逃げたい気持ちでいっぱいだった。なんで、こんなライブに来てしまったんだろう、と後悔し始めていた。酔っぱらいがこっちに近づいてきた。心臓がドクドクする。

こういう時は目を合わせちゃいけない!と本能的にサッと目を伏せる。

「さっさとうせろ!殺すぞ!デッドオアアライブ⁉」

あとになって、現実世界で「デッドオアアライブ⁉」なんてまず使わないし、ちょっと面白いなと思ったけど、そのときはまったくそんなゆとりはなかった。

酔っぱらいはそのあと、ライブハウスのお兄さんに罵声を浴びせて、どこかへ行ってしまった。間もなく入場が始まり、わたしはホッとした。階段を下りながら、このライブハウスは新宿の混沌から音楽ファンを守ってくれるシェルターみたいだなぁ、なんて思った。

中に入ると薄暗い照明、モノトーンチェックの床、バーラウンジ。まるで秘密クラブのような、ちょっぴり大人な雰囲気にドキドキする。

それまで私はスタジオコーストとか、Zeppとか大きなライブハウスにしか行ったことがなかったので、まずステージとお客さんの距離の近さにビックリしてしまった。手をののばせばマイクスタンドに届きそうである。前から2列目の位置を確保し、ワクワクしながら開演を待つ。まもなくトップバッターのAwesome City Clubのライブが始まる。

1音目がなった瞬間から、わぁーっと感動!鳥肌が立った!至近距離から何も遮られることなく音を浴びたのが初めてだったからだ。あまりにステージに近いので、バンドのメンバーと目が合ってしまうのはなんとなーく恥ずかしかったけど、途中から気にならなくなった。

1曲目の「GOLD」は祝祭感があって、ディズニーランドのパレードが始まるときみたいのワクワクした!本当にライブに来てよかった!あっという間の30分。感動のあまりボーっとしてしばらく動けなかった。


このイベントは2ステージ制で、メインフロアだけでなく隣のバースペースでDJも楽しめる。転換中にのぞきに行ってみると、星野源の「SUN」がプレイされていた。ブースの前ではビールを片手に何人かがゆらゆらゆれている。いつもウォークマンで聴く「SUN」とは別の曲のように聴こえた。


まだお酒を飲めない年齢だったので、オレンジジュースのカップを片手にわたしもゆらゆらに混ざった。ズンズン響く低音が気持ちいい。1時間で大人になったような気分になった。

メインステージに戻って、80KIDZのライブ。バンド≒ギター・ドラム・ベース、というイメージがあったので、途中でギターを置いてDJを始めたときは何だこりゃ!と驚く。

歌詞があって、盛り上がるポイントが決まってて…みたいなライブに慣れてしまっていたわたしは、バキバキのエレクトリックな音楽にはじめ戸惑った。でも周りのお客さんがガシガシ盛り上がっているにつられて、気付くと音楽に身を委ねてぴょんぴょん跳ねていた。

80KIDZのライブが終わり、いよいよお待ちかねのavengers in sci-fi(以下、アベンズ)のライブ。

高校2年生のころ、とにかく周りが知らなそうなバンドを探して聴きあさっていたいたわたしはアベンズに出会った。そして大量のエフェクターを使った近未来的な、ディズニーランドのトゥモローランドみたいな、キラキラしたロックに夢中になっていた。

でも始まったライブはそれとは全く違う、ダークでヒリヒリしたものだった。1曲目の「Citizen Song」から感情がドカンと爆発しているのだけれど、それが決して明るいものではなく、現代社会に対する怒りとか皮肉とかなのである。


「パーティーだぜ謳歌しろ 民度アップしてサルに進化しろ」
「インターネットモンキー リンゴもいでエデンでパーティー GPSの電波にアカウント晒して生きていこうぜ」
「スパイ衛星にピースをしよう バージョンアップしてパーティー謳歌しろ」

色々あるけど頑張ろうぜ!って励ましてくれるのが音楽だと思っていた。でも実際、音楽のおかげでどうにかなるなんてことはない。音楽はわたしたちを助けてはくれないし、答えを出してくれない。「Citizen Song」はとにかく生き辛い、どうかしちまっている社会に対して怒りの声をあげ、皮肉る。

ステージの上ではベースの稲見さんが頭を振り、地団駄を踏むように足でリズムを取る。ボーカルの木幡さんがスタンドからマイクを取り外し、タッタとお立ち台に駆け上がって全身で歌いあげる。まるで行進を先導する革命家のよう。それに追随するかのようにお客が飛び跳ねる。

サビではサイレンのような音が繰り返し流れ、ワーッと全身に血がみなぎる。こぶしを振り上げてしまった。

様々な国のことば飛び交い、無料案内所の看板がピカピカ光り、酔っ払いが大声で奇声をあげる。リアルブレードランナーな街、新宿。そんな混沌とした街だからこそ鳴らされるべき音楽だとわたしは感じた。もし歌舞伎町のライブハウスじゃなかったら、ここまで感動しなかったんじゃないかと思う。

ライブハウスを出てもしばらくハイなままで、行きとは違い新宿の雑踏がみょーに心地よく感じるのであった。

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