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ふありのリハビリ作品 act.7

Make a With(願い事)


※こちらの作品はマガジンを作成していますので、途中参加の方などは、そちらからも、よろしくお願いします。


#7、俺の女
 
 翌日、あたしは久しぶりに制服に着替え、飾音かざね高校に、登校した。花屋の角を曲がり、正面の校門が見えると前方から風帆かほが、駆けてきた。そう言えば、風帆からスマホに、何件もメールや通話があったけど、電源を切っていたので、面と向かって正直に話すため、履歴は全て消去していた。風帆はあたしの前に立つなり、バシッと頬を叩いた。
莉々那りりなの馬鹿!ずっと心配してたのに、無視して。ウチら親友じゃなかったの?」
そう言って、あたしの身体を抱きしめる。
「…ありがとう。勿論、親友だよ。みんな、全部話すから、お昼休みまで待っていて。話、長くなりそうだから…」
あたしも風帆を抱きしめて、そっと伝えると、うんという返事が返ってきた。
あたしたちは、手を繋いで直ぐ目の前の校門を目指して歩いていくと、女子生徒が沢山集まっていて、なにやらヒソヒソと話をしている。どうせ、騎士先輩か、ピュア王子のまれくんの登校を待っているのだろう。あたしと風帆は彼女らを無視して、早く教室に向かうべく女子生徒の渦を通り越していこうとした。
すると、右腕を力強く掴まれ、前のめりに倒れそうになる。
「おい、白雪…待て」
この声…騎士先輩?あたしが振り向くと、威厳を超えて、神様の後光のようにキラキラ眩しく君臨する騎士先輩が、居た。イケメン後光…。
「おい、聞いているのか?」
「は……い……?」
それは、肯定とも否定とも取れる不思議な返事だった。
「…はぁ。白雪、いいからこっちに来い」
そう言って、騎士先輩はあたしを懐に収めて、裏庭の方へ歩き出した。
『えーっ?騎士くん、誰その子?!』
『ちょっとぉ〜そこのアンタ!騎士に何したのよ?』
『ピュア王子のことさらっといて、今度は騎士様を誘惑するなんて、サイテー!』
女子生徒のざわつく中、あたしのこめかみに激痛が走った。あたしは恐る恐る痛む箇所を触れると、トロリと血が滲んでいた。
「…っ痛たたた」
「大丈夫か?保健…室」
騎士先輩が身を屈めて、あたしの傷にハンカチを当てる。
「消毒液が必要だな。このままだと菌で膿む可能性がある」
「馬鹿莉々那!ウチの気持ち知っといて、横槍なんてずるいよ!」
まさか…。
今の、風帆がやったの?
「…そこの女。お前が白雪に投げたのか?」
え?
すると、尖った砂利石の先端部に血の跡が付いているのに
嫌でも視線がいく。
「莉々那…もう親友でもなんでもないっ!」
その場で泣きじゃくる風帆に、トントンと肩を叩く、厳しい眸をした稀くん。
…なんかもうドロ沼だ。
「騎士先輩…昨晩の告白。お返事は断ろうと思っていましたが、お受けします」
女子生徒の驚嘆の叫び声が響く。あたしを罵るものが多数で、
『泥棒娘!』
と、女子生徒たちが全員で異を唱える。
「…勝手に言ってろ、それより白雪…保健室で手当だ」
「は、はいっ!」
あたしは騎士先輩に誘導されて、女子生徒たちの罵声を背にして校舎に向かった。
保健室で、騎士先輩に手当をうけて、あたしはとても複雑な気持ちだった。しょんぼりしていると、騎士先輩がポンポンと頭をたたく。
「…あの女、白雪の友人なのか?」
「…え?ああ、風帆、ですか?絶交されましたけど」
乾いた笑い声を含みながら、あたしはボソッと呟く。
「…すまない」
「え?」
騎士先輩が、ぶっきらぼうに、
「お前たちの仲を裂いたのは…辿れば俺の責任だ。悪かった」
と言うので、あたしはぷぷぷと吹き出してしまった。
「…すみません。ただ、先輩が謝るなんて…面白いなぁというか、可愛いなぁと思ってしまったんです」
「…なっ!俺が可愛い?」
「ほら、そういう風にうろたえて、少し頬が赤く染まるのも…可愛いですよ」
あたしは口元を両手で抑えながら言う。
「男の俺が、可愛いなんて言われて喜ぶかっ」
「騎士先輩の意外な一面を発見できて、嬉しいです」
あたしがニコニコ笑いながら、からかいすぎたかな?と、思いつつも、言う。
「あたしは、女嫌いの冷たい騎士先輩より、今の狼狽ろうばいしている姿の方がずっと好きです」
「ろ…。お前は本当に変わった女だな」
「そうですか?どこにでも居る女子高生ですよ〜」
髪を掻きながら笑うと、騎士先輩は、そうかもな、と呟き、
「白雪、ちょっと耳貸せ」
「…は?」
保健室のパイプ椅子に座るあたしの側で、騎士先輩がゴニョゴニョ言う。
「はい。構いませんよ。母もきっと喜びます」
騎士先輩はバツが悪そうに、ふいっと、あたしのそばを離れ、
「じゃあ、放課後、お前の教室に行くから待ってろ」
教室にか。女子が黙ってられないんだろうな。
「心配するな。お前は俺の女だから、ちゃんと護ってやる」
「あはは。そーでしたね」
背中で、冷や汗をダラダラかきながら取り作った笑みを浮かべ、騎士先輩が保健室から出て行くのを静かに見守った。
「…ごめんね。風帆」
あたしは、パイプ椅子の上で、両手で膝を抱え込み、涙を流した。


#8、邂逅、に続く


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