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曽爾高原でスマホを壊した話

奈良県曽爾村にある曽爾高原に行った時の話。

約60kmの道のりを原付で走った。

太陽が出ていなかったこともあり、とにかく寒かった。
手の寒さは何となく予想していた。
問題だったのは足首である。短い靴下を履いてきたせいで、冷たい風がズボンと靴下の隙間をこれまでもかという程にいじめ抜いた。

1時間ほど走るとかなり山道になり、人気が無くなった。
これは原付旅の1つの魅力でもある。前にも後ろにも車はおらず、快適にドライブを楽しめる。

そんなこんなで曽爾高原に到着。
着いたは着いたが寒すぎてあまり頭が回らなかった。

高原に続く坂道を登る。

坂道を登りきった時、曽爾高原の大パノラマが広がった。季節によって色が変わる曽爾高原。
夏は一面緑だが、今は冬ということで無数のススキが黄色がかっていた。

黄色一色の高原を見た時、寒さが吹っ切れて心が舞い上がった。
都会に住んでいたら絶対に見ることの出来ない景色。素晴らしい。

下から見る景色も悪くないが、曽爾高原は登山ができるのも魅力だ。

登山といっても、整備されていそうでされてないような階段を登るだけだが。
階段を登り始めると、とにかく下がぬかるんでいた。前日は雨だったのだろうか。

20分ほど登り、ようやく頂上に着いた。
すると、こんなタイミングある?という程のベストタイミングで曇っていた空が晴れ出した。

黄色いススキが太陽の光に照らされ、黄金に輝き出した。あの景色は忘れられない。

下山しようかと思っていると、今いる場所からさらに登山できるルートがあることを知った。どうやら、山頂は倶留尊山という日本三百名山らしく、せっかくならということで、登山を再開した。

倶留尊山までの道のりはかなり険しく、岩という岩を乗り継いで登った。そして、雪が積もっていたため、滑らないように慎重に登った。

30分ほど登りようやく山頂にたどり着いた。
道のりが険しかったこともあり、かなりの達成感だった。

奈良の山々を堪能し、清々しい気持ちで下山を開始したのだが、ここからが悲劇の始まりだった。

まず、下山を開始して数分後、雪で足を滑らせ、思いっきり尻もちを着いた。心臓がキュッとなったが、背負っていたカバンが何とか衝撃を防いでくれた。

「焦るがな」と独り言をつぶやいた。好きな音楽を聴いて気持ちを落ち着かせる。

そしてまた下山を開始した。すると、今度は音楽が急に止まった。

「ん?電話か?」

カバンに入れていたスマホを取り出し、画面を覗くと、
真っ暗な画面に白いリンゴマークがぽつん。

「おいおいちょっと待ってくれ」

電源ボタンを何度も押すが何も反応しない。

さっき滑った時の衝撃で潰れたのだろう。

田舎の雪山で1人スマホなし。

「今まで撮った写真もSNSも全部消えるやん。ていうかマップないのにどうやって帰んねん」

さすがの猿も頭を抱えた。

とにかく、まずはこの雪山を脱出しなければいけない。
そう自分に言い聞かせ、重い足を動かす。

こういう時、人間はいかにポジティブでいられるかが大切である。

「帰り道は看板見て何となくで帰れるやろ。」

「写真は戻らないが、たしか北川景子は過去を振り返らないとか言うてたな、そういう生き方をすればええねん」

どうにか自分を励まそうと独り言を呟く。

ようやく高原の頂上まで戻ってきた。

そして、再び階段を下る時、高原を見ると夕日が黄金のススキを演出していた。

しかし、猿はそれどころではない。頭の中はスマホのことでいっぱいだった。

この景色よりもスマホを気にかけている自分に少しショックだった。

階段を下りきり、駐車場に向かっていると、イキイキと黄金に輝くススキが猿を包んだ。

なんだか背中を押されているような、やはり自然の力はすごいと実感した話。






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