大切な人とのかけがえのない時間-N響10月A1と和歌山弾丸見舞い旅-
【前説】
N響A1・B1・C2の会員である。15日はA1。夏前に転倒事故があってほんとうに来られるのか不安だったブロムシュテットが,すっ,と来日してくれて素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
16日はA2があって,売出当初は買おうかなと思ったこともあったのだが,なんとなく見送っているうちに,完売。初日を聴いて,これはA2も買っておけばよかったかな…と,ちょっと思った。
しかし,結果的に買っておかなくて,よかった。別の大切な人とのかけがえのない時間を過ごすことになったから。
【10月15日】
7時45分起床。
朝食後、馴染みのパン屋さんに予約品の受け取り。一旦帰宅して、商店街の豆腐店へいき、木綿豆腐と豆乳を買う。戻る途中にダイソーに寄って、葉ネギの種を購入して帰宅。少し庭の掃除をし、プランターに土を入れて、葉ネギの種をまく。
伸びた木の枝を落とす。
昼食は10割そばを茹でて、オリーブオイルと鯛出汁塩で和えて、木綿豆腐一丁をまるごと載せて、小ねぎをちらして食べた。それからトマトジュース。こういうメニューだと,食後の血糖値が急上昇しなくてすむ。
食後に洗い物をして、午後1時30分から、中大の通教生の支部から依頼を受けている家族法のオンライン講義。今日は遺産分割、相続放棄と承認、財産分離まで。午後4時45分までやって終了。洗濯物を収納して、着替えて、外出。
NHKホールまで歩く。だいぶ日が短くなった。
午後6時からN響A定期1日目。
今日はブロムシュテットの指揮で、マーラーの9番。
ブロムシュテットは、95歳。これだけでも大変なことなのに、今年の7月にベルリンで転倒してしまい、その後しばらく演奏会をキャンセルしていた。
転倒と訊いて、まっさきにヴァントのことを思い出してしまった。ヴァントは転倒して腕を骨折し、もう指揮ができないと悟って、飲食を拒絶し、自らこの世を去って行った。
9月になってストックホルム、ベルリンでの演奏会に復帰したが、果たして日本に来られるのか気をもんでいた。しかし2週間ほど前のNHKのお知らせで、N響のC定期の告知がでた。これで、予定通り来るのだと思うようになり、そして、数日前に来日の報。実に喜ばしい。
今日は完売でホール外で「ズーヘカルテ」の人が立っていた。ホール内も人が多い。
午後6時。ベルが鳴り、すでに客席は満席で空気も出来上がっている。舞台袖から、「ポン!ポン!」と団員にステージ入りを促す合図。いつも以上に客席の拍手が熱い。大半の団員が入場したところで、篠崎さんと手を携えて、ブロムシュテットの入場。これまでなかったような、凄まじい拍手。
会場が静まり返ったところで、スッとブロムシュテットが手を動かすと、滑るように音楽が流れ出した。
ブロムシュテットは深めの椅子に座って指揮をする。使うのは手先。時折腕。特別な動きはなく、4拍子のところは標準的なふりかた。どの楽章も、エモーショナルに煽るようなことや勿体をつけたような音楽は全く無く、着実に歩むように進んでいく。もちろん音楽がそういうふうに書かれているところでは激しく、ときには静かに流れていく。そして、どのパートも、耳を傾けると綺麗に聞こえてくる。
第3楽章。第2楽章がおわり、パウゼの間に、すでにトランペットの長谷川さんが楽器を構えている。この楽章は多く荒々しく煽るような演奏が多いのだが、今日はテンポを抑えめで少しゆったり目に進んでいった。
そして第4楽章。驚くべき透明な音楽。3階席まで美しい音楽が立ち上ってくる。どのパートもきれいに聴こえてくる。こんなにピュアな音楽を作ることができるのか。そして最後の音が消え入るように…。それから、しわぶき一つ聴こえない静寂が続く。ここは本当にNHKホールだろうか…。ブロムシュテットの体が動いたところで、拍手。ホール全体が轟くような拍手。
ブロムシュテットは立ち上がるのが大変なようで、椅子に座ったまま2度ほどオケを立たせる。そして、指揮台で座ったまま客席を向いてブロムシュテットが答礼。そして篠崎さんにエスコートされて舞台袖に。オケはこれで引き上げるが、客席は誰も帰らない。篠崎さんにエスコートされて2度ほど参賀。そこで終了。
