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OM式型取り複製覚え書き その11 How to 粘土埋め 基礎編

粘土埋めは複製の善し悪しを決める、とても大事な作業工程です。
長年のディーラー活動で学んだ、私なりのポイントを書いていきます。

1)ポイント箇条書き
・絶対にアンダーゲート配置、トップゲート不可
・大きな型に一まとめするのは危険
・斜めに傾けてパーツ配置
・複雑な形状なパーツを表にして粘土埋めする
・シリコンケチらず余裕ある配置を
・粘土埋めの前にパーツ並べて配置案検討
・一気にキャスト注ぐ工夫
・パーツの上部に湯だまり配置
・ダボを忘れずに入れること
・ランナーや湯口はあらかじめ粘土埋めしておく
・粘土に離型剤塗っておく
・原型は適度に分割・表面処理しておく

2)パーツ配置の基本 解説
2-1 絶対にアンダーゲート配置、トップゲートは不可

アンダーゲートの一例。

 アンダーゲートというのは、注ぎ口からランナーが一旦下まで降りてから、各パーツに繋いで、エア抜きの湯口を上向きに繋げる配置をいいます。
 トップゲートは、逆に直接パーツにキャストを注ぐ配置です。一見こちらのほうがシリコン少なくて済むと思う型取り初心者も多いかと思いますが、結論から言うと常圧注型の場合、気泡だらけの複製品になりがちです。
 髪の毛などの細かなパーツだとキャストが先端まで流れてくれません。ワンオフパーツのための複製ならともかく、イベント販売品目的なら常圧トップゲートは、避けるべきです。
 なお真空注型の場合なら、トップゲート配置は普通に有りです。
 ちなみに髪の毛などの細かなパーツは、アンダーゲートできちんと湯口を配置すれば、問題なく抜けます。

 アンダーゲートの配置の基本もう一つ。複数パーツを配置する場合は、メインの注ぎ口を真ん中に配置すること。要するにTの字をひっくり返した形のランナー配置がお勧めです。
 L字型のランナー配置は、複数のパーツがある場合はお勧めできません。なぜならば、注ぎ口から離れれば離れるほど、注型圧力が低下するので遠いパーツほど、失敗する確率が高まります。特に夏場は、キャストが行き渡る前に硬化が始まる危険があります。
 なので抜けにくそうなパーツは注型口に近い所に、シンプルで問題なく抜けるパーツは注型口から離れた場所に離れた所に配置します。
 また複数のパーツを繋げるように配置する場合は、小さく抜けにくいパーツを上に、大きくシンプルな形状のパーツを下に配置するように。これが逆だと、キャストが上までまわりにくくなりますので要注意。

2-2 大きな型に一まとめするのは危険
 初心者の型配置でよく見かけるパターンが、一つの大きな型に全部のパーツを詰め込むパターン。一見効率的に見えますが、これは幾つもの失敗が潜んでいます。
 まず、大きい型は輪ゴムで締めるだけだと、まずキャストがダダ漏れします。個人的な経験則としては、A4サイズを超えると確実にキャスト漏れます。
 もちろん、石こうバックアップ作ったり、当て木したり、ラップ巻いたりすればある程度はカバーできますが、バリに埋もれた羽根付き餃子みたいな複製品になりがちです。
 もう一つの罠が、一つだけ綺麗に抜けないパーツがあると、必要数の倍以上注型する可能性です。
 デカい型ゆえに1回のキャスト注型量も多くなるので、倍以上のキャストが必要になり、お財布を圧迫します。
 なおこのように抜けにくいパーツが発生した場合、早めに見切りを付けて、綺麗に抜けないパーツだけ、別のシリコン型で作り直した方が被害は最小限になります。ただし時間に余裕あればですが・・・。
 また夏場に多いのが、注いでいる途中に硬化が始まってしまうというパターン。漏斗を使って一気に注ぐ工夫をしたり、180秒キャストを使えば回避出来る可能性があります。
 そして何より致命傷なのが、シリコン代が余計にかかる点です。薄いパーツと分厚パーツ混在の型だと、薄いパーツの部分だけ余計にシリコンが必要になるのです。
 パーツの厚みや大きさで、ある程度型を分けるのがお勧めです。また髪の毛や指先など複雑な形状で、気泡が入りそうなパーツも、別の型にするとリスク軽減できます。

