盗賊Nの戯れ
嘘つきが泥棒の始まりと言うのなら、私は盗賊といったところだろうか。今日も罪を重ねてしまった。コンビニで、カフェで、書店で。
「ポイントカードはお持ちでしょうか?」
「忘れました」
実は持っているが、カードを探す工程を入れるとリズムが悪くなるので持っていないテイを装う。リズムを崩してまで貯めたポイントでもらえるのはシールくらいだろう。
この事を友人に話すと、ポイントで家を買ったと激白され、私は暫し呼吸を忘れた。これまで捨ててきたポイントで外車や別荘……星や概念なんかも買えたかもしれない。呆然とする私にこれから貯めれば大丈夫と友人は笑った。
今日こそカードを出すと意気込んでレジに並ぶ。店員が商品のバーコードを読み取り、そろそろカードの有無を聞かれる頃だと身構える。
「ポイントカードはお持ちでしょうか?」
「忘れました」
挨拶のように発していた言葉に上がる口角。私が家を入手するには盗賊になった方が早いのかもしれない。
〈追記〉
キングさんがこのインスタントフィクションの解釈をしてくれました。とても面白い解釈になっています。ぜひ聴いてみてください!
https://stand.fm/episodes/6370f61afd05b2c4d27d498b
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