God's own country - 魂が息を吹きかえす時
素晴らしい映画でした。
私の個人的な覚書、つぶやきです。
2回観ただけなので、思い違いをしている個所があったらごめんなさい。
ネタバレ満載
未見の方は、どうぞご注意ください。
登場人物(ジョニー)
子供を育てている立場からすると、とんでもない野郎だな、と(笑)
初見では思いましたが、二度目からは彼のバックグラウンドを考えながら、違った目で見ることができました。
幼い頃にお母さんに置いて行かれてしまったジョニー。
10代の頃の友人は都会の大学に行ってしまって、ここでも置き去りに。
牧場では休みもなく、朝から晩までひたすらきつい労働が課せられていて
体の不自由な父親は厳しく、自分を認めてくれるわけではないし
祖母はまともな人間で世話になっているが、口うるさい。
少年時代は、寂しかったでしょうね。
荒涼とした自然の中、生まれたり死んでいったりする家畜達を眺めながら、育ってきたのでしょう。
心を温める要素はあったのだろうか?
だれかと、感情的な絆を育む経験もなく、大人になってしまった。
だから、性的な衝動も、乱暴に発散させるしかなく、恋愛の経験も恐らくない。
もしかしたら、キスもしたことないかもしれない。
(むしろ、キスなんかしてられるか、という感じですね)
労働して飲んで吐いて、乱暴にセックスするルーチンでは、遅かれ早かれ限界がくることは確実なルートです。
登場人物(ゲオルゲ)
ルーマニアからの移民であり、季節労働者のゲオルゲ。
彼はなぜこんなに忍耐強く、愛情深く、寛容なのでしょうか。
彼の生い立ちを知りたいと思う。
おかれた環境の中で、自分なりの心づかいを発揮して、すこしでも居心地よくする術を知ってる人。
もちろん、逞しく、頼もしい働き手でもあります。
羊や家畜への接し方が、とにかく優しい。
英語も堪能で、本当はそれなりに教養もあるのだと思うけど、移民として嫌がらせを受けることも。
多くのことを静かに堪えながら、仕事を転々としているようです。
細かいところですが、ジョニーのことを彼だけがきちんと「ジョン」と呼ぶのが好きです(笑)。
ふたりの関係性、羊との関係性
ジョニーはたぶん、最初からゲオルゲにザワッと来ていたはずですが、ゲオルゲが彼に惹かれる余地は、当初はなかったような気がします(無茶苦茶すぎて)。
でも、丘の上で過ごして数日後、ジョニーが彼と性行為をしようとして、乱暴に掴みかかってきたときに、彼は拒みませんでした。
2人きりの小屋の中で、息を殺すように過ごして、性的なストレスも限界、みたいな感じなのかな。。。
その後はしばらく何も起きず、数日様子を伺った後、
「変態だな」「ホモ野郎」とゲオルゲが言います。
大した合意もなく、泥まみれになって、強引にことに及んだあげく、その後はまたダンマリなジョニーに対する言葉。
きつめのワードじゃないかなと思うのですが、彼の口調は穏やかで、その言葉でジョニーをある意味許容したことがわかります。
結局は、その行為をきっかけとして、ふたりの距離は少しずつ縮まっていくことになった。
数日をかけたそのプロセスの描き方が、とても丁寧です。
その後は、ジョニーがどんどん恋におちていくのが、見ていてよくわかり、微笑ましい。
優しく触れ合い、はじめて口づけをして、まるごと抱き合って受け入れられる体験は、母親においていかれた後で、初めてのものだったに違いありません。
死産かと思われた子羊を、ゲオルゲが蘇生させる印象深いシーンがありましたが、ジョニーもまた、すべてにおいて限界まで窒息していたところを、ゲオルゲに優しく揺さぶられて息を吹きかえしたのです。
子羊の無垢さとは対極にあるようなジョニー。
けれども、彼もゲオルゲによって、奥深くにあるなにかを、呼び覚まされたのでしょう。
その目覚めた目で見れば、荒涼とした大地は美しく、壮大であり、自分はこんなところにいたのか、と初めて気付かされる。
そんな気づきをもたらしてくれたゲオルゲへの思いを、彼はもちろん成熟した言葉では表現できない。けれど、どうやら今までの誰ともちがう、という「感じ」は確実に受けている。
そして、抑えきれないような、はしゃぐような気持ちが、表情からも映像からも溢れ出していきます。
一刻もはやくふたりきりになりたくて、リビングから祖母を追い出すジョニー。
そのままいちゃつきたかったのに、優しく拒まれて、トレイラーに移動することになり、わかりやすく拗ねている彼を、ゲオルゲがそっと甘やかしてやって、次第に笑顔になっていく様子が愛おしいです。
良くも悪くも素直な子なんですね〜。
ゲオルゲがどの段階で「恋におちた」のかは、彼があまりにも献身的な人物なので、最初、ちょっとわかりにくい気がしたけれど、freak、fagottのくだりの辺りで、ジョニーのことを受け入れたような気がします。
丘から降りてきた後のジョニーへの視線は、柔らかく愛情深く変化しています。
