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午睡とピクニック #1碧とこゆり

碧SIDE

〜ショート・ショート〜


 ぼくは、ベッドに眠るこゆりを見つめ、朝食のプレートをサイドテーブルに置いた。
腰まで伸びた淡い琥珀色の髪が、ゆるやかにウェーブを描き、透明感のある白い肌は、やや病的でもある。白のキャミソールワンピースに、春色のピンクのストールを纏っている。
ぼくは、こゆりの肩に触れた。
「こゆり。朝だよ。朝食、作ってみたんだけど、食べない?」
 ぼくの発言に、こゆりはガサガサと身動きをして、薄っすらとひとみを開く。
「…あおちゃん、わたし…まだ眠いの…」
 今にも消え入りそうな細い声で呟くと、こゆりは再び眠ってしまった。
「あーあ。ぼくの彼女は眠り姫だな…」
 クスリと笑って、ぼくは、サイドテーブルのメモ帳にペンを走らせる。

”今日はモデルの仕事が長引きそうなので、帰りは遅くなるかも。夕食は家政婦さんが6時に持ってくるよ“

「行ってきます」

*****

ガサガサ ガサガサ
ベッドカバーを激しくゆすられ、ぼくは片目を開く。すると珍しく、こゆりが、
「あおちゃん、あおちゃん。凄いの!見て!」
と、弾んだ声で言う。昨日の撮影が朝方まで押し、ようやく帰宅してベッドに倒れ込んだのが、、良く覚えていないが、その時はまだこゆりも寝ていた。
 多分、それからまだ2 、3時間しか経過していないのだろう。ぼくはまぶたをこすり、こゆりに微笑む。
「おはよう、こゆり」
 彼女がこんなふうにはしゃいだ姿をするのは珍しい。いつもは、眠り姫だから。
「見てみて。すごい、お天気」
 すると、こゆりが華奢な身体に力を加え、寝室の遮光カーテンを開ける。
「うっ…わ…」
 窓から差し込む強い日差しに、ぼくは腕で光を遮り、眸を伏せる。
「ね?こんなに晴れたの、久しぶり」
「…そ…だね。公園に、ピクニックとか最適かな」
 ぼくは、日差しに慣れると、ベッドから降りて、窓辺に近づく。あとから、こゆりが声を弾ませる。
「素敵!あおちゃんは素敵なこと、何でも思いつくのね」
 ぼくは、あははと照れ笑いをして、こゆりの手を取り、引き寄せる。
「今日はこんな天気だからこゆりも元気なの?新しい君が見れて、ぼくは大発見だよ」
 琥珀色の彼女の髪を手ぐしで梳きながら、首を傾げる。
「我が儘なの。…わたしの。あおちゃんに連れてこられて来て、これからはずっと一緒だと思っていたら、モデルのお仕事に出掛けるでしょ。どこにいても…一人は嫌。でも…今日、目が覚めたら…隣のベッドにあおちゃんが居て。嬉しくて…。それに、お天気も良くて…嬉しくて…早くあおちゃんにも見てもらいたかったの」
 いじらしい彼女の姿に、ぼくは眠気もすっ飛び、早く用意をしないと、朝食とピクニックに持参するメニューを頭の中で考え巡らせた。

 朝食はトーストと、果物に、紅茶。
「本当にこれだけでお腹好かない?」
という問いに、こゆりはフローリングのダイニングで、ピンクの、花のコサージュスリッパを履いてくるくる舞い、落ち着きかない。
「いーの。公園で沢山食べるから。だから、沢山作ってね」
「はいはい。お姫様の仰せのままに」
 ぼくは苦笑しながら、サンドイッチ作りを始めた。ぼくは、これでも料理が好きだ。スマホの動画を参考に、色んな料理に挑戦する快感。モデルの、仕事上のストレスを、発散するのにも一役買っている。
「倉庫からバスケット、ほら、発掘したの」
 こゆりが、ぼくの姉の部屋に入り込んだのか。こゆりが今履いているコサージュスリッパも、素足でペタペタ歩くこゆりの、小さな足を保護するために、ぼくがカオス…いや、姉の部屋から発掘したものだ。
 ぼくがバスケットの中に、飲み物や、軽食を詰め込んでいる間、こゆりは部屋に戻り、いつもの白のキャミワンピースに着替え、ピンクのストールを羽織ってぼくのもとに来ると、
みどりさんや、甲斐かいくんも一緒だったらもっと楽しくなるのになぁ」
「い…や、あの二人が揃ったら、宴会騒ぎを起こしかねない。ぼくは、こゆりとふたりでピクニックを楽しみたいな」
 想像しただけでも、姉さんと甲斐が揃ったら、飲み物は紅茶ではなく、焼酎一升瓶に変化するし、軽食も刺し身や揚げ物などに化けるだろう。
 そんなの、絶対嫌だ。
「こゆり、みんなバスケットに詰め込んだから、ぼくは着替えてくるよ。大人しくしててね」
「…はーい」
 こゆりが返事をすると、バスケットの中身を確認している。ぼくは笑いを噛み殺しながら、部屋に入り、白いコットンのシャツと、空色のデニムパンツを履き、大きめのサングラスをシャツに引っ掛けた。メンズ雑誌のモデルをしているぼくは、出来るだけ正体をバラしたくない。
『何処にでも居そうな人』
 それが、休日のぼくのスタンスだ。
 ぼくは、再び部屋から出て、キッチンでお水を飲んでいるこゆりの、頭の上に口づけた。
「さ。行こう、こゆり」
 バスケットを受け取り、こゆりの手を握ると、気恥ずかしそうに微笑むこゆりと家の玄関を出た。
 今日は、とことんのんびり過ごそう。


《こゆりSIDEに続く》


ご拝読有難うございました。

※こちらの作品はnoteのクリエーター同士のコラボ作品となっています。

文     ふありの書斎

イラスト  月猫ゆめや様

月猫様、わたしの我儘な要求にも親切に受け入れて下さり、とても感謝しております。

また、コラボ作品が実現出来たら素敵だなと思っています。
心より有難うございました。


次作はこの、『午睡とピクニック』のこゆりSIDEになります。配信は明日の日時変更後となります。
読者の皆様、どうぞお楽しみにしていて下さい。月猫様の描いて下さった、儚げで可憐な、こゆりのお姿をご披露出来ますので。


それでは皆さま、また、こゆりSIDEでお会いしましょう。


ふありの書斎




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