激しく煽るような演奏ではなく、「死」がどうこうというものを暗示させる演奏でもなかった。とても自然で流れるような音楽だった。聴いたあとの感触は、感情を激しく揺さぶられたという感じではなく、異次元を覗いてしまったという不思議な感じ。終演後は立ち去り難く、トイレに行ってから、わざと遠回りして、無人の公園側ホワイエを眺める。そしてゆっくりとホールをでる。
公園を抜け、山を下って代々木八幡へ。
夕食
名代富士そばで、煮干しラーメン。昼がそばだったので、夜はラーメンにした。
なかなか美味しかった。
徒歩で帰宅。
帰宅して、カタネベーカリーのシュークリームとアイスコーヒー。
それから入浴。
風呂上がりに、BSプレミアムの「呑み鉄本線日本旅」を見ながら日記を書いて寝た。
【10月16日】
7時55分起床。よく寝た。
朝食後,9時からの名演奏ライブラリーを聴く。今日はグルベローヴァ。いきなりナクソス島のアリアドネのツェルビネッタの大アリアから。まるで開始のゴング直後にウェスタンラリアットをぶちかますようなものである。
こりゃすごいねと思い,掃除をしながら聴いて,終わったらクリーニング店にいくかと思ったら,カミさんの携帯に着信。しばらくして戻ってきて電話を替わると,義父がお世話になっている高齢者施設の管理者さん。かいつまんで言うと,肺の機能が少し落ちていて,酸素を使うようになったら持ち直したが,今後どうするかという話。本人は、病院に移ることを強く拒んだとのこと。それから近いうちに顔を見に来てくださいということも。
いちおう自分なりの意見は伝えたが,一旦電話を切って相談するのでちょっと待って貰うことに。カミさんと少し話をして,いっそ今日現地へ行ってしまおうと言うことになり,かけ直してその旨を伝える。
急いで身支度をして,新宿経由で東京駅へ。JRの車内で新幹線を予約。自由席でもいいのだが,往路はとっておいた方が良いだろう。
結構混んでいたが,11時前ののぞみをとれた。
東京駅はかなりごった返していた。旅行支援が始まったこともあるのだろう。結構なこと。
リュックにパソコンとタブレット2台を持ってきたので,車内で仕事をしながら移動。
ファイルをクラウドで同期してあると,本当に楽。
12時頃昼食。
チキン弁当。旅の目的がなんであれ,これはかかせない。
13時30分頃新大阪着。先だっての大フィル遠征の時の倍くらい人がいる。
特急くろしおの指定券を購入。くろしおは、以前は自由席があったのだが、全車指定になってしまった。乗り継ぎが結構面倒で乗車券はICカード、特急券はとりあえず紙券をかった(JR西のアプリで買ってもよかったのだが,ミスると面倒)。
コインロッカーが全て埋まっているというアナウンスが繰り返し流れている。
14時頃、在来線のホームへ。ここはくろしおの他、関空特急、そしてサンダーバードの発着ホームである。サンダーバードの表示を見て、広瀬先生はあの翌日に、ここから金沢経由で帰京されたのだなと。
14時15分発のくろしおに乗車。くろしおにのったのは、義母の7回忌の時以来だから,4年ぶりか…。
15時15分和歌山着。普段ならここから和歌山線に乗るのだが,40分待ちとどうしようもないので,タクシーで移動。運転手さんに「○○中学を目標に」といったら,すぐに通じたw。後からレシートを見たら,その近くの人だったから判ったのかも知れない。
施設について,手続をして,入室。
お義父さんは目を開けていた。声をかけたら判ってくれた。ここしばらく、 誤嚥を防ぐために禁食で、声を出すのはなかなか厳しいようだが…。顔を見て15分くらい声かけをした。部屋に野球の審判の時の写真があったので,それを見せたら,指差してくれた。
看護師さんが来てちょっと処置をする関係で,席を外し,我々夫婦,管理者さん,主任のスタッフさん,ケアマネさんでカンファレンス。
入院という手法もあるが,今,全く知らない人たちの中に入って,治療をすることが,本人にとっていいのか,など,いろいろと検討した。この施設でも看護師さんがいて、酸素や痰の吸引はやってもらえる。もちろんお医者さんの指示で投薬もできている。
