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OM式型取り複製覚え書き その12 How to 粘土埋め 理論編 逆テーパーは避けるべし

 粘土埋め基礎編に続いて、理論編です。
 粘土埋めで重要なポイントの一つは、いかにして逆テーパーにならない向きにして原型を埋めるかです。つまり、シリコンへの負担が少ない型にするのかです。負担の少ない型=量産数アップ、ということでもあります。
 逆テーパーがきつい箇所があると、そのぶんシリコン型が破損しやすくなります。ゴム型ゆえに若干の逆テーパーなら、銘柄次第で問題ないケースもありますが、できるだけ少なくしたいところです。
 可能なら原型の段階で逆テーパーをチェックして、きつめのパーツはあらかじめ分割するのがベストです。また、この向きで粘土埋めすれば問題ない向きを、探っておくのもお勧めです。

 簡略化した模式図を使いて、どこにパーティングライン(=粘土面)をもってくれば、型の負担が少なくなるかを考えていきます。

パターンA 断面三角形のケース

① 断面が三角形のパーツを真ん中あたりで粘土埋めしたケース
 この部分がいわゆる逆テーパーになります。金型とは違い、シリコン型ゆえにある程度柔軟性があるので、型を広げるように曲げれば脱型は可能ですが、その分型に負荷がかかりやすく、回数を重ねるごとに劣化して千切れやすくなります。
 なので、このパターンは可能な限り避けるのこと。
② 断面三角形のパーツを浅めに粘土埋めしたケース
 逆テーパーがあることには変わりがありませんが、①より浅いので、型の負担が少なく、比較的楽にパーツを外せます。
③ 三角形の底辺と同じラインで粘土埋めしたケース 
 これが一番型の負担が少なく、スムーズにパーツを外せます。
④ 三角形の頂点を傾けて左側が垂直になっているケース
 これなら逆テーパーが発生しないのでok。傾けるという発想は結構大事です。
ただし、もっと左方向に傾けてしまうと、逆テーパーが発生するので注意。90度より大きく傾けないこと。

③か④がベスト、パーツの形状になどでは②も有りかもしれませんが、①は小さいパートはともかく、大きなパーツだと厳しいので要注意。シリコンの種類によっては、一発で型が避けたり、複製パーツの破損に繋がります。

パターンB 断面四角形のケース

⑤ 真ん中で粘土埋め
 セオリーといえばセオリーですが、ど真ん中にパーティングラインが来ます。側面に目立つモールドがあるなら、避けたいところ。
⑥ 底面にあわせて粘土埋め
 型からパーツを外す時の負荷がやや多めです。大きいパーツや、側面に細かなモールドがあるパーツはちょっと避けたい。
 逆に小さいパーツでは、粘土剥がす時に外れるのを防ぐ効果があります。
⑦ 底面と上面にわけて粘土埋め
  角にパーティングラインが入るので、パーティングラインがわりと目立ちにくいのがポイント。
 それぞれの面に細かなモールドが入っている場合に有効です。
⑧ 斜めに傾けて角にパーティングライン
  型に負担少なく、4面にモールド入っていてもパーティングラインで潰れることは無くなります。  

優先したいモールドが多いなら、⑦か⑧がお勧め。それ以外はパーツのサイズや形状などに応じてケースバイケースです。

パターンC 断面円形のケース

⑨ 真ん中で粘土埋め
 丸い断面ならこれがセオリー。型への負担が一番少ないです。
 細かなモールドが入っている場合は、モールドをなるべく真上になるようにすること。
⑩ 真ん中よりやや下で粘土埋め
 若干逆テーパーが生じてます。でもまだ角度が緩いので、逆テーパーに強いシリコンなら行けるかな・・・、という感じ。
 細いパーツや小さいパーツだと、粘土剥がす際に原型が外れるのを防ぐために、あえてこういう埋め方するケースも。
⑪ 円の底面で粘土埋め
  逆テーパーがきつく、論外。

まあ結論から言うと断然⑨ですね。
⑩はケースによっては有り、⑪は論外です。

パターンD 複雑な断面形状のケース

⑫ 星形
 逆さまにして、下側の角面で粘土埋めする感じがベターな感じ。
 逆テーパーが少しきついですが、1cm程度のパーツなら許容できる感じ。
 ただし大きいパーツになればなるほど、逆テーパーのリスクは大きくなっていきます。
 場合によっては分割したほうがいいかもしれません。
⑬ クローバー型
  下側の葉の中心部分で粘土埋めするのがいい感じですが、下に逆テーパーが2カ所発生するのが気になる所。
 90度横向きにした方が型の負担が少なくなるかな。
 パーツの形状やサイズによっては、分割やテーパーになるように修正したほうがいいかもしれません。
⑭ 凹の字型
  真ん中が凹んでいる形状は、なるべく凹みが垂直になる向きで埋めるのがベストです。
 凹みの深さが5mm程度なら、それほど意識しなくても大丈夫(シリコンの銘柄次第)ですが、1cmを越えてくると千切れるリスクが増えてきます。
 深い凹ダボはシリコンが千切れやすいので要注意。  
⑮ 黒電話型
 90度横向きにするのがベストかな。
 平置きだと受話器の下の空間が逆テーパーになってしまいます。

複雑な断面構造のパーツは原型製作時に上下左右よく見て、逆テーパーが発生しない角度を見つけるのが大事です。
 ここら辺の感覚は数(=失敗の数)こなさないと、なかなか身につかないかもしれませんけど・・・。

パターンE 五角形のケース

⑯ 中心近くで粘土埋め
 若干の逆テーパーが生じるので要注意。逆テーパーがきつくなければ、行けるかも・・・。
⑰ 横向きにして粘土埋め
 逆テーパー無く、これが正解。右側の粘土埋めラインを下に下げるのも有り。
⑱ 斜めに傾けて粘土埋め
  モールド入っている面にパーティングライン入れたくない場合は、このパターン。

 ざっくり解説してみましたが、結論から言うと粘土埋めの向きの塩梅は、実際に経験と失敗を重ねないとなかなか掴めない物です。まあシリコンは柔軟性あるので、10個程度の量産ならどうにかなるものです。
 ただし、数を抜く場合はシビアに考える必要があります。数抜くなら、逆テーパーきつい部分から型が壊れることになるのですから。
 あとイベントによって、抜き屋さんが参加されてて出張相談みたいなことをやる場合があります。そういう機会があれば原型持ち込んで、いろいろ聞いてみるのも一つの手です。

 それと補足してますが、あくまでシリコン型への負担の少ない粘土埋めの位置、という視点での記事になってます。
 型への負担が少なさと、気泡の入りにくい配置とはイコールではありませんのでご注意下さい。
 気泡の抜けやすさは、斜めに傾けて適切に湯口を配置すればなんとかなるものですが、5mm以上あるような凸モールドが真上にあると、湯口を設けづらくて気泡が残りがちです。型への負担は少ないけど、気泡が入ってしまうケースです。こういう箇所には、あらかじめ0.5mmプラ板接着して薄いバリができるようにすると気泡が抜けやすくなります。

次回はいよいよメインディッシュ、粘土埋め実践編です。乞うご期待。

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