午睡とピクニック #2こゆりと碧
こゆりSIDE
〜ショートショート〜
夢を見た。
碧ちゃんと出会った頃の夢。今も昔も、メンズモデル業界で、1、2を争うほど、容姿端麗なあおちゃんが、わたしを家に住まわせてくれたのが、去年の小雪が降る季節。
大好きな、スタイリストを辞め、目標を失ったわたしと一度だけお仕事をした、あおちゃん。駆け出しスタイリストのわたしは、先輩スタイリストからのパワハラに耐えきれず、結局退職をして、小さなアパートで廃人と化して、ずっと眠っていた。
そこに、あおちゃんが王子様みたいに、わたしを助け出してくれた。
あおちゃんはモデルさんだから、イケメンだし、長身痩躯。176cmの身長と…わたしの頭はあおちゃんの胸に届くかそこらで、外出をすると親子程の身長差にすこしガッカリする。
先程、あおちゃんが朝食に作ってくれた、トーストにはたっぷりのいちごジャムと、クリームが乗っていて、甘くて美味しい。あおちゃんはわたしを甘やかすことに、積極的だ。
マンションのすぐ側に大きな公園があって、わたしとあおちゃんは、休日は決まって公園で過ごす。
それに、今日はピクニック。わくわくが止まらない。
「こゆり、危ないっ!」
え?
わたしは、公園に流れる小川の積石の石垣を素足で歩いて考え事をしていた。びっくりしたのは、もう2、3歩で、急激に滝のように下降するため、石垣も突然途切れる。
「…あ、あ、あ!きやっ!」
「こゆり!」
バランスを崩したあたしは、そのまま芝の上に落ちるのだろうと覚悟した。
ズンッッ。
「あ…れ…?」
ギュッと、閉じた眸を開けると、息を切らしたあおちゃんが、お姫様抱っこをして支えてくれていた。
碧ちゃんは丁寧に丁寧にわたしを芝の上に立たせてくれて、息を吐く。
「こゆり、お願いだから危険な事はしないで。ぼくの心臓が持たないよ」
「…ごめんなさ…いいぃたぁあっ」
「今度はなに?!」
「あ、足が。芝で痛いの…ううぅ」
わたしが、鼻を啜りながら、言うと、あおちゃんが慌てて、
「ご、ごめんっ」
と、わたしを抱き上げ、レジャーシートを敷いた場所まで戻り、ピンクのキラキラしたラメのミュールを履かしてくれる。
「ねぇ、あおちゃん。フルーツサンドイッチも、渦巻きクッキーも、チョコバナナクレープも、唐揚げチキンも、タコさんウインナーも、みーんな美味しかった。でもね、あおちゃん、忘れてる。公園といえば…?」
「…空飛ぶブランコだったね」
あおちゃんが片手でキレイな顔を覆い、呟くので、わたしは良く出来ましたと、パチパチ拍手する。
「遊戯広場だよね、行こう」
わたしの王子様は融通が効く。
広場までは、途中アートスペースを通り、いくつものオブジェが飾ってあり、『芸術』にも疎いわたしにも、すごなぁと見つめてしまう。あおちゃんは、「…へえ」とか、「凄いな」とか、銅や、鉄、木材、ガラス、植物などのオブジェに興味を持ったみたい。
アートスペースを抜け、噴水広場に入ると、つめたい水だと思っていたら、生ぬるくて顔が歪んだ。美味しくない。
遊戯広場に着くと、あたしは、ところどころにサビの入ったピンクのブランコを見つけた。けれど…今は、幼稚園生ぐらいの、女の子二人組が、独占していた。
「…帰ろう、あおちゃん」
すっかりテンションが下がり、虚しい思いでいたら、あおちゃんが、これ持っててとバスケットをあたしに預け、ブランコに駆けていく。
あおちゃんは、ブランコで遊ぶ女の子たちに何か話しかけ、一度だけ、わたしの方を向き、指をさして、また話している。すると、女の子二人組は、ブランコを降り、すべり台の方へ走っていく。碧ちゃんは、わたしに手招きする。
「おいで、こゆり!」
あたしは、あおちゃんのもとに走ると、抱きついた。
「ありがと!あおちゃん!」
どう説得して、ブランコを譲ってもらったのかは分からないけど、それはともかく、わたしは、ガシャガシャと軋む音を聞きながら、
「あおちゃん、背中押してーーっ!」
と、叫び、あおちゃんの加勢で、わたしは右足で、土を思いっきり蹴った。
ふと、空を見上げると、綿あめみたいな、もくもくした雲が、のんびり広がっている。
「あおちゃん、ブランコって翼だと思うの」
「翼?」
今日みたいな日は、
「こうして動いていると、ふわ〜ふわ〜って、飛べそうな気持ちになるの。あのね、あおちゃんが、教えてくれたんだよ。空の青さがキレイなこと、道端の草花が健気なこと、みんなみんなあおちゃんが、教えてくれたの。それまでは、空を見上げる余裕さえ…無かったもの…」
当たり前の事が、鮮明に映る。それはまるで奇跡のようで、わたしの世界がぐるりと変わる。
なんて気持ちの良い、青空。
なんて気持ちいい、風。
なんて空も飛べそうな、ブランコ。
「ありがとう、あおちゃん」
あたしはこの日、今まで生きてきた中で、1番感謝の気持を、あおちゃんと空の神様に祈れた。
あおちゃんと出会えて、良かった。
完
ご拝読有難うございました。
文 ふありの書斎
イラスト 月猫ゆめや様
再び、こちらの作品もイラスト、絵師の月猫ゆめや様と、文、ふありの書斎でのコラボ作品であります。
儚く可憐なこゆりを、わたしのイメージ通りに描いて下さり、心から感謝しております。
月猫様、今作も本当に有難うございました。
また、再びコラボが実現出来ることを願っています。
読者の皆さま、ここまでお付き合い下さり有難うございました。
まだ、次作は未定ですが、お会いできるのを楽しみにしています。
ふありの書斎
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?