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漫画原作「カメレオン」一話シナリオ

【あらすじ】
弱小モバゲー制作会社を経営している瀬戸玲司は、ある日絵師に飛ばれて切羽詰まっていた。そんな彼の目の前に現れたのが、絵に描いたようなホームレス寸前の訳ありイラストレーター相馬葵そうま あおい。しかし、意外にも確かな画力を持つ葵に、玲司はこの危機的状況を打破してもらおうと、深く考えずに拾ってしまう。
ところが葵の正体は、皮膚が光学迷彩化する透明人間だった。訳ありとは思っていたが、予想の斜め上にもほどがある。
行く当てのない透明人間との奇妙な共同生活が始まる。
この物語は、世の中からカメレオンのように姿を隠した女の子が、恋をして自分の姿を取り戻すまでのお話。


【本文シナリオ 一話】

〇小雨の降る街頭 夕方

傘をさす人々が歩く歩道で、その傘がひとつふたつと唐突に弾かれる。

通行人1「わ」
通行人2「きゃ」

人々の間を縫うように誰かがその間を走っているようだ。
だが、その姿が見えない。
しかしよく見ると、歩道の小さな水溜りが、人が走る歩幅分ぴしゃぴしゃと規則的に弾けている。

〇例えば、イオンのような複合型ショッピングセンター 中

服屋のショップに陳列してあるパーカーやオーバーオール、キャップなどがするりと棚の向こうに消える。
同じように、同じ階層の靴屋のスニーカーが消え、ドラッグストアの吊るしのマスクが消える。
だが、万引きしている者の姿は見えない。

〇比較的大きな商店街の通り 夜

商店街はすでに店じまいしている深夜近く。
瀬戸玲司(30)がスマホを耳に当て、電話の向こうの泣き言を聞きながら、急ぎ足で歩いている。

電話の声「どうするんすか、玲司さ〜ん! 納期明日なのに、ユウキさんのフォルダなんも入ってないっすよ〜!」
玲司「どうするもこうするも、なんとかするしかないだろ……」
電話の声「なんとかって、どうやって……?」

玲司が、ブルーシートを広げている露店の前を電話しながら横目で通りすぎ、

玲司「どうやってって……それは、おま…え……」

絵描きの露店だと気づいて、思わず二度見しながら引き返した。

玲司「……マジか。こういうのとっくに滅んだと思ってたぞ」

その展示方法がまたひどい。ご開陳されているイラストは、百均のスケッチブックに描いたものを、そこらでかき集めたダンボールに貼り付けてあるというお粗末さ。

玲司「わはは、半ばやけくそだな」

ところが、その画力は本物だった。
玲司は気付くとスマホを切って絵に手を伸ばしていた。
水性ボールペンだけで描かれたモノクロの線画は、驚くほど緻密で繊細。

玲司M「(絵を手にとり)画力が確かだと、モノクロなのに色がついてるように見えるのが不思議だよなぁ……」

モチーフは、風景や犬猫などがほとんどだったが、中にちらほらとどこともしれない幻想的な風景や、ファンタジックな生き物の絵がいくつか混じっている。次々に手に取る玲司。

玲司「(絵を見ながら)ふーん、カラーや人物画はないの?」
絵描き「ボソボソ……」
玲司「(初めて絵描きを見て)え? なんだって?」

絵描きはこの寒空に上着もなく、サイズの合わない汚れたパーカーにオーバーオールで、目深にかぶったキャップにさらにフードを被り、でかいマスクのせいでほとんど人相がわからない。
絵に描いたような訳あり一文無し。

絵描き「何か端末があれば、前にネットにアップしたのが何点か……」
玲司「今はスマホすら持てないってわけか。(スマホを差し出し)ほれ」
絵描き「(受け取って黙って操作し、玲司に示す)」

自身のインスタらしい画面。

玲司「(何度かタップしながら)流行りのタッチだな。まあ、いいだろう。上等だ。明日の朝までに、カラーカット5・6点描けるか? 精度もここまでじゃなくていい。基本的に人物だけだ。カット一点につき、3千円から1万円の間で払う。取っ払いだ」
絵描き「や、やります!」
玲司「よし、ついてこいよ」

