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「呪い」考

はじめに

メルカリ、他人を呪う”呪術”が多数販売で物議」(2023年1月19日 Yahoo!ニュース)
 呪術――いっぱんに、何かの道具(呪物)や文言(呪文)を介して目的を達成するために人々が行う儀式のことなどをさすこの言葉――が、「メルカリ」で販売されているらしい。「メルカリ」では中古の服、CDや本の他、ハンドメイド品などを販売しており、呪術はハンドメイド品などの名目での出品が確認されている。
 では、「呪い」は売買で成り立つものなのか? そもそも、「呪い」とは何なのか? 本記事では、その正体を映像メディアならびに文化の観点から考察していく。

「リング」(1998年)

 1998年公開の映画「リング」では、見たら1週間後に死ぬという呪いのビデオが登場する。浅川玲子(松嶋菜々子)はテレビ局のディレクターであり、都市伝説を調査する流れで呪いのビデオについて取材した。死亡した姪と呪いのビデオの関係を究明しようと調査を進めるなかで、当該呪いのビデオを視聴してしまい、元夫で超能力者の高山竜司(真田広之)に相談を持ちかける。呪いのビデオに映っていたのは山村貞子という女性であり、彼女は凄惨な殺され方をしていたことが明らかになっている。
「リング」では、呪いのビデオを視聴及びダビングすることで呪いが伝播することがわかっており、「ダビングして他人に見せる」「山村貞子の遺体を発見する」など、複数の呪いの解除方法が試されているがいずれも成功せず、呪いのビデオを目撃した人間は悉く死亡している。
 この作品での呪いの伝播方法は「視聴」であり、「1週間後に死亡する」というのが呪いの結果である。しかしながら当該呪いのビデオの映像内に、呪いの内容を示唆するものはなく、情報の受信方法も「人づて」に他ならない。呪いの発信側ではなく、受信側での思い込み(=このビデオを見たから自分は1週間後に確実に死亡する)が存在し、かつ「死亡するのではないか」という精神的不安が強い、ということに留意されたい。

チェーンメール(1970年代~)

「不幸の手紙」は、「この手紙と同じ文章であなたの友人に送らないと必ず不幸になる」といった悪意ある内容で流布したチェーンメールの一種である。
 都市ボーイズでは、「【閲覧注意】呪いは終わっていない!不幸の手紙は現代にも蔓延している!?【都市伝説】」にて、不幸の手紙について「50時間以内に29人に手紙を出さないといけない」と具体的な指示があったことも言及している。それについて岸本氏は「強制されることがすごく嫌だった」とコメントしている。本人たちは「偏見」としているが、アイスバケツチャレンジ(※ALSの研究を支援するため、バケツに入った氷水を頭からかぶる運動。主に芸能人の間でリレー形式的に流行した)についても、「同調圧力」と見解を示している。
 この場合における呪いは「不幸になる」という結果を伴い、それを防ぐためには「同じ文章を他人に送信する」という行為が必要になる。「リング」と同じく、「不幸になるのではないか」という強い精神的不安をあおっており、おそらくその目的は文章の拡散である。また、「○○さんから届いた」ということが「みんなも拡散しているから自分もしなければいけない」という「同調圧力」につながっているとも考えられる。