義父も、亡くなった義母も、この施設が大好きで、義母は一度入院したときはガンとしてリハビリをやらなかったのに、施設に戻ってきたら、急に立ち上がってスタッフさんに抱きついたりした。義父はあとから入所したのだが、その前に自分で単車でここにやってきて「お世話になります」と挨拶をしたそうな。
方針が決まって,再度義父の部屋へ。声かけをして,17時頃に施設をでる。タクシーを呼ぼうとしたが,30分以上かかると言うことで,管理者さんが和歌山駅まで送ってくれた。車内でいろんな話をした。なかなか海外旅行に出られない話,管理者さんもかつて吹奏楽部にいて,打楽器をやっていたそうで,そこで「打楽器はもう一人の指揮者」という話を展開w。流石にフォーグラーがどうしたとかテーリヒェンがどうしたという話はしなかった。
「今,95歳の指揮者が日本に来てましてね。この人も夏前に転倒してしまって,果たしてどうなのかと心配していたんです。それが座ってですが、昨日凄い音楽をやってくれたんです。」という話も。
N響A定期の2日目がどうなったか気になり,ネットを見てみたら,昨日よりもさらに「深い」音楽が奏でられたようで,なにより。
ブロムシュテットが如何に元気だとは言え,昨日のようなマーラーを聴く機会というのは,再度有るかどうか…。奇しくも,自分達が今日和歌山に足を運んだのは,大切な人と過ごせる残された時間が短いから,である。
「人はみな草のごとく、 その栄華はみな草の花に似ている。 草は枯れ、 花は散る。」ペテロの第1の手紙。というよりはブラームスのドイツ・レクイエムの第2曲の冒頭。
その意味で,多くの人が,「昨日のあのひととき」を更に凌駕するような時間を過ごせたとしたら,きっとそれだけ,幸せを感じている人が増えたと言うこと。自分は聴けなかったが、それはそれでいい。むしろ、なまじ2日目のチケットを買っていて無駄にしなかったのは結果オーライである。
和歌山駅に着き,みどりの窓口にいくと,なんとくろしおは21時迄売り切れと聞き愕然。しかし,探して貰ったら,18時20分のグリーン車に2席バラバラだがあるという。まるでベルリンドイツオペラの最後のトンネルリングで、ジークフリートのチケットを2枚買えたような,あるいはシラー劇場のジークフリートを2枚買えたような奇跡であるw。そこで,新幹線のチケットも纏めて紙チケットで購入。これで手間が省ける。
駅の売店に行き,夕飯を調達。なんと水了軒の小鯛雀鮨が2割引で1個残っていたので,これを調達。まるで金券ショップで安値で売り切れの演奏会チケットを入手したようなものである。カミさんはいつもの柿の葉寿司を購入。これをシェアして食べることに。
18時20分発のくろしおに乗車。グリーン車はさすがにゆったりしている。肘掛けのところにコンセントがあったので,充電。新大阪までゆったりと過ごした。
午後7時過ぎの新大阪駅はごった返していた。先月末の新幹線運転休止のドタバタを思い出す。しかし今日は新幹線はちゃんと走っていて,カプセルホテルに泊まる必要はなさそうで、安心w。
直近の19時33分発「のぞみ」がでる25番線に走り,1号車へ。どうかなと思ったが,何とか3人掛けの窓側2名をとることができた。自分だけだと,エクスプレス予約が自由席と指定席の値段が変わらないので,指定席を取っているので,1号車に来るのは久し振り。
夕食
小鯛雀鮨と柿の葉寿司を分けて食べる。
新幹線は,途中京都・名古屋で止まる度に少し降りてどっとのってくる。
車内で日記を書く。
それから仕事。
22時頃東京駅到着。JRで新宿まで行き,そこから小田急線で帰宅。
やれやれ…。しかし,あまり疲れたとかという感じはない。先日の大フィル大阪遠征時のドタバタを経験しているからかもしれないw。
もし,また和歌山から連絡があったら,淡々と行くだけのような気がする。
ということで、いろいろなことがあった週末であった。
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