2-3 斜めに傾けてパーツ配置
 気をつけるのは、型の上辺とパーツの上面が平行になると、確実にパーツ上面に気泡が入ります。
 例えば三角形のパーツの底辺を上向きで、型枠上辺と平行に配置してしまうと、気泡は引っかかりやすくなるのです。そこで角が上になるように斜めに傾けて、なおかつ角部分に湯口を配置すると、気泡が入りにくくなります。

2-4 複雑な形状なパーツを表にして粘土埋めする
 複雑な形状=気泡が入りやすい部分になります。気泡を入れたくないパーツの面を、表にして粘土埋めして型作ること。
 パーツを縦方向に少し浮かせて粘土埋めすると、なお良しです。

頭部パーツを傾けて配置した例。こうすることで、鼻に気泡が入りにくくなります。

 キャスト注型時には、表側になる面が下になるように傾けて、トントン叩くことで、気泡が抜けやすくなります。

2-5 シリコンけちらず、余裕ある配置を
 シリコン代が値上がりしているこのご時世ですが、シリコンけちってパーツを詰め込んだ配置だと、上手く抜けなかった場合のリカバリーが効きません。パーツとパーツの間の間隔は1cmぐらい欲しい所。
 また、型の上下左右1cm程度の隙間を入れること。特に、下側が狭いとキャスト漏れにも繋がります。デカい型だと、下側は2cmから3cm程度の余裕が欲しい所です。
 あとシリコン流す厚みは、原型の高さにプラス1cmぐらい欲しい所です。ただし薄いパーツだからといって、薄すぎる型も歪みやすいので余り良くないです。型の厚みは、厚み1cm程度の小さなパーツでも3cmは欲しい所です(できたら4cm)。

2-6 粘土埋めの前にパーツ並べて配置案検討
 サイズが解りやすい、カッティングシートなどの上に原型パーツ並べて、配置案を検討しておくこと。これでざっくり型の面積が割り出せるので、シリコンの必要量が計算できます。
 型の面積×(原型パーツの最大厚プラス2)×1.2が、シリコンの必要量です。1.2はシリコンの比重になります。
 仮に縦20cm横10cm厚さ5cmの型の場合、20×10×5×1.2=1200gという事になります。
 ただし注意したいのは、この段階の数字はおおまかな概算なので、実際粘土埋めてみるとこれより大きいサイズになってしまう事もありえます。なので若干多めにシリコン入手しておくのが結構大事です。
 ちなみにキャストの必要量を見積もりは、原型の重さを参考値にします。あたらずとも遠からずという数字になるはずです。

2-7 一気にキャスト注ぐ工夫
 キャストの注ぎ口をあらかじめ太くしておくと、キャストが注ぎやすくなります。漏斗を使う場合は、漏斗と同径のプラ棒などを配置するといいです。場合によっては、漏斗の先端をカットして粘土埋めする手もあります。
 ちなみにうちの場合は、フィルムケースを開口したものをはめてます。同径の3cm径の円キャストパーツをあらかじめ粘土埋めします。

こんな感じでカットしたフィルムケースを差し込んで、一気にキャスト注いでます。

2-8 パーツの上部に湯だまり配置
 パーツの上部にプラ棒などで湯だまりを配置すると、多少キャストがもれてもある程度カバーできます。転ばぬ先の杖。
 なお複数のパーツを配置している場合は、湯だまりを一つにまとめるよりそれぞれのパーツに分けた方がいいと思います。
 湯だまりが複数のパーツに繋がっている場合、先に上まで到達したパーツのキャストが湯だまりから、他のパーツに上から注がれてしまい、気泡の発生に繋がる危険があると思ってます。

2-9 ダボを忘れずに入れること
 粘土の空いている部分にダボ打ちするのを忘れないこと。これは結構重要、ダボ入っていないと型ずれが起こりやすくなります。なるべくみっちりダボを入れるように。デザインナイフの軸の尻や、筆尻などを使うことが多いです。
 ウェーブのシリコンダボ、あるいは棚用の金属軸などを埋め込むのも一つの手です。

