転機

 人生長くなれば、自分を変えてくれる人に出会うものだ。専門学校を出てすぐ空調関係の会社で働くことになった。しかし、労働環境は劣悪。エアコンの会社なので当たり前だが、夏と冬が馬鹿みたいに忙しく、ほとんど寝る間もない。それに室外機が恐ろしいほど重く、体には負担がかかる。春と秋は反対に驚くほど暇だ。
会社で朝から晩まで理解できないエアコン関連の製品の資料を見るだけだった。

 仕事自体の大変さもさることながら、会社の人間関係も最悪だった。挨拶をしても返さない人ばかりだし、新人に何かを教えるなんて馬鹿げてると考えてる人が大半だった。

 そんな中、正社員ではないが、下請け業者としてエアコン修理の代行をしているYさんによくエアコンの取り付けや修理について実際に連れて行ってもらい、教えてもらった。正社員は、自分が教えても一文の得にもならないからか、仕事にすら連れて行ってくれなかったが、この人だけは足手まといになるだけの新人の自分をよく誘ってくれたのだ。

 注意されることもよくあった。「そこたっとったら邪魔や!動線を考えろ!」「靴のかかと鳴らして歩いたらかっこ悪いやろ!」厳しい人だったけれど、なぜかこの人の言うことは心に響き、嫌な感じがしなかった。それは多分、言葉は厳しくても“自分のために言ってくれている”ということが伝わってきたからだ。親でさえ、感情的に“怒る”のではなく、成長を願って“叱る”ということをしてくれなかった。だからこそ、嬉しかったしいくら厳しく注意されても「今日もお願いします!」と言うことができた。

 ある日、他の人があまりにも冷たくて仕事を辞めたいと思っていた時、またYさんが仕事に誘ってくれた。その時、「何で僕なんかを誘ってくれるんですか?」と、聞いてしまった。Yさんは、少し戸惑いながらも、「お前はかわいげがあるからや」と言ってくれた。涙が止まらなかった。成人している身だが、今まで言われたことのなかった言葉に心が熱くなった。Yさんもギバーだった。自分に勇気を与えてれるギバーだった。

 この経験から、何か人に“与える”職業につきたいと考えるようになった。

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