でも、彼はジョニーが仕事や人生に責任をもてない限りは、ずっと一緒にいることはできないと知っているし、後にはそう告げます。
だから本気ではないということではなく、ただ現実を理解しているんですね。
事件が起き、自分と向き合う
父親が発作で倒れたあと、牧場の命運は更にジョニーにのしかかります。
父を失う不安と重責に、怯えるジョニー。
ゲオルゲに傍にいてほしいし、彼さえいれば何とかなるような気になっていますが、その彼にも現実を見るように言われる(当然のことなんですけどね…)。
そして、いつもの痛飲と、相手を選ばないセックスへの逃避。
魔が差したというのか
だが、今度こそ、ジョニーはそのために大切なものを失ってしまったことを、痛感するのです。
ゲオルゲが出ていってしまった。
その空白に、彼の存在の大きさと、与えてくれていたものを、初めて実感するジョニー…。
少し前に、もうひとつ印象深い子羊のシーンがありました。
ゲオルゲが、死産した子羊の皮をはいで、先に蘇生させた子羊に、ベストのように着せてやるのです。
これは、ジョニーがゲオルゲが置いていったセーターを素肌にかぶるシーンとリンクしていますね。
温かい皮をかぶせてもらった子羊は、初めて自分からよちよちと歩いていき、母親の乳を飲むことができた。
ゲオルゲのセーターに包まれたジョニーにもまた、自立(自律)に向けて、変化が起きはじめるのです。
人が変わったように、働き始めるジョニー。
父親の介護をし、(明らかに向いていなさそうな)経理の仕事をする彼に、祖母も無理をしないように言います。
「俺は耐えられる」
「父さんみたいに?」
ジョニーは、牧場の仕事に耐えられる、というつもりだったのでしょう。
でも、祖母は、愛した人が去った後の孤独には?と伝えたように感じました。
それは、きっとジョニーの心を抉ったことでしょう。
父と祖母に背中を押され、自分の心と向き合うジョニーの表情は、冒頭と全く違っています。
変わりたい。
ゲオルゲを取り戻したい。
一緒にいたら、変わっていける気がする。
一緒にいたい。
悪い結末は考えたくない。
会いさえすれば、何か変わるかもしれない。
そんな感じでしょうか。
まだよちよちだけれど、ジョニーの精一杯が感じられます。
遠くスコットランドまで、彼はゲオルゲに会いに行きました。
まだ怒っている様子のゲオルゲ。
静かに、でも取り付く島もない反応しかかえってきません。
ジョニーからも、愛してる、や、ごめん、という言葉は出てきません。
もう駄目なのかな、と思ったとき、ジョニーが殻を破って、精一杯の気持ちを伝えます。
「変わろうと努力してるんだ」
「お前と一緒にいたい。」
ここは、言葉以上に視線や表情で、雄弁な気持ちを伝えてくる、本当に素晴らしいシーンでした。
ゲオルゲはいつかのように、freak、fagott、という言葉で、静かにジョニーを罵倒します。
ジョニーはその言葉で、許されたことを察するのです。
口づけされ、抱き合った彼の表情は、安堵に満ちていて、涙が一筋流れていきます。
希望を感じさせるラストシーンへ
ラストシーン、二人はサクスビー家に帰ってドアを閉めました。
この後、ふたりはどうなるのでしょう?
希望的観測という名の妄想をあげれば(笑)
息子、孫がゲイであり、恋人とともに帰ってくることを受け入れるのは、少なからず衝撃であるはずですが、父と祖母は受け入れるでしょう。
なんといっても、ゲオルゲは素晴らしい働き手だし、ジョニーによい影響を与えてくれるし、ジョニーは変わっていったから。
家族は結局は子が幸せであることを望むものだからです。
それに、牧場もサクスビー家も、これ以上は落ち込めない、選択の余地がないところにあったわけですから…。
親父のやり方じゃない、自分のやり方で牧場をやっていく、と言っていたジョニーですが、そのひとつとして、多分羊のチーズがあるでしょう。
製造方法はゲオルゲが教えてくれます。
この先、夏の青草が香るヨークシャーの丘で、頼もしく愛しい人を隣に、彼らは昔ながらの、またある部分は新しいやり方で、労働を続けていくのでしょう。
いつも賢明に、時に苦々しく、静かに運命に耐えていたようなゲオルゲにも、新しい人生が始まるのでしょう。
人が愛に触れて、変化していく様子
人と自然の厳しく無骨な美しさ
無垢な子羊たち
厳しさの底には子供を思う気持ちのある家族
この「神の恵みの地」で、まさに神の恵みのように、若者の人生が救われ、開けていく
本当に素晴らしい映画、美しいラブ・ストーリーでした。
台詞もBGMもとても少ないかわりに、映像や役者さんの表情、眼差しが、地の文みたいにすごく多くのことを伝えてくれます。
本当によかったから、多くの方に観てほしい。
ふたりとサクスビー家に幸あれ!
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