2-10 ランナーや湯口はあらかじめ粘土埋めしておく
 メインのランナーや、気泡逃しの湯口は、プラ材をあらかじめ粘土埋めしておくと、シリコンの節約にも繋がります。
 うちの場合メインのランナーは5mm角棒を使うことが多いですが、大きなパーツや型が大きい時は、5mm角棒二段重ねにして流量増やしてます。
 湯口はエバーグリーンの断面が長方形のプラ材があると便利。メインの湯口は2mm(場合によっては3.2mm)×6.3mmあたり、 細かな部分の湯口は1mm厚や0.5mm厚を使う事が多いです。湯口の断面は、正方形よりも長方形の方が加工しやすいのでお勧めです。
 またアルミ線などの金属線を粘土埋めして湯口にする人も居ます。アルミ線は曲げやすく、フレキシブルに湯口を配置できるのがポイントです。
 また気泡の発生箇所がピンと来ない場合は、テストショット後に追加で湯口掘る事を前提にするのも一つの手。テストショットで、気泡入った部分を参考に湯口追加します。この場合はあまりパーツを詰め込みすぎず、ダボの間に湯口を掘る場所を空けておくこと。

2-11 粘土に離型剤塗っておく
 粘土埋め終わったら、粘土に離型剤塗っておくとA面シリコン硬化後の、粘土剥がしが楽になるのでお勧め。特に使い古しの粘土を使うときに威力を発揮します。私の場合、粘土を平らに均してからブルーワックス塗って、粘土埋め終わったらクレオスのシリコンバリヤーを使う事が多いです

2-12 原型は適度に分割・表面処理しておく
 原型の分割や表面処理も忘れずに。
 分割の最大の目的は、逆テーパーを無くすことです。シリコン型なので、ある程度の逆テーパーは許容範囲内ですが、限度がありますので要注意です。最悪の場合、型が破損します。
 またキット製作時の作りやすさや、塗りやすさもある程度考慮するのも、ある意味(完成見本を作る)自分のためでもあります。ただし、分割をやりすぎると当然パーツ数も増えて、必要なシリコンやキャストが増えてしまので、ほどほどに。
 表面処理は、通常のパーツであれば600番程度まででいいと思います。ただしクリアレジン使うパーツであれば、1000番程度まで磨いた方がいいかな。
 あと注意したいのは、3Dプリンター出力品。積層痕をきっちり消さないと、あっという間に型に複製品が貼りついてしまい、型が逝きます。

参考 RC ベルグさんにより、3Dプリンター出力品に関する注意喚起記事。
https://www.rc-berg.co.jp/estimate.html

3)粘土埋めの解説
 私が過去に作った型の粘土埋め画像から、ポイントを解説していきます。

3-1 後ろ髪パーツ

① アンダーゲートのランナー。5mm角棒二段重ね。
②  型の上辺近くに5mm角棒で湯だまり配置。
③  髪の毛の先に各種プラ材で湯口配置。太い順に2mm×6.3mm、1mm厚、0.5mm厚。
④  注ぎ口。開口したフィルムケースをはめるための工夫。
⑤  粘土面にダボ打ち。大きいのはデザインナイフの柄で。小さいのは筆の柄。そこそこサイズの大きいパーツなので、下側に余裕もたせてます。
⑥  ボークスの型取りブロック。シリコン流す時には、追加で重ねます。
⑦  バットの上で粘土埋め。万が一シリコンが漏れても安全。
⑧  スパチュラとコテ。粘土を平らに均すのに使用。

後ろ髪のテストショットはこんな感じ。キャストに一気に注ぐ工夫と、適切な湯口配置で細かい後ろ髪もほぼ綺麗に抜けました。

3-2 左右の裾パーツ

⑨ パーツ上辺が型枠上面と平行にならないように、斜めに傾けて配置。
⑩  アンダーゲートで注型ランナーは5mm角棒二段重ね。
⑪ パーツに繋がる湯口断面は厚み3.2mmの長方形。湯口は正方形よりも長方形の方が、ニッパーなどでカットし易くなります。
湯口配置した面は、底面でモールドが入っていない所。そういう所に湯口を置くのがベスト。
⑫ 気泡逃しの湯口、気泡が抜けやすいように縦方向と横方向交互に配置。

テストショットは問題ないレベル。

3-3 1/12パンツァーファウスト

⑬ ウェーブのシリコンダボ。
⑭ 逆T字型アンダーゲート配置、5mm角棒。
⑮ 出っ張りのあるモールドに気泡が入りやすいので、あらかじめ0.5mm厚プラ材をブリッジつけて粘土埋め。
⑯ 斜め配置。
⑰ ダイヤブロックで組んだ枠。

若干バリもありますが、問題なく抜けてます。

とりあえず粘土埋めの基本はこんな感じでしょうか。理論編・実践編と続く予定です。

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