とあるホテルで見つけてしまった呪物

 LOLくりえいたーず。の動画、「【撮高:SS】とあるホテルで見つけてしまった呪物…それは確実に呪いの儀式の残骸だった…」では、LOLくりえいたーず。のメンバー、かわっち。氏が、ホテルの天井裏から「呪いの儀式の残骸」と思われるものを発見する。当該ホテルは視聴者からの紹介で訪れたといい、現在も経営中であるため、物件名は明かされていない。
 筆者の見解は次のとおりである。
・かわっち。氏が点検口を開けるということを知っている何者かがいる
・その何者かによって呪物が設置された
 ひとつずつ詳しく解説していこう。まず1つめ、「かわっち。氏が点検口を開けるということを知っている何者かがいる」ということはつまり、その何者かは、かわっち。氏のことをよく知るLOLくりえいたーず。の関係者または視聴者であるということ。2つめの点「その何者かによって呪物が設置された」とはつまり、かわっち。氏が点検口を開けることを見越したうえで、そこに呪物を設置した何者かがいるということを意味する。筆者は、「当該ホテルに泊まったことのある視聴者が、かわっち。氏が点検口を開けることを見越してそこに呪物を設置し、LOLくりえいたーず。のメンバーに呪いをかけた」と考えているのである。
 ではなぜ呪物を呪いたい対象(=LOLくりえいたーず。のメンバー)に見せるのか? それは、対象に「呪われた」という被害者意識を持たせるためではないかと筆者は考える。
 ここまでで紹介した「リング」、「不幸の手紙」でもそうであったが、「呪われた」(=死亡する、不幸になる)と意識するトリガーが必ずある。「リング」では「呪いのビデオを視聴する」ことで、「不幸の手紙」では「手紙を回さない」ことで「呪い」が発動する。LOLくりえいたーず。の例ではまさに、「呪物を見る」ことで「呪い」が発動したといえるだろう。

YouTube広告が抱える呪い

 YouTube広告はときどきフェミニズム界隈で話題になるが、本記事でも問題にしていこう。「呪い」と一見関係ないようにみえる広告が、いったいどんな魔術をはらんでいるのか?
「この期に及んで、まだ脱毛していない、平成3年から13年生まれのみなさん」……これは筆者が最近視聴した広告の文言である。「この期に及んで、まだ」と、脱毛を経験していない人に対しマイナスイメージを植え付けたうえ、「平成3年から13年生まれ」とターゲットを絞ることで、「同世代のみんながやっていることをまだやっていない、”ヤバい”わたしのために、この広告が出ている」と錯覚させる。YouTube広告が用いる魔術には、そういったトリックがある。
 さらに、ダイエットサプリの広告では、「ごめん、体重50kg以上ある女は無理」と女性が恋人に振られる、「罰ゲームはあのデブに告白」などと体型を揶揄されるなどの例が確認されている。こうして画面の前の女性たちは、「50kg以上あるって”ヤバい”のかな?」「デブってやっぱり、社会的地位が低いのかな?」と考えてしまうのである。
「この期に及んで、まだ脱毛していない、平成3年から13年生まれ」のわたしたちは、自分自身に”ヤバい”を感じさせられることによって、「脱毛しなきゃ」と自分自身に「呪い」をかけていく。さらに「50kg以上ある」わたしたちは、振られたり、罰ゲームにされたりする人をリアルに感じることによって、「やせなきゃ」と強迫観念を抱かずにはいられないのである。
「やせなきゃ振られる」とは、「動画を視聴すると死亡する」とした「リング」と同じタイプの呪いである。「みんなしてるから脱毛しなきゃ」は、「この手紙を回さないと不幸になる」と同類であり、こうして”ヤバい”を自発的に感じ取った視聴者が、「脱毛しなきゃ」「やせなきゃ」と焦ることは、「呪物」で狙い撃ちされたLOLくりえいたーず。と同じ「呪い」にかかっているといえるのである。

おわりに

 冒頭で触れた「メルカリ」での呪いの売買について、筆者の立場としては、「成り立たない」としたい。呪う人(販売者)と呪う人(購入者)だけでの関係では、そこに強い恨みが存在するのみで、「呪われた」という意識は発生しない。
 これは禁忌であるが、「メルカリ」での呪いの売買を成り立たせる方法があるとすればそれは、呪われる人が「メルカリ」での呪いの売買の取引画面を見ることである。自身を対象とした呪いの売買を目撃したとき、「呪われた」とは思わずとも、気分は悪くなるだろう。その後熱が出る、怪我をするなどの不幸が起これば、「あのとき呪われたからだ」と思わずにはいられない。呪いとはつまり、呪われた対象の「気のせい」であると筆者は結論づける。
 もちろん、都市ボーイズ・早瀬康広氏による「【実体験レポ】~呪いを飼う儀式~はやせ恐怖の体験【呪い】」などのように、「気のせい」では語りつくせない呪いもこの世には多数存在する。しかしながら、「気のせい」などのような心理的作用がオカルトの一端を担っていることは、否定できない事実である。

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