短編小説 「金縛りクソジジイ」

「うううぅうー」
 午前0時に寝た俺は金縛りによって午前2時ごろに起こされた。体が全く動かない。目も開けることができない。なんとか抗おうと体を動かせとマニュアルで指令を送った。数秒抗いなんとか体の硬直が解けた。
 ゆっくり目を開ける。目の前には60代くらいだろうか、白髪でメガネの男性のおじさんが僕の上に跨って座っていた。
 まず、俺の中に生まれた感情は、恐怖ではなく純粋な怒りだった。その怒りの温度は覚醒の度合いと比例して上昇していった。
俺は跨っているジジイにこう言ってやった。
「なにしとんだぁ、ゴルラァー!」
 ジジイはびっくりしたのか、声を上げながら僕の上で後退りしやがった。
 「うあぁー!!!」
 「お前さー、まずだれだ、名を名乗れ」
 「あっ、あ、はい、田中和夫65歳、幽霊です」
 「だろうな、鍵閉めてるから人間は入ってこれねーからな!」
 許せなかった。死んでるやつが俺の眠りを妨害してくるということが。
 「お前、今何してた?」
 「はいっ、あのーえーっと、とても言いづらいんですけど、、、そうですねあのー」
 「早く言え」
 「えーっと、はい、首を少々締めさせていただきました。」
 「少々?正直に言ってくれ」
 「えーと、少し強めでした」
 「そうだよなぁ!」
 リビングに木製バットとカラーバットがあるのを思い出した。僕は無言で立ち上がり、カラーバットを手に取った。ジジイは項垂れていた。確認のために後ろから思いっきり後頭部を目掛けカラーバットを振った。結果は空振りだった。
 「お前、本当に幽霊なんだな」
 「え?さっき言ったじゃないですか」
 「いやー幽霊って本当にいるもんなんだな」
 「そりゃーいっぱいいますよー」
 「なんか、今って少子高齢化とか言われてるでしょ?」
 「ああ、そうだな」
 「人がいっぱい死んでるんで、幽霊人口はすごく増えてるんです」
 なんかもっともらしいことを言っているので普通にスルーするところだった。
 「は?なんだよ幽霊人口って」
 「まあいいや、それでなんで俺にこんなことをしたのか説明してもらおうか」
 「はい、実はアルバイトなんです」
 何を言っているのか分からなかった。幽霊がアルバイトをする?ということは正社員で働いたりするのか?まあもう少し話を聞いてみるとしよう。
 「幽霊ってアルバイトするのか?」
 「もちろん、あります。金縛りのバイトは結構時給いいんです」
 「時給いくらだ?」
 「60ジメジメです」
 「んーそれは日本円に換算するといくらだ?」
 「人間界と霊界では為替取引が行われていないので換算しようがないですね」
 「へーそうなんだ」
 俺は幽霊と普通に世間話をしていることに違和感を感じていなかった。金縛りに対する怒りも少し収まってきた。
 「あのさもう、金縛りぜったいやるなよ」
 「あ、はいそれはもちろんです。人間の方にバレてしまった場合は、今後一切その方に金縛りを仕掛けることを法律で禁止されています」
 「あ、霊界って法治国家なんだ」
 「そうですね、一応」
 「では、本日は貴方様にバレてしまったので誓約書を書かせていただきます」
 「印鑑はございますか?」
 「あるけど」
 「シャチハタは不可です」
 「なんかきっちりしてるんだな」
 あまりにもジジイがしっかりしているのでしっかりと俺も対応しないといけないと思った。ヤツは懐から封筒を取り出し、一枚の紙を俺に渡してきた。
 「ここに署名とハンコをお願いします」
 「ああ」
 「で、今日の給料は大丈夫なのか?バレたけど」
 「いやーそれがバレた時は給料カットなんですよ」
ジジイは悲しそうに俺に言いた。
 「そうなんか、なんかすまんな」
 「いえいえ貴方様は何もわるくないんですよ」
 「バイトはうまくやれてんのか?」
 「いや、それが負け続きなんです」
 「負け?」
 「ええ、バイトとはいいましたけどギャンブルみたいなもんです」
 「依存症とか?」
 「まあそうですね」
 「もう私死んだ方がいいんですかね」
 「いや、死んでるだろ」
 「そうですね」
 ジジイの体が透けてきた。お迎えがきたようだ。自分で歩いて帰れよと思った。
 「さあ、参りますよ」
 「は?」
 また、ジジイが訳のわからないことを言い出した。いったいどこに行くというのだ。
 「霊界に行きます」
 「首を強く絞めすぎて、貴方様は死んでしまわれました」
 

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