玲司は無造作に展示してある絵を丁寧にかき集めながら歩き始めた。
その後を慌ててついてゆく絵描き。

玲司「名前は?」
絵描き「ア、アオイ」
玲司「アオイか。あ、メシは?」

玲司は答えを聞く前に通りがかりのコンビニに入った。
アオイは遠慮しているのか外の入り口で待っている。

〇コンビニ 中

玲司、飲み物や食料品など適当にカゴに放り込んで会計を済ませて店を出ると、再び葵を従えて歩き出す。

〇古ぼけたビル 外観

〇同 中 ゲーム企画『ゼロ』という表札プレートのついたドア

ドアを開けると、中では壁際に並んだデスクのPCに向かうゲームクリエイターが3人ほど、ゾンビのように疲れた顔で玲司と葵を振り返る。

玲司「新しい絵師のアオイだ」

玲司が短く紹介すると、一瞬ほっとしたような表情を浮かべたが、全員また死んだ目でパソコンに向かう。反応する余裕がない。

玲司「うちはモバゲーの制作会社だ。実は今朝、絵師に飛ばれて困ってたんだ。幸いにも制作は新シリーズに入っていて、その絵師が描いたキャラクター設定の下絵はすでにある」

玲司は、アオイに設定資料とシナリオのプリントアウトを渡した。

玲司「今やってんのはエロゲーだから、モチーフは様々なポーズの女の裸だ。下絵とシナリオに沿って描いてくれ。絵は下絵に寄せなくていい。おまえのタッチで。あ、おまえ童貞?」
「い、いえっ」
黒田(32)「シャチョー、それセクハラっすよー」
玲司「ん? そうか。訴えるなら明日以降にしてくれ」
「だ、大丈夫です」
玲司「助かるよ。で、童貞じゃないならAV感丸出しのポーズさせんなよ?」マサト(26)「出た。シャチョーのこだわり」
「う、あ、ああの、できれば何か資料があった方が……」
玲司「そうか、えーと(周囲をガサガサ)あ、ほれ」

玲司が無修正の海外版エロ本を差し出す。

「た、助かります。要は、こういうあからさまなポーズは避けてエロくしろと?」
玲司「わかってんじゃねえか」
「がんばります」

葵は何度か玲司と絵の調整をすると、すぐにコツを飲み込み、たちまち事務所の光景に馴染んでいった。

──時間経過──
鳥の声。窓から差し込む眩しい朝日。 

疲れた顔の一同が、よろよろと朝日を受けながら「おつかれっした」と事務所を出ていく。

玲司「(うんと身体を伸ばし)俺らも帰るかぁ」
「あ、えと……」
玲司「うちに来いよ」
「は、はぁ……」

玲司がいつの間にか、クリアファイルに入れてあった葵の露店の絵を渡す。

玲司「ほれ、ちゃんとファイリングしとけよ」
「は、はい、ありがとうございます(大事にしてくれたのが嬉しい)」

〇昔ながらの木造二階建て 外観 玲司の自宅

鍵を開けて葵を招き入れる玲司。

玲司「入れよ。うちは俺ひとりだから遠慮すんな」
「(小声でボソボソと)お邪魔します」

〇同 中

ひと昔前の木造二階建ては、手入れは悪くないが玲司一人の男世帯らしく、雑然と散らかっている。脱ぎ散らかした服や酒の空き缶、本やゲームソフト、コンビニ弁当の空などが目立つ。
玄関から奥の居間に向かって玲司の後ろをついて歩きながら、おそるおそる入ってゆく葵。

玲司「明日は使ってない二階の部屋空けてやるから、今日はとりあえず居間のソファで寝てくれ」
葵 「あ、ああ、はい……」
玲司「あ、その前にシャワー浴びるか?」

言いながら風呂場に案内した。

葵 「はい、あの……」
玲司「ん? 着替えなら俺のを貸してやる。下着はさっきメシ買ったついでに買ったぞ。気が利くだろ、ほれ」

そういって、コンビニで買ったボクサーパンツとTシャツを差し出すと、葵はそれを受け取りながら言った。

葵 「あの、社長さんの名前……」
玲司「あれ? まだ言ってなかったっけ? あはは、ワリィワリィ。俺は瀬戸玲司。さっきまでいた弱小ゲーム会社ゼロの経営者兼ゲームデザイナーだ。おまえいくつ? フルネームは?」
葵 「そ、相馬葵、23歳です」
玲司「あ、なんだ、アオイっててっきり苗字だと思ったよ」

