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ポンデザールを渡ると、エコールデボザール(=国立高等美術学校)の脇の小さな通りを入る。人がようやくすれ違うことができるほどの狭い歩道をまっすぐ南へ。いつのまにか周囲の空気はふたたび変わっている。ありふれたマルボロの香りではなく、年を重ねた男の色香のようなジタンの香りが漂うのに相応しいその空気は、セーヌ左岸、サンジェルマンデプレが放つ唯一無二の幽香だ。その香りがもっとも濃く匂い立つ一角で、一服をすることにした。 東のレ・ドゥ・マゴにいつも足が向いてしまうのは、二十歳の頃に
人のいない四人部屋に戻ると、ベッドに体を思いきり投げ出した。移動のない日は久しぶりだった。今日は一日、旅が続くにつれて少しずつその重さを増していたメッセンジャーバッグを肩にめり込ませながら歩かなくてもいい。それだけでフットワークが軽くなった気がした。久しぶりにパリ中心地まで散歩してみよう、と思いつくと、財布とパスポートと煙草とアイフォンを、ジャケットとジーンズのポケットに上手く分散してしまい込んだ。 廊下に出ると、何度か見たことのある清掃員の女の子が掃除をしていた。黒髪