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第58回:今年のノーベル賞の1回目:(今週はノーベル賞発表の週なので、今年のノーベル賞を解説するよ。生理学とか医学賞の巻)

10月は、大学の後期の学期が始まる月であるとともに、ノーベル賞の発表の月でもあります。大体、10月の第1週くらいに発表されると思います。以前は、ノーベル財団(スウェーデン王立アカデミーかも?)とか、カロリンスカ研究所で行われる、ノーベル賞の発表をインターネット中継で見たりしたこともありました。懐かしい。

ノーベル賞は非常に権威のある賞になってしまったので、誰もが目指す賞というわけではありません。むしろ、それなりの研究を行ってきた研究者がその業績が後々評価されて、ノーベル賞の受賞につながるというような雰囲気です(とうか、そうでした。今では違うみたいですけど)。

とはいえ、やはりノーベル賞の受賞者が多い国や大学は、ノーベル賞の授賞者をたくさん出しているということもありますし、うろ覚えですが、ノーベル受賞者からの候補者の推薦などもあるということだったと記憶していますので、科学の世界でそれなりに顔が広い、つまり、その業績が結構知られているということはノーベル賞受賞の入り口になっているのかもしれません。

まあ、そりゃあそうです。論文発表だけでノーベル賞受賞ができるわけはありませんから。

ちなみにノーベル賞の受賞者は「laureate」と言い、「winner」とは言いません。昔から、栄誉のある何かの授賞者には月桂樹でできた環、つまり月桂冠を授けるということをしていました。この月桂樹は英語では「laurel」ですので、そこからの派生語かと思われますね。

で、ノーベル賞の発表では、ノーベル財団とかカロリンスカ研究所の選考委員会からプレスリリースが出されます。英語ですが、リンクを張っておきます。雰囲気だけでも味わっていただければと思います。

このプレスリリースには、受賞者が、授賞者理由とともに書かれていますが、特に受賞理由については、あまり手加減はされていなくて、決して読みやすいようにはなっていませんが、短く科学的な要点がまとめられています。で、最後に、ノーベル賞の受賞に直接関係のある事実の発見を報告した論文が参考文献として掲げられています。

また、ちなみにですが、ノベール賞は5部門(生理学または医学賞、化学賞、物理学賞、平和賞、文学賞)と通称ノーベル経済学賞(本当はアルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞なんで、厳密にはノーベル賞ではないけれど、一緒にノーベル賞と考えられている賞)と6種類あるのは有名ですが、「ノーベル生理学とか医学賞」は結構長い間、「ノーベル医学生理学賞」などと言われていました。

正しくは、「ノーベル生理学とか医学とか賞」ですね。この「とか」はスウェーデン語からの直訳だとこんな感じになります。通常は、生理学もしくは医学賞(英語では「or」なのでこんな雰囲気)か、最近の日本語では生理学・医学賞としています。このあたりにも医学系の方々の驕りが見えてしまうのは私だけでしょうか。

というわけで、今年の「ノーベル生理学とか医学賞」の授賞者は合衆国の二名の研究者、Katalin Karikó先生とDrew Weissman先生が受賞されました。お二人の年齢から推測すると、共同研究者のようですね。受賞の比率(賞金に反映されます)も1/2ずつですので、おそらくそうです。

で、受賞理由は、「for their discoveries concerning nucleoside base modifications that enabled the development of effective mRNA vaccines against COVID-19(新型コロナウイルス感染症COVID-19の効果的なmRNAワクチンの開発を可能にした塩基の修飾法の発見)」ということです。

mRNAはタンパク質を作る元の指令書のようなものですから、そのmRNAを直接体内に注入することで、病原体から抽出した物質や病原体を不活化したものを使うワクチンの代わりにならないかと考える研究者は結構昔からいたのだと思います。

ただ、通常のmRNAを単に、体内に注入しても、自然免疫の仕組みで「異物」として認識されて、排除され、また不必要な炎症反応が起きるので、効果的なワクチン効果を認めることができませんでした。

この点、Karikó先生とWeissman先生は核酸を化学的に修飾してしまうことで、自然免疫の監視網から逃れられることを見出しました。その後、このmRNAを化学修飾した塩基で合成することで、mRNAを主成分とするワクチン開発につながったということになります。

実は、自然免疫については、すでに2011年の「ノーベル生理学とか医学賞」の受賞対象となっています。このうち、ラルフ・スタインマン先生は受賞年である2011年にお亡くなりになられています。本来であれば、ノーベル賞はすでに亡くなられている研究者は受賞することはありませんが、スタインマン先生については、存命のときにノーベル賞の選考が進んでいたという理由で、お亡くなりになった後に、発表されたのですが、受賞されています。

スタインマン先生については、いろいろな噂(もちろん本当か嘘かを確かめるすべはありません)を聞いていましたが、心の底からスタインマン先生のラボに留学したいなと感じた研究者の一人でした。

ノーベル賞の受賞対象の発見(とか研究)は、これまでは、実際に人の生活に貢献できていることを考慮されて選考されていたと思います。ただ、この点も、物理学賞のように、発見がヒトの生活に貢献するまで非常に長い時間かかると考えられる研究分野もあり餡とも言えないですが、少なくとも、生理学や医学という分野では、実用性とか人の健康への貢献度は検証されてきたと思います。

この点を考えると、今年の受賞は、もうちょっと考える必要があったんではないかと、個人的には感じています。

確かにKarikó先生とWeissman先生の発見は優れていますが、本当にmRNAのワクチンが効果があったのかとか、ほかのウイルス感染症でも同様に効果があると認められるのかとか、そのあたりまで検証してみても良かったのではないかなと考えるのです。

それから別の視点から考えると、今回COVID-19というパンデミックがあって初めて、mRNAワクチンを冒険的に使用することができたわけで、COVID-19がなければ、もしかするとmRNAワクチンは実用されなかったかもしれません。また、今後mRNAワクチンを使い続けてよいのかどうかについても、科学界で評価が定まっているかと言われればそうでもないように思います。まさに、COVID-19のおかげと言えるかもしれません。

でも、科学の発展というのはこのように悪いことと背中合わせになっていることが多いですから、すべては「運」かもしれませんが、「運」を味方につけられるだけの研究業績だったと考えれば、受賞は妥当なのかもしれません。

まあ、個人的にはワクチンはどちらかと言えば、使わずに済ませたい派なので、ちょっと見方が偏っていることも否定はできません。

ということで、こちらのページにも、1年に一つか二つの記事ですが、新たなシリーズができてしまいました。明日か明後日に発表される「化学賞」についても、生物系のネタであれば、簡単に説明したいと思います。


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