言いながら脱衣所に葵を案内し、玲司は居間の隣の自室に着替えを取りに行った。
バスルームから早速シャワーの音がする。

玲司「(中に向かって)着替え、ここ置くぞ」

洗濯機の上に着古したグレーのスウェットの上下を置くと、ダイニングキッチンのテーブルに、仕事帰りに適当に買ってきた惣菜を広げながらビールを傾ける。
居間にあるテレビのモニターからは、朝番組の今日の天気や人気YouTuber『ラプトル』の話題で盛り上がっている。

女子アナの声「さて、話題の人気YouTuber『ラプトル』の五人組の皆さんでーす!」
ラプトルの声「うえーい!」
女子アナ「ここ最近配信された動画がバズってますが、あの動画はどのように──」

賑やかなテレビの声を聞き流しながら。

玲司「(ビールを傾け)くうぅ」

シャワーの音が止んで、葵が風呂から出て来た。バスタオルを頭からかぶり、玲司のスウェットを着ている。小柄なのでブカブカだ。
葵が何か言いたそうに突っ立っている。

葵 「あの……」
玲司「おお、おまえも一杯やれよ。さっきなんも食わないで仕事してたろ? 俺は昼前に出るけど、おまえはここでゆっくりしてりゃいい。いやあ、マジで助かったよ。出かけんなら鍵は……」
葵 「あの……」
玲司「うん?(惣菜を口に入れ)」
葵 「自分が絵を描く代わりに、当分ここに置いてもらえるって思っていいですか?」
玲司「行く当てないんだろ?」
葵 「まぁ、そうです」
玲司「身の上話したいか?」
葵 「……」
玲司「まぁ、無理にとは言わないさ。おまえの好きにしろ。家事やってくれんなら大歓迎だ」
葵 「やります」
玲司「よし、決まりだ」
葵 「…………」
玲司「なんだよ、まだなんかある? 突っ立ってねえで、ほら、おまえもやれよ」

玲司が向かいの椅子を進めると、葵は小さな声で言った。

葵 「驚かないでくださいね……」
玲司「ん? 何を?」

玲司が豚の角煮を口に入れてビール缶をあおった。

葵 「ここでご厄介になるなら、ずっと隠しているのは無理なので……」

言いながら、葵がおもむろに頭からかぶっていたバスタオルを取った。

玲司「……?」

玲司は、自分の見ているものを理解できずにあんぐりと口を開いた。口の端から中身をこぼしそうになって反射的にごくんと飲み込むと、葵は、今度は着ていたトレーナーをゆっくり脱いだ。
玲司は息を吸うのも忘れ、慌ててひゅっと空気を吸い込んだとき、激しく咳き込んだ。

玲司「ガハッ、ゴホッゴホッ!」

手に持ったビール缶の中身が玲司の腿に滴った。

葵 「あ……」

葵が反射的に持っていたバスタオルで玲司の膝を拭いながら、「大丈夫ですか?」と背中を叩いている。
だが、玲司の目には一連の動作をする葵が見えなかった。いや、正確にいえば、玲司にかがみこんでいるらしい葵が掴むバスタオルが、こぼれたビールを拭っているのは見える。ただし、それを掴む葵の手が、上半身が見えない。ジャージを履いた下半身は見える。玲司の膝をバスタオルだけが忙しく動き、背中を叩く手の感触はある。体温も感じる。気配は確実にある。ただ、顔も身体も見えない。なにも。

玲司「ゴホッゴホゴホッ……! さ、さわんな……!」

玲司は必死に見えない葵を手で払って遠ざけながら、なんとか言葉を発しようとした。

玲司「ゴホゴホッ……! お、お、おまえ……」
葵 「(おずおずと遠ざかり)すみません、ご覧の通り、自分、透明人間なんです」
玲司モノローグ「訳ありだとは思っていたが、予想の斜め上にもほどがある」

ジャージを履いた下半身だけが見える透明人間を前に、唖然とたたずむ玲司だった。


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